ワンパク時代を振り返ると≪指を詰めた経験≫はざっくり2~3回はあるだろうか?
それがガテン系の職業となると、がぜん頻度が高くなるようだ。運送業の場合ならトラックの荷台に指がはさまれたとか、石材業なら石のあいだに指を詰めた。あるいはドラム缶と地面とのあいだに指が挟まった、水産&魚業なら冷凍マグロと土台のあいだに指を詰めた・・・自動車整備の仕事では、エンジンとクロスメンバーの隙間に指が挟まったというケースがあるという。
先日幕張メッセでおこなわれたDIYショーで、面白い製品を発見した。指詰め防止専用のヘルメット≪指メット≫である。クルマのヘッドライトなどと同じ素材のポリカーボネート製。200kgの圧迫にも40ジュール(J)という20センチの高さから20kgのものが落下したときの衝撃にも耐えるという。中指と人差し指に装着し、万が一挟んだときでもそのまま指が抜ける仕掛け。重量は44gで、価格はインナーサポート付きで1500円だという。発売元は(株)ウィンタス TEL:075-381-0436。
今号のトップニュースに関連するが、ホルツの「タイヤウエルド緊急キット」(パンク修理剤)が世界市場累計で1億本を突破したという。
パンクのトラブルは、統計では1人のドライバーが生涯2回あるいはせいぜい3回ほどしか体験しないもの。でも、日本だけでも約8000万台のクルマが活躍しているわけだから、タイヤに関わるトラブルがいわば日常茶飯といえる。別にホルツの肩を持つわけではないが、累計1億本というのは、そう考えると少ないのか、多いのか?
現在、軽量化と省エネ、というコンセプトからスペアタイヤを持たないクルマが多いので、タイヤウエルドとエアコンプレッサーをトランクに入れておくと≪突然のパンク≫でも比較的冷静にいられる。手順は、タイヤの接地面に釘などが刺さっていないかを見て(刺さっていて、エア漏れが少なく、近くのタイヤショップに自走できるなら、そのままショップに急行!)、もし刺さっていたら、これを除き、空気を抜く。次にタイヤウエルドを20秒以上よく振り、ノズルでタイヤのバルブに取り付け、液を注入する。白泡状のゴム液が注入され、タイヤ穴がふさがれるという理屈だ。ジャッキ不用で比較的簡単に修理できるというのがウリだ。キットには夜間作業でも安全性を確保できるように滑り止め軍手と、反射ベスト、LEDライトが付いている。http://www.holts.co.jp/mobile/
自動車は約3万点の部品から成り立っているといわれている。“約”というのは、数え方、クルマの種類により異なるためだが、そのうち100~150個がベアリングだという。
ベアリングとは日本語で、≪軸受(じくうけ)≫のこと。言うまでもなく、軸受(ベアリング)は、自動車だけでなく家庭電器製品、産業機械、航空機、船舶などありとあらゆるところで大活躍していて、これなしでは機械が成り立たないとして「産業の米(こめ)」という異名を持つほど。ベアリングの働きはいろいろあるが、モーターの軸受を想像するように、根本的な働きは、“機械の回転運動の摩擦を減らす”こと。現在21世紀のクルマが一番求められているのは、CO2の削減。もしクルマにベアリングが使われていないと仮定すると、日本だけでも年間60万キロリットルに相当するガソリンが、余計に消費され、そのぶんCO2をはじめ有害物の発生がおきる計算。ことほど左様にベアリングは大きな使命を果たしている。エンジン各部にベアリングを採用することで、機械的なロスを低減する手法が今後増加するものと思われる。その意味ではますますベアリングは、注目される部品。
そのベアリングを作る工場を先日覗くