文筆業というのは、実に厄介なものだ。
先日、バスの単行本を半年かけてようやく書き上げ、胸をなでおろし、何の気なしに資料をあれこれあさっていたら、大きなミスをしでかしていたことに気付いた。出来上がった本を手に取ると、約束したかのように、なぜか2つ3つ誤植が目に飛び込んでくる。今回、臍(ほぞ)をかんだのは、それだけではなかった。古い資料の中に「日本初のガソリンエンジンのバス誕生」の話があったからだ。
日本初のバスといえば、明治36年(1903年)の「二井商会の京都の乗合自動車」と馬鹿の一つ覚えをしていたら、これは蒸気エンジンのバスで、ガソリンエンジンのバスは別にあった!
当時京橋で自転車販売と自動車の修理をしていた「オートモビル商会」が、1905年に12人乗りの乗合自動車を改造して、広島のバス営業をもくろむ業者に販売していた。エンジンは、オートモビル商会の社長の吉田真太郎(1877~1908年)がアメリカで買い求めた水平対向2気筒ガソリンエンジンで、ボディは名古屋のボディメーカーに依頼。もともと鉄道車両の欅(けやき)製のボディは、重く、これに耐えられるタイヤが当時は見つからず、担当エンジニアの内山駒之助もお手上げとなり、ついにバス営業は取りやめになったという。日本のゴム工業ができるずっとずつと前のお話とはいえ、実に人間味ある物語。この歴史的事実が抜け落ちていたのである! あとの祭り、とはこのことだ。
欧州と中国などでは、いまや化石燃料エンジン車はつくらない、これからは電気自動車だ!
そんな声が世界中を駆け巡るなか、先日、マツダのCEOなどの記者会見は「いやいや、うちは電動化も進めますが、エンジン付き車両の開発を進めます」として「現在の第2世代のディーゼルエンジンの性能を高める研究をして2010年以降には発表します!」という。
しかも、マツダが長く研究し、何度も失敗と成功を繰り返してきたピュアなロータリーエンジン(RE)車も「時期は明確にできませんが、鋭意努力しています!」という。こうしてみると、やはり自動車メーカーは、いつの時代でも“夢”をカタチにするビジネス、モノづくり企業ではないかと思う。エンジンが大好きな社員にもきちんと応えてあげる必要もあるわけだ。
面白いのは、「2020年までに、小型ロータリーエンジンを載せたレンジエクステンダーの電気自動車(EV)を発売する」という。これは、数年ほど前、横浜研究所で、ほんの少し試作車に試乗させてもらった(車両はデミオ)で、コンパクトな1ローターのREを後部に載せ、電気がなくなった時点で、このREが稼働して電気をつくり、電気で車輪を回転させる。
ちなみに、マツダは2030年には、95%がハイブリッド車あるいはEVが占め、残り5%がREを含めた化石エンジン車を売るという。
「子供のころにこんなイベントがあったらな~っ!」
思わず、そんな思いが込み上げてきた。先日、パシフィコ横浜でおこなわれた小学生のための「キッズエンジニア」。その続きである。
スズキのブースでは、小学生がホンモノのスクーター「チョイノリ」のエンジンに向かって、工具を手にオーバーホールの挑戦! 2003年デビューだから少し古いけど、偽物でも樹脂製でもない本物の空冷式4サイクル単気筒エンジンだ。手作りの木枠の上に置かれたエンジンは、本物だけが醸し出す威厳がある! M8とM10(単位は㎜)の2つのT型レンチを片手に、ひとつずつエンジンを構成している部品を取り外していくのだ。
もちろん、バラして終わりではない。組み上げて終わりなので、バラすとき、「どんなふうに組み付けられていたか?」を常に頭に描きながら、バラしていく。もちろん、この作業はインストラクターの説明と懇切丁寧なB5版の全28ページのマニュアル(総ルビ付き!:写真)があるのだ。
このマニュアルは、「エンジンの基本」から始まり、「エンジンの分解」「エンジンの組み立て」と続き、「キッズエンジニア認定試験」で終わる。そのなかで一番しびれるのが、「エンジニアの心得」。「工具は大切に扱うべし」から始まり、「けがに気をつけるべし」「部品をなくさないようにするべし」「わからなくなったときは、すぐに何でも聞くべし」などと続く。でも、「心得」など、たぶんどの子も心に留めていない。目の前にあるホンマ物のエンジンをとにかくばらしたい! その気持ちが強いからだ。工具を失くした、擦り傷をしてしまった……そんな失敗を通して「心得」を読み返し、「なるほど、そうかな」と思うものだ。こう考えると、工具でエンジンをバラすのは、人生のすべてが詰まっている、そんな感じもしてくる。
「子供のころにこんなイベントがあったらな~っ!」
思わず、そんな思いが込み上げてきた。先日、パシフィコ横浜でおこなわれた小学生のための「キッズエンジニア」である。日ごろ、次世代型車両や新しい自動車部品などを研究開発している大人のエンジニアたちが、子供のために自動車のメカニズムをやさしく説明したり、科学する喜びを体験してもらおうと様々に工夫を凝らしたイベントだ。
そのひとつに『ファンビークル:クルマの仕組みを体験しよう』(本田技研が担当)というプログラムがあったのだ。クルマといっても、写真でもわかるように一人乗りのレーシングカートだ。F1マシンのミニマム版! いまにも、音速でサーキットを駆け抜ける、そんな思いに子供心を掻き立てるマシンである!
