かつては隅のほうに位置していた『福祉車両』と呼ばれる車両も、少子高齢化というか、シニア世代の比率が高くなったことから、その需要が無視できなくなったとみえ、カタログの一角に堂々と掲載される時代となった。
ところが、従来の福祉車両はたとえば車椅子を積み込むために、ノーマルの車両をベースに切ったり貼ったりのかなりの大掛かりな変更をする必要があった。別工程のラインを設けて作り込んでいた。メーカーとしては社会的使命があるものの、けっして儲かるビジネスとはいえなかったようだ。
新型フリードは、ここに抜本的に切り込んだ記念すべきクルマといえるかもしれない。
新型フリードには、6人~7人の多人数乗車のフリードと、かつてのフリードスパイクを受け継ぐフリード・プラスの2タイプ。5名乗車のフリード・プラスをベースに車椅子仕様の福祉車両を設定しているのだが、「開発当初から、福祉車両を視野に入れた全体のクルマづくりを目指しました」(担当者)というだけに、たとえば車椅子仕様は写真にあるように、福祉車両仕様専用のブラケットやトリム類をボルトオンで車体に固定するという、実に合理的なクルマづくり。具体的な金額こそ公表していないが、着実にコストダウンしている。
車椅子仕様車の価格はガソリンエンジン仕様で244万円。ちなみに、ノーマルの売れ筋、7人乗り2WDホンダセンシング付きハイブリッド仕様で、251万円台。
整備工場やディーラー工場で、なくてはならないものの機器のひとつがリフトだ。
クルマをうえに持ち上げ、エンジンまわり、サスペンションまわり、排気系まわりなどを点検したり、修理するさいに大活躍する。直接クルマと接するポイントは、文字通りリフトポイントと呼ばれるボディ下部のサイドシルと呼ばれるドアの真下。ここに、ゴム製のアタッチメントを介して油圧でクルマを持ち上げるわけだ。ゴムを使うのはもちろん、クルマを痛めないため。
ひごろぼんやりクルマを眺めている読者には、オドロキに聞こえるかもしれないが、そのジャッキアップ・ポイントの形状は、大げさに言えば、クルマごとに異なる。汎用タイプで間に合うこともあるが、クルマによっては適合しないアタッチメントで持ち上げると、キズが付いたりすることもあるようだ。そこで、さまざまな形状のゴム製のアタッチメントが存在するということになる。素材自体は天然ゴム製。ちなみに、このゴム製アタッチメント、ネットで価格を調べると4個で1万~1万5000円と意外とお高い。
そのゴム製アタッチメントに組み合わせる“延長台”と呼ばれる円筒形の金属もさまざまにスタンバイしている。アタッチメントと延長台を集めると、こんなにあるという光景が、先日クルマサービスの商社であるバンザイを取材して判明。
スポーツカーなどの低床車と呼ばれるクルマをリフトアップするには、受け金部がより薄いタイプが必要とされている。通常受け金とアームの高さが120ミリあったのが、苦心のデザインの変更でわずか95ミリとしているタイプもあるという。
わが愛車ファンカーゴの一番の悩みは、ヘッドライトの“黄ばみ”だった。
よく知られるように、イマドキのヘッドライトは、ポリカーボネート(PC)と呼ばれるエンジニアリング・プラスチック(数ある樹脂の中では耐熱性が高く、高級とされる)。ところが、新車から5年ほどたったころだろうか、どことなく全体が白内障になったように白くなり、そのうち黄ばみ始め、いまやすっかり黄ばみが定着して立派な“中古車ズラ”に成り下がっていたのだ。
ライトメーカーに聞いたところ「そのクルマの使われ方にもよりますが、表面のハードコートが紫外線の影響で黄変します。とくに、ファンカーゴのライトが上を向いている部分が広いので、その傾向が大きいと認識しています・・・」。10年以上たっているので、いまさら文句は言えないが、日本のモノづくりも脇が甘いぞ! とつい言いたくなる。
たしかに補修ケミカル部品の存在は知っていたが、二の足を踏んでいたところ、このほど「ヘッドライトリフォーマー」を取材できた。これは、表面の旧いハードコ-トをそぎ落とし、改めて2液タイプのエアゾル式の新しいハードコートをコーティングするというもの。下準備で、マスキングするのと旧いハードコートをいくつものペーパーを段階的に使い、そぎ落とすのに意外と時間がかかった(約40分)ものの、出来上がりは、予想以上だった。新品然に戻り、たまげているところ。エアゾル自体は定価5000円(1本で約2台分)とリーズナブル。ただ、トータル時間1時間強かかるところが、ビジネスとしてはネックなのかもしれない。ケミカルメーカーに言わせると3年近くは大丈夫だという。問合せ先は・・・㈱ECN 電話03-6205-4783 である。
