前回お話したとおり、当時、修は正真正銘の自動車メーカーの社員なのだが、4輪駆動というクルマのことがわからなかったと、恥じることなく自伝で告白している。「クルマなら車輪が4つあるのだからみな4輪駆動だと思っていた。2輪駆動というのはオートバイのことだと…」(注:2輪駆動のオートバイもありません!)
でも、その4輪駆動車が傾斜のきつい富士山をトコトコ登る8ミリ映像を見たことで、「4輪駆動車というのはすごいものだ!」と、まるで子供のように無邪気な気持ちで感動したというのだ。
その気持ちが即座に「ビジネスチャンスだ!」ととらえるところに、修の非凡さが光る。
「これからはレジャーブームが来る!」そんな予感が電流のようにからだを走ったかもしれない。
だが、当時のスズキの技術陣は何やら危うさを感じ取っていたようだ。そもそも軽自動車の本格4WDは存在しなかったのだから、理詰めでモノを考える人と修の価値観が合致するわけがない。
修は、技術陣の反対を押し切るカタチで、このクルマの製造権を買い取り、大幅な設計変更を加え、市販することにしたのだ。もちろん、製品として煮詰める段階では、修は技術陣の考えを取り入れたに違いない。
ドライブトレインは前後が強靭さを誇るリジッドサスペンション、16インチホイール、2速タイプのトランスファーなどJEEP同様の本格的なメカニズム構成。キャリイ用の2サイクル2気筒360㏄エンジンとトランスミッションを組み合わせた。こうして軽く、走破性の高い、スタイリングも魅力的な4輪駆動を仕立て上げた。ネーミングは「ジープのミニ」ということで『ジムニー』としたのである。かつて修は、「チョイノリ」というバイクを命名したことがある。このときは成功とは言えなかったが、『ジムニー』は、成功したから、そう感じるのかもしれないが、よくできたネーミングだ。