一時は日産の復活劇の立役者として、カーガイ(自動車野郎)として名をはせたカルロス・ゴーンさんも、東京拘置所の鉄格子から抜け出し、いまや逃亡生活者。これってやはりドラマチック!
世界最大の自動車メーカーGMの創業者・ウイリアム・デュラント(1861~1947年)も、すでに1世紀前のことだが、ゴーンさん以上の“壮絶なるダイハード人生”を送った。カービジネスは、誤解を承知で言えば、成功すれば巨大な利益が転がり込むが、ひとつ間違えば無間地獄!
そんなとき、何気なく経済記事を読んでいたら、「ステランティス」という自動車メーカーの記事が目に入った。
長年クルマの記事を書いているモノとして、おおいなる迂闊。ここはパンデミックがもたらす思考停止が災いした、と弁解するしかない。
フランスのPSA(プジョーとシトロエングループ)とフィアットとクライスラーのグループFCAが2021年1月に統合され、「ステランティス」という名称になっていたのだ。本部はオランダのホープトドルプだ。Stellantisとはラテン語の動詞stelloからの由来で「星で明るくなる」という意味だそうだ。CEOが1958年生まれのカルロス・タバレス。
日本での統合された新会社「ステランティスジャパン」(本社:目黒区碑文谷)の発足は今年2022年3月からだ。
カルロスといえば、すぐカルロス・ゴーンが頭に浮かぶが、こちらのカルロス・タバレスは、ポルトガルのリスボン生まれのパリ育ちの元エンジニアだという。
調べてみると、こちらのカルロスさんの父親は会計士。母親はフランス語の元教師。14歳のときからクルマのレースに夢中になり、1981年24歳でパリにある「エコール・セントラル・パリ」という学校を卒業し、ルノーに入社、メガーヌのディレクターとして腕を振るったという。
そして、興味深いところだが2004年~2011年の7年ほど日本にいて、ゴーンさんの片腕として活躍している。その後、2011年にルノーに戻り、ドイツのオペルの再建に辣腕を振るいPSAのCEOの立場で、昨年できたステランティスを率いるトップに立った。
ステランティスが扱う車種は多い。アルファロメオ、シトロエン、フィアット、アバルト、プジョー、DSオートモビル、JEEPなどだ。企業規模でいえば、トヨタ、VW,ルノー・日産・三菱連合に次いで世界第4位のポジションだ。
カルロス・タバレス氏は早くも、EVに主軸を移した生産販売宣言を唱えている。なんと、2030年には世界で年500万台のEVを世に送り出すというのだ。とくに欧州での販売比率は、EVオンリーでの戦略だという。有言実行のカーガイという噂だけに、今後のカルロス・タバレスの力量が注目される。
ふと歩行者の立場で、幹線道路をガンガン走る自動車の群れを眺めることがある。すると、自動車という乗り物がいかに危険に満ちている存在だということを再認識させられる。
なにしろ、1トン以上もある“鉄の塊”を時速40キロ、ときには時速100キロ以上で走らせているのだから、理屈を超えた恐怖を覚える。安全ルールのうえで走るとはいえ、もともと知らない者同士のドライバー。ひとつ間違えば大事故となる。
いくら先進技術のぶつからないクルマを作りえても、ほかのクルマに“ぶつけられる”わけで、そう考えると、無事故ゼロの時代が来るのは、見果てぬ夢!? クルマの安全に携わるエンジニアは、この事実を見つめ愚直に長い時間仕事に取り組んできた人たちだ。だからこそ、ここ20年30年でクルマの安全性は飛躍的に高くなった。
その役目を担っている大きな存在が、NCAPだ。新車安全性の評価を星の数で分かりやすく提示するプログラムだ。
始まりは25年前のユーロNCAP(本部はベルギー)。日本、韓国、中国、東南アジアなどに広がり、ユーザーが新車を手に入れるさいに、ひとつの大きな判断材料を与えている。自動車メーカー同士の切磋琢磨にも大いに役立っている。
その国際会議が、先日都内で開かれた。パンデミックの影響で3年ぶりの開催だ。
ユーロNCAPのアンドレ・シーク(ドイツ人)のレクチャーと発言が注目された。
「数年前から懸念されていた衝突事故での車内での乗員同士の頭部がぶつかることでの重症化。これをどう防ぐかを議論し、その対策を講じていれば加点している。それと歩行者やサイクリスト、それにバイクのライダーと乗用車の絡み事故。いろいろなシチュエーションで、たとえば歩行者なら交差点でクルマと同方向に動いているとき、クルマのセンサーが幅広い角度で、確実にその歩行者をとらえられるかなどです」
なるほど。ではヒューマンエラーの対応策は? つまり、ドライバーのよそ見や居眠り運転による事故を防ぐため、ドライバーの動きをモニターする仕掛けがあるのか?
「そこなのですが、意外とこれが難しい。目の開閉で判断する場合、人種により瞼が閉じ気味の人がいる。それによそ見の場合、フクロウタイプとトカゲタイプの2タイプがある。前者のフクロウは、身体全体を動かす。後者のトカゲタイプは目だけを動かすケース。この両タイプを見逃さず、しっかりカバーしないとダメなんです」
意外だったのは、日本で頻発しているペダルの踏み間違いによる暴走事故。MT車が多い欧州では数が少ないが、それでもこれを防ぐ誤発信防止装置付きの場合、欧州でも加点されるという。
クルマのアクティブセーフティもパッシブセーフティも、いわばモグラ叩きみたいなもので、人間の行動工学、物理学、力学などを総動員して展開されている。
リモートでの会議では、チャイナNCAPのスタッフから、中国のユーザーのなかにはせっかく取り付けられた安全装置、たとえば車線逸脱防止装置を雑音としてキャンセルしてしまうドライバーもいるという報告。いかにも中国だと思いきや・・・・かつて日本でも、シートベルト義務化のとき、煩わしいとして付けないドライバーがいたのと似ている?! 啓蒙活動も必要なのだ。
なお、一番の注目は、この世界のクルマの安全アセスメントをリードするユーロNCAPの評価方法(レーティング法)が、4年後の2026年からフルチェンジされる点。従来、「大人の乗員」、「子供の乗員」、「歩行者」、それにシートベルト・リマインダーなどの「安全装置」、この4つの積算(実際には対数を使い複雑だが)で評価された。
これが、「安全運転指数」「衝突回避」「クラッシュ防御」それに「衝突後の安全確保」の4つの箱で、評価されることになるという。障害予防の分野でポピュラーに使われているハドン・マトリックスのパラダイム。おそらく、これまでアメリカのIIHS(ハイウエイ安全保険協会)とNCAPは少し乖離していたところがあった。評価基準を近づけることで、グローバルでよりやすくしていくというのが狙いらしい。アンドレさんは、「あまり大きく変わらないようにしたい」というが、これからの電動化、自動運転化に向け、クルマの安全評価も大きな曲がり角に来ているといえる。
「エンジンの燃焼室のカタチは、18歳の女性のおっぱいのカタチが理想的なんですヨ‥‥」
えっ、そ・そんな! いまから20年ほど前のこと。横浜の大黒町にあったエンジン開発研究所の担当者は、エンジンダイナモがごうごうと稼働している脇で、いきなりの説明。エンジン、いわば鉄のカタマリで構成される精密な構成物にからだの一部とはいえ、生々しい女性の裸を連想させるいきなりの表現に、ココロが10メートルぐらい天空に飛び上がった気分になった。エンジニアの林義正さんには、その後数回インタビューした覚えがあるが、初回の先生の比喩がいまでも頭にこびりついている。
4バルブエンジンの燃焼室は、ペントルーフ型。日本語であえて言えば、切妻屋根型。高い馬力を出すため、できるだけ多くの空気を吸い込み、できるだけ燃焼時間を短くし、エンジン各部のフリクションロスを少なくすること。この3つである。
4バルブエンジンは「できるだけ多くの空気を吸い込む」ためだし、そのための燃焼室形状は必然的にペントルーフ型になる。この燃焼室形状は、もともとフランスのプジョー社が発明し、およそ110年前インディアナポリスのカーレースで採用された。だから何も林先生の発明ではないが、その鮮烈でユニークな説明はまちがいなく“林先生の発明”である。
林先生は、日産のエリート的エンジニアのなかではかなりユニークな人物だった。ルマン24時間に向けたエンジンをはじめレーシングエンジン畑を歩んできており、最初のインタビューはこのルマン・エンジンをめぐるものだったが、ルマンのコースをシミュレーションするモニター画面を見ながらエンジンダイナモで負荷をかけている当時としては珍しかった開発現場を取材した。でも、あまりの表現でそのほかのことは覚えていない。
林先生は、ライフルはじめ銃の研究者でもあり、文字通り好奇心は世の中の神羅万象に及ぶ、そんな人物と見えた。だからこそ、いまではセクハラめいた絶妙な譬えで、のち東海大学工学部で謦咳に触れた学生の心をとらえた授業を展開したに違いない。
理想のエンジンの条件その2つ目の、「できるだけ急速に燃焼させたい」という項目を具現化するため、林先生は、日産エンジン開発の現役のころ、Z型エンジンを開発している。日産が1970年代後半から90年代終わりにかけ、長年製造してきたツインプラグエンジンだ。1カム4バルブタイプのエンジンで、その後CA型が後継エンジンとなり、ツインプラグは引き継がれた。
このCA18Sというエンジンが載ったスライドドアのプレーリーを2年ほど愛用していた(トライアルバイクを載せるために中古車で手に入れた)。
想像してもらうとわかるが、限られたエンジンルームに収まり横置きエンジンのスパークプラグを交換する段になると、かなり大変だった。林先生にこのことをやんわり説明すると、さほどおどろいた顔ではなかった。たぶん、同じ質問に飽きていたのかもしれないし、そうしたメンテ上の不具合さをはるかに超えた有効性というか合理的理由がツインプラグにはあると信じておられたのかもしれない。
それに林先生には直接関係はないが、その当時のプレーリーにはボディの致命的欠陥があった。スライドドアを支持するボディ剛性が弱く、ときどきスライドドアがレールから外れるのだ。そのほかにもこのクルマには、日本車にはあまり見られないマイナーな不具合、たとえばステアリングホイールの外皮が内芯との接着がはがれ、ブカブカになる。そこで、カッターで樹脂製の外皮に切れ目を入れ、そこから接着剤を流し込んで何とか凌いだ。
そんなこんなで、このプレーリーは自動車ジャーナリストには、いろいろ面白い話題を提供してくれた。(普通のユーザーなら二度と日産車には手を出さない決意を固めるだろうが!?)
この本は、「クルマの肝」と謳いながら9割はエンジンの話である。もともとクルマ雑誌に連載していた読者に質問にこたえるかたちの誌面を再編集したもの。たとえばそもそもの化石燃料を燃やして力を得るエンジンを詳細に解説してくれたり、レースエンジンと市販車エンジンの違いを懇切丁寧にレクチャーしてくれる。エンジンオイルをめぐるメンテナンスの話にもおよぶ。
やや古い話題もないわけではないが、いま大きな岐路に立たされているエンジンに携わってきたエンジニアの生々しい声を聴く本としては、格好の一冊だ。(2006年4月刊)
いつものホームセンターに久しぶりに足を踏み入れたところ、面白いドライバーにぶつかった。
ブラック基調に緑色をあしらった、ごつい感じのグリップを持つ貫通ドライバーだ。このカラーリングは? はてさてと頭をめぐらしたら、すぐ分かった。
大阪にあるファブレス、つまり工場を持たない工具屋さん「㈱エンジニア」の製品だ。エンジニアといえば、例のアタマが舐めた小ねじの頭部をしっかり捕まえ回す、困ったときのお助けプライヤー。工具業界の一角を画した「ネジザウルス」をデビューさせ、日本中に広めた企業だ。
数年まえヘキサゴンボルトのお助けツールを登場させたと思ったら、今度は貫通ドライバーのニューフェイスを登場させてきたということのようだ。
さっそく購入し、あれこれテストしてみた。価格は税込み1848円と通常の貫通ドライバーに比べ2倍だ。2倍もの価値があるのか? というのが今回の関心事だ。
まず、メジャー、ノギスそれにクッキング用の秤を使った身体測定。そこで、驚いたのは全長220mmとごくごく標準的な寸法だが、重量が177gというのはこれまでテストした10数種類のプラス2番の貫通ドライバーのなかでは飛びぬけて重い。一番軽いもの(アネックスのウッド)だと113g。つまり1.5倍の計算だ。通常120~130gのなかにある。従来の製品にくらべ2~3割がたも重い勘定。
これはグリップが他の製品に比べひと回り大きいためだ。理由はそれだけではない。軸自体が差し込みタイプなので、軸ブレを抑制するため通常よりも支持剛性を高めており、それが重量増に響いているようだ。おかげで軸のブレ(遊び)が抑制されていて好印象だ。ちなみに、軸がグリップに埋没する長さは33mmだ。つまり手持ちの1/4インチの軸を使うときは、最低でも50mm長のものでないと使えない。
やや重いのでは? という危惧については、実際使ってみると、このずっしり重い感覚がプラスに働いていることが判明した。同じネジを複数回すとなると、ドライバーの重さが気になるが、一発でねじを緩めるとかする場合は、むしろこれくらいの重さがあった方がしっくりくる(個人的な感想だが)。
最後に、廃油で濡れた手でドライバーを回す、そんなことを想定した“意地悪テスト”をしてみた。大多数のドライバーは樹脂製グリップなので、たわいもなく空転して使い物にならない感じとなるモーレツに意地悪度の高いテストだ。
ところが、このネジザウルスのドライバーは、かなりの高得点なのだ。グリップ感が高い。その理由は、機動戦士ガンダムを思わせるゴツゴツしたデザインだということが手で触ると理解できる。硬い樹脂とやわらない樹脂の2つを巧妙にデザインするだけでなく、細かな凹凸やでっぱりを付けている。
しかもエンド部は丸断面に近く軸近くはほぼ長方形断面とし、その境にはまるでクビレのような大きな凹みをつけている。こうした人間工学的デザインを取り込んだ結果のようだ。
ふたたび、冷静にこのドライバーを握ると、やはり重さが気になった。たぶん非力な女性だと持てあます感じになるのではないだろうか? 元祖ネジザウルスは、女性ファンも取り込んだと聞いたことがあるが、矛盾を含むいい方にはなるが、女性に受けるためには軽量化への努力が求められる。