いきなり度肝を抜かれたのは、スズキの教室プログラム。「バイクのエンジンは、どうなっているのだろう」というテーマ。小学生に49ccのバイクのエンジンとはいえ、いきなりエンジンバラシをしてもらう! というのは実に刺激的。作業台の上に置いてあるのは、2003年にデビューし約5年間で累計10万台を送り出した「チョイノリ」という名のスクーターの空冷式OHVエンジン。チョイノリは、とことんコストを下げてバイクをつくる、ということにこだわった。5万9800円という、同時期の中国製の原付スクーターを下回る新車価格で衝撃的だったバイク。
このスクーターエンジン(正確にはマグネットカバーやフライホイールがあるのでエンジンASSYだ)を90分で、バラし、組み付けるという未知との遭遇だ。OHVといえばハーレーダビッドソンのエンジンと同じ! この知識だけでも子供たちの目は輝く、という。
ホンダが担当したとなりの教室では「ファンビークル/クルマの仕組みを体験しよう」。父兄は少し離れたところで、文字通り手に汗にぎり「観戦」。カッコいい機能が外から丸見えのフォーミュラータイプの子供一人乗り電気自動車。
この電動カートのタイヤとサスペンションを交換(むろん作業は子供だけ!)をしてビフォアとアフターの乗り味を子供たちだけで味わう、というもの。4人ひと組で、60分間の持ち時間で楽しんでいた。サスペンションの取り付けには上下の区別をしなくちゃいけない。それに取り付け位置が届かない場合は、ある部分を持ち上げておこなう・・・タイヤの交換作業でも表側と裏側があるので、間違えないように作業を進める必要がある。チューニングの楽しさと機械のありようを少し変化させることによって変わる乗り味の違いが、子供だからこそ理解し、身につけたようだった。この教室は、高学年の子供たち向けとはいえ、目がきらきらと輝いていた。いずれも先日パシフィコ横浜でおこなわれた自動車技術会主催キッズエンジニアの光景だ。
自動車部品のメガサプライヤー・コンチネンタルを取材したら、今すぐにでもクルマの鍵が不用の世界をつくれることがわかった。鍵の替わりに「完全仮想キー」を使う。「完全仮想キー」とは、文字通り、クルマの鍵,機械的なキーでもなく、現在主流のスマートキーでもない。鍵の概念(コンセプト)を180度ひっくり返した鍵。鍵ではないものを鍵として使う!?
スマートフォンだ。じつは、“スマホをクルマの鍵として使用する試み”はすでに欧州ではスタートしている。世界的な市場で成長しつつある「カーシェアリング・サービス」で、このスマホをつかった仮想キーサービスが進んでいるというのだ。コンチネンタル社が、ベルギーの自動車サービスグループであるディートランと共同で「OTA keys(オータ・キーズ)」という企業を設立した。OTAはOVER THE AIR つまり“無線通信”という意味。具体的には、社用車(フリート)、カーシェアリング会社、レンタカーの企業向けに新ビジネスを展開するというものだ。じつは2008年から仮想キーの研究開発をしてきており、ベルギーでも試みが成功すれば日本をふくむアジア市場と北米市場にも、このシステムを展開していくという。
スマートフォンを使った、仮想キー「OTA keys」の仕組みを見てみよう。
車両とスマートフォンのあいだでデータの送受信をおこなうのだが、近距離無線通信NFCあるいは省エネ規格のブルートゥースBLE(Bluetooth Low Energy)がつかさどる。そこで、ドライバーはスマートフォンのアプリを立ち上げ、自分の都合に合わせてカーシェアリングを予約すると、OTA keysシステムは偽造防止のため暗号化されたデータレコード(つまりこれが“仮想キー”となる!)をユーザーのスマートフォンに送信する。クルマに対するアクセス権限をふくむ仮想キーは、スマートフォンのSIM(サブスクライバー・アイデンティティ・モジュール・カード)カードに保存される。NFCあるいはブルートゥースで、そのスマートフォンから車載リーダーに認証、車両&診断データ、ユーザープロファイルなどのデータが送信される。車載リーダーは車両のドアなどに組み込むことができるので、エンジンを始動する前に車内の別の受信機がスマートフォン内の仮想キーを認証すると、エンジンを始動でき、いつでも出発することができる。かつてクルマの所有の象徴だったクルマの鍵がなくなり、スマホが、擬似的なキーになる!?
トラック・バスメーカーの「三菱ふそう」が今年2月から約9ヶ月にわたり、「燃費合戦」という面白いイベントを展開している。「燃費合戦」とは、いかなるものか?
「最新の大型トラックモデルであるスーパーグレートV2016をお客様の実際の仕事・業務で使ってもらい、このクルマの燃費のよさを実感してもらう!」というものだ。ただ、試乗だけだと面白みがないので、横串(よこぐし)として「燃費合戦」を織り込もうというのだ。約250社(物流などのユーザー)を対象に新車50台を用意し、順繰りに実際の業務で使ってもらい、現在使用中のクルマとくらべてもらう。50台の内訳は、AMT(イノマットⅡ:MTの電子制御2ペダル)付きのウイングタイプの大型が30台、トラクタータイプが15台(うち10台はAMT付き)、それにMT仕様のダンプカー。1台のクルマに4週間乗ってもらい、はじめの1週間を慣らし期間とし残り3週間分の燃費を正式データとしている。もちろん、既存の車両との比較をリアルに感じてもらうために、同じドライバーでできるだけ同条件のもとで使ってもらうように進めているという。
燃費合戦の実際は、日本全国を5つのブロックに分け、そのブロックごとの燃費を競うというのがひとつ。2つ目はクルマのタイプ別での燃費合戦。3つ目が地域、駆動輪すべて区別なしに平均燃費地そのものを競うカテゴリー。この3つのカテゴリーでの「燃費合戦」である。肝心の燃費の測定方法は、ひごろの日報での燃費測定(満タン法)とデジタコによる燃費測定の合わせワザを使いかなりの客観性を持たせているという。
一番気になる燃費の結果はどうだろう?
FS8×4(8軸4駆動)のカーゴの場合、他社の燃費平均が3.26~3.75km/lであったのに対し、スーパーグレートでは3.76~4.25km/lと向上しているという。トラクターの場合も、2.35km/lから2.71~3.05km/lへと確実に向上している。乗用車にくらべ数値的には低いが、年間10万キロも走る大型トラックともなると、燃費の良し悪しで年間42万円以上の差が出るというデータも出ている。乗用車にはない世界である。
「21世紀の新しいモビリティ社会はまだ遠い先のこと・・・」と思っていたら、世の中ため息をついている間に、どんどん変化しつつあるのかもしれない。
先日、東京ビックサイトで催された「スマートコミュニティ2016」の取材で、埼玉でのEVや電動バイクの実証実験を取材した帰り、おなじみの鎌倉街道を走っていて、赤信号で止まって左を眺めていたら「水素ステーション」がただいま建設中であることに気づいた(写真)。水素ステーションは昨年安倍首相が年内に100軒建設すると大見得を切ったものの、1軒あたり5億円近くの建設費のため、早々たやすく計画通りにいくものか!? 実際数えてみると現時点で計画中を含め現在90軒(おもに首都圏とその周辺だけで青森、北海道、岩手、鹿児島、熊本はじめ計27県にはない!)。それにいまのところトヨタとホンダからしか燃料電池車がリリースされていないし・・・まだ先の先! と冷たく眺めていたのだが、こんな地元に建設されると、さすがに胸騒ぎがするものだ。利用する車両がそんなにあるのだろうか? 余計な心配もしたくなる。
そういえば、数時間前取材したなかで「ロスアラモスのスマートシティの実証実験」というのがあった。日本のNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、アメリカのニューメキシコ州のロスアラモスや、そのとなりのアルバカーキー市でも、実証実験がおこなわれている。前者は、住宅内エネルギー制御、後者はマイクログリッドの実証実験である。ロスアラモスといえば、いまから75年ほど前、ロバート・オッペンハイマー(1904-1967年)を所長にして、1万人以上の科学者たちが集まり広島、長崎を一瞬にして壊滅的状況に追い込んだ大量殺人兵器・原子爆弾の開発がおこなわれたマンハッタン計画の舞台。ここに、平和と繁栄の象徴のスマートコミュニティ・テクノロジーがおこなわれているとはなんとも皮肉。でも、人の歴史は墓場の上に繁栄が築かれるのかもしれない。
トンマな観察力にときどき、自己嫌悪というか、自分がいやになることがある。
2週間ほどまえから、18万キロ以上走行した愛車の右側リアドアの閉まり具合が悪くなり、なんだか落ち着かない気分だった。
いくらつよいチカラで閉めても、ドア本体が少し浮くのである。チラッと観たところでは、とくに不具合はないようだし、さらに1週間ほどそのままにしていたのだが・・・・昨日やはり気になり隅々まで観察したところ、ようやく不具合原因を見出せた。
なんのことはない、「ドアロック・ストライカ」と呼ばれるボディ側のフックを持つ金具を止めているネジ2本のうち1本が緩んでいたのである。日頃、街中を走る出前のスーパーカブが、チェーンの緩みをそのままにチェーンケースにぶち当たり、音を立てているのをみて「メンテ不足だな~っ! レンチひとつですぐ直せるのに・・・」と蔑みの眼差しを向ける割には・・・自分のこととなると、なんとも体たらく!