実際には、電動アシスト自転車の電池を使った歩くほどの速度しか出ないマシンなのだが、子供のココロには突き刺さるフォルムだ。
しかも、このマシンのタイヤとサスペンションを4人一組で、子供たちの手で交換するのだ。
柔らかいタイヤとサスペンション、逆に硬いタイヤと硬いサスペンション。この2つの部品(といっても1台に各4個だから、トータル8個)を交換して、乗り心地を味わう! というものだ。生まれて初めて工具を持ち作業する様子は、初々しくて新鮮だ。
コースの途中に突起を設けいているので、乗り味はすぐわかる! 「タイヤとサスペンションを替えただけなのに、ガタガタしていたのが、スイスイいくようになり、僕びっくりしたよ!」そんな黄色い声で、自動車評論家真っ青な鋭い感想を述べた坊やもいた。ちなみに、女子の小学生は、おしなべて運転が上手だった。たぶんこれは、ふだん運転するお父さんの横で、ドライビングを観察しているからだと感じた。
「僕の妹とだいたい同じ重さなので、26㎏だと思います!」
小学3年生ぐらいの坊やが、鉄の塊、「トルセン」というクルマの部品を手にして、重さを推し測って思わず口から飛び出した言葉だ。なんだか坊やのファミリーシーンが目に浮かんでくる一言だ。
パシフィコ横浜でおこなわれた「キッズ・エンジニア」は、小学生のための自動車セミナーである。これはそのイチ光景。
30分前、樹脂製の「トルセン」が机の上にあり、「これをバラして、組み立ててください。組み立てるときのことを考え、途中メモしながら、分解するといいね」そんな紙切れ一枚を、頼りに樹脂製のトルセンをバラしていく。横には、お父さんかお母さんが熱いまなざしでアシストしている。ジェイテクトという自動車部品会社のセミナーだ。そもそも、「トルセン」とは、トルクセンシングLSD(リミティド・スリップ・デフ)のこと。リア駆動のスポーツカーのリアデフに使われる。高速コーナリングや悪路走破性の限界性能を高め、高次元のドライバビリティ(運転性能)を可能とする! というとますます分かりづらいが‥‥。
そんな大人ですら理解困難な自動車部品を樹脂製のフェイク部品とはいえ、バラして、組み立てる。最後に、本物の「トルセン」を子供に持たせて、その重さを体感させる。実際には6.5㎏なのだが、現代生活のなかでは大人ですら重さを推し測る機会が少ないため、かなりスリリングで非日常空間。
こうした体験が月に1度ぐらいでもあれば、たぶん子供の心に科学の波紋が広がるんだろうな。そんな思いを強く抱いた。
2万点とも3万点ともいわれる自動車部品のなかで、「一番シーラカンスしているのがバッテリー!」なんて、鼻を膨らませて知ったかぶりを決め込んでいた。クルマの歴史100年、クルマの蓄電池は、重いイメージの、鉛バッテリーというスタイルを固持しているからだ。
ところが、いわゆるエコカーやHV(ハイブリッド)カーのバッテリーを調べてみて、たまげた。
鉛バッテリーであるには違いないが、燃費優先のクルマの在り方の大変革のおかげで、鉛バッテリーが大きく進化を遂げていたのだ。
とくにアイドリングストップするクルマでは、耐久性が飛躍的に高まった。アイドリングの最中には、エンジンがかかっていないのでオルタネーター(発電機)が稼働しない。バッテリーは充電されない状態。だから、オルタネーターが動いている貴重なタイミングに、どんどんバッテリー電気を送り込む(充電)をさせなきゃ! ということで、電気の受け入れ特性をがんと高めたバッテリーに大変身させたのである。どんなふうに受け入れやすくしたのかと技術者に聞くと、「極板などに入れる鼻薬、と呼ばれる微量な物質のチューニングです」と、すげない返事が返ってくる。電気と化学の世界なのである。
バッテリーの規格もかなり変化している。たとえば、トヨタのハイブリッドカーには、ENJという新タイプのバッテリーが採用されている。これは欧州統一規格EN(ユアロピアン・ノーム)にジャパンのJを付け加えたもの。プラスマイナスの端子が、本体上面とほぼ同じの、欧州タイプ(従来のJISは端子がポコッと出ているタイプ)で、日本は、欧州より使用環境(気温)が高いので、液量を増やし、液枯れによるバッテリーの寿命短縮を防いでいる。
一級整備士に聞くと「バッテリートラブルは昔とあまり変わらない頻度で起きています。ただ、バッテリーの値段が1万~5万円と高くなった点。密閉式なので専用の充電器を使うのですが、やや高めの電圧で、注入電流を小さくし、ガスの発生を抑えながら行います」とのことだ。
日本の乗用車の燃費表示は、JC08モードから、WLTCモードへと切り替わる。今年10月からだが、すでに先日新登場したジムニーなどは一足先にこのWLTCモードの表示をし始めている。大昔から振り返ると、60㎞定速走行燃費から始まり、10モード燃費、10・15モード、JC08モード、そして今回のWLTCモードで第5代目の燃費モードになったわけだ。
WLTCという4文字のアルファベットは、「ワールドワイド・ハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル」略。無理やり意訳すると、「世界標準の軽量自動車の試験サイクル」となろうか。
市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間配分で構成した国際的な走行モード。市街地モードは、信号や渋滞などの影響を受ける比較的低速な走行を想定。郊外モードは信号や渋滞などの影響をあまり受けない走行を想定。高速道路モードは、高速道路での走行を想定。この3つの走行モードのほかに、これらを総合したWLTCモードの合計4つの燃費データを表示することで、ユーザーはクルマの使い方に合わせた実際の燃費をイメージしやすいというメリットがあるいう。
たとえば、新型ジムニー5MTの市街地モードが14.6㎞/l、郊外モード17.5㎞/l、高速道路モード16.5㎞/l、そして総合のWLTCモードでは16.2㎞/lという燃費データである。
燃費についてもデータがより細かくなることで、ユーザーはクルマ選びの知恵袋が増えたことになるのか、はたまたよりエコラン指向に走るのか? 逆に「ややこしいから考えたくない!」として燃費など気にしない層が増えるのか? 緻密となった燃費データがユーザーにどんな影響を与えるのか、今後も気にかけて取材していきたい。
エンジンを元気よく動かすうえで欠かせないクルマの電気部品の消耗も激しいという。
スターターとオルタネーターには、ブラシなどの摺動部分があるし、ギア部分の摩耗にも気を配る必要がある。そこで、4名の専従整備士を置き、電装部品の分解整備を日々行っている。工房の隅には、テスターがあり、組み上がった電装品を全品テストしていた。
その隣では、床の張替え作業をしていた。
床の張替え、といっても東北などで見られた路線バスの床の鉄板が融雪剤で腐食し、穴が開き、当て金(鋼板)をあてるというリストア的修理ではない。ロンリウムと呼ばれる樹脂のフロア材と床の鉄板のあいだにしつらえた約15ミリ厚の合板。これが経年劣化で腐り床がボコボコになっているのを修復していた。「いわゆるフロアの床材が腐るというものです。乗客が雨の日に持ち込んだ雨水が、上部の床材であるロンリウムの隙間から侵入し、やがて内部の合板が腐るのです」(木下工場長)ロンリウムは樹脂なので、夏場と冬場で伸び縮みして、月日が経つと隙間が生じ、そこに水が侵入するのだ。一番下の鉄を錆びさせるまでには至らない。とくに都営バスは前乗り、後ろ降りなので、入り口部分と中間扉の周辺の合板が腐りやすいとのことだ。
驚いたのは、シートの清掃と修理をおこなう部署があることだった。
8年をめどにしてすべてのシートを取り外し、シートバック、座面部、それぞれを水洗いする。なかには、内部のウレタンがつぶれてクッション性が低下している場合は、表皮をはぐり、旧いウレタンをカットし、新しくウレタンを追加し、表皮をかぶせなおす。ドライバーシートの場合は、正対するだけでなく、運賃箱に向いたりするし、乗り降りも激しい。そのため、表皮との摩擦が激しく、表皮が数年で擦り切れることが多い。そこで、表皮を新しく造り替えたりもするという。小さな縫製工場を抱えているということだ。なぜ、8年なのかは聞き忘れたが、たぶん16年でお役御免になるので、切りのいいところで、その半分、ということなのか?
ともあれ……「ALWAYS 三丁目の夕日」を思い起こすノスタルジックな光景。民間の整備工場から整備士さんがここに再就職したい気持ちも、わからなくもない。
都営バスの工場には、バス全体を上に持ち上げ下回り整備などをするための”2柱リフト”が8レーンある。うち6レーンが車検専用のレーンで、あとの2レーンがエンジンをオーバーホールするためのレーン。
路線バスは、平均速度こそ遅い(平均時速11㎞/h台)が、走行キロ数が、月3000㎞とべらぼう。速度自体が遅いこと自体が、エンジンの水温が上がりづらく、吸気系が汚れやすいなどエンジンには大きなストレスを与えている。つまりシビアコンディション。自動車工学的に見ると酷使されている。その証拠に、エンジンだけでなく、走行系統、制動系統、電気系統、インテリアなどなどあらゆる面で、痛みや劣化が激しいようだ。
東日本大震災以前は、都営バスはだいたい「10年40万キロ」で買い替えていた。
ところが、それ以降は、15年60万キロまで乗り続け、そこでお役御免となる。
「ですから、お役御免の15年までに必ずシリンダーヘッドのオーバーホールのタイミングが訪れます」(工場長)実際、エンジンオーバーホールのエリアに行くと、一人の作業員がシリンダーヘッドを相手に、タコ棒を手に持ちバルブフェイスとヘッドのバルブシートの当り面を光明丹を塗布し確認しているところだった。バルブのすり合わせ作業だ。当り面の修正は、バルブフラッパーというエア式ツールでおこなう。フラッパーというのが「おてんば娘」という意味もあり、それを思うとなんだかおかしい。
30万㎞走行のいすゞの4バルブ6気筒の6HK1型エンジンだ。「このエンジンは、まだいいほうです。最近のエンジンはダウンサイジング・ターボなので、押し並べてストレスが大きく、オイル消費大や吹き抜け、水漏れ、オイル漏れなどの症状を引き起こし、なかには3年でこうしたオーバーホールを強いられるケースも珍しくないです」とくだんの工場長の言だ。
「都営バス」は、現在129系統、停留所数1546カ所、車両台数が約1500台という陣容。都内はもちろん、遠く多摩地域のほうまで活躍している。文字通り「都民の足」だけでなく、インバウンド需要で、外国人観光客などの足としても注目されている。
その整備工場に初めて取材した。面白いエピソードを見つけたので数回にわたりリポートしたい。
都営バスは、いうまでもなく路線バス。リアにデカいディーゼルエンジンを載せたRR(リアエンジン・リアドライブ)だ。年間の走行キロ数はどのくらいか? なんと3万6000㎞だという。マイカーの3~6倍である。
かなりあちこちにストレスがたまる。人間でいうと、ときどき身体をもみほぐしたり、ときには悪いところを手術したりするのが整備工場だ。その整備工場は、11軒+1軒だ。前の11軒は、都内あちこちに散らばって存在し、日ごろのメンテナス専門工場(認証工場)。後の1軒は、整備の司令塔ともいうべき車検工場である。言い忘れたが、すべて東京都交通局の傘下である。
前の11軒については、実は数年前から「はとバス」に業務委託し、プラス7軒、つまり合計18軒で日頃のメンテをしている。そのうちの1軒、深川営業所の整備工場に伺った。14名の整備士さん(平均年齢30代前半)がいて、167台の都営バスの保守点検をしている。車歴は平均8年。だいたい14年使用して下取りに出すそうだ。バスは、3か月ごとに定期点検、1年ごとの車検。1日に6台のバスの点検をし、不具合個所を修理するので、忙しそうだ。それでも年間10件前後の路上故障があるそうだ。一番多いのは、EGRバルブの詰まりだそうです。地味な空気が漂う整備工場だった。次回は、同じ敷地内にある指定工場を訪ねます。ここが、すごいバス整備工場なのです! 名称からして「自動車工場」というんですから。
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