イマドキのクルマのドアロック・ストライカは、トルクスボルトが使われている。さっそく、手持ちの工具を使い「増し締め作業」を完了、無事終了。作業時間はわずか30秒。
念のため、知恵袋の一級整備士Kさんに聞いたところ、「ああ、よくありますよ。走行10万キロ以上走ったオーナーさんが、ドアが上手く閉まらなくなったって、やってきますよ」とのことだった。長く乗ったクルマには、ごくありふれたトラブルのようだ。普通のユーザーは工具を持っていないので、整備工場やディーラーに駆け込むということだ。
毎年5月ごろ横浜で開かれる「自動車技術展」は、クルマのコアな技術が一堂に観ることができるので、徐々にブースの数も増え、来場者数も増えているという。
今年もパシフィコ横浜で開かれ、さっそく初日の5月25日に足を踏み入れた。
「ふだんカーオーナーが見慣れているもので、何かすごいものはないか!?」
そんな思いで会場をふらついていたら、まさに渋い部品を発見した。ガソリンの給油口の先のホースの部品である。専門用語で、「ホースモジュール」というのだそうだ。モジュールというのは、規格化された構成要素のことで、燃料ホース・アッセンブリーといってもいいかもしれない。要するに給油口から燃料タンクまでのホースのこと。
従来は、もちろん板金製(写真奥)であったが、軽量化の要請で徐々に樹脂化(写真手前)されているのだ。樹脂といってもいろいろあるが、ナイロン6(PA6)にオレフィン系樹脂を積層した厚さ2~3ミリの樹脂ホース。途中蛇腹形状にして曲がりを付けている。樹脂化することで、金属製部品にくらべ重量が2kgから半分の1kgに軽くなるという。もちろん燃料が漏れないようにシール性を高めたりして、燃料透過性基準を満たしているという。
じつは、樹脂燃料ホースモジュールは、衝突安全性の向上にもつながるという。蛇腹形状による柔軟性が寄与するようだ。しかも、燃料タンクとの結合は、「クイックコネクター方式」で、カチッとワンタッチでジョイントできるのだという。取材先の住友理工によると、ホースモジュールだけでなく、エンジンマウントも徐々に樹脂化されていくといっていた。樹脂は耐熱性には課題があるが、成形の自由度が高く軽いので、今後も増えていくことには間違いないようだ。
http://www.sumitomoriko.co.jp/
ジャーナリスト稼業の面白いところは、自分のことは差し置いて、「読者の代表として」という美名のもとに、エライ(とされている)ひとに不躾とも思える、質問を浴びせられることである。
公平明大な質問は、ほかの記者にまかせておいて、こちらはもっぱら自分の尺度で、そのひとのカーガイ度を測定する。筆者流のCAR―GUYというのは、「どれほどクルマが好きで、クルマの仕事を楽しんでいるか?」である。不思議なことに、これまでいろいろなひとをインタビューしてきたが、“これぞカーガイ!”と自信を持って推薦する人はほとんどいない。とくに、CEOと呼ばれる経営陣のなかでホンマもんのカーガイを探すとなると、稀有に近いのかもしれない。
ところが、稀有な存在のひとりと思しき人物に出会った。サービスコンテストに現れたボルボカー・ジャパンの木村隆之社長(51歳)だ。通常トップのCEOは、経営理論や経済学の世界の人が多いため、なんとなく油が付着するような整備士のコンテストは面白くないようだ。「サービスこそカービジネスの要(かなめ)」とスピーチしてみても、数時間で会場をあとにすることからそれは推し量れる!?
ところが,木村さんは,2日間,のべ10時間以上、びっしり選手たちの“一挙手一投足”を観察していた。ちなみにボルボカー・ジャパンの日本人社長は、この木村さんが初。スエーデンのボルボ本社も、この人事には特別な思いがあるようだ。社長就任後1年半、CS(顧客満足度)ナンバー1を目指す木村さんは、競技の中身でたいていの選手ができなかったXC90の説明に苦言を呈するなど、鋭い指摘を与える一方、このCS向上作戦が一段高いギアに入ったと自負。じつは、木村さん、ベルギー5年海外営業に従事したりレクサスの立ち上げに携わったりした元トヨタマン。その後、アメリカでMBA(経営学修士)を取得し、ユニクロで営業副社長、日産ではインドネシア日産やタイ日産の社長を歴任した、いささか異色のキャリア。トヨタマンらしく現地現物主義を標榜する実務家の姿を見せていた。
面白いのは、愛車のボルボV40のほかに、ボルボの旧車P1800を所有し、現在リストア中だという。目を輝かせながら、旧車のリストア事業も立ち上げる予定だともらした。いい意味で、趣味と仕事がない交ぜになっているビジネスマンは、そうはいない。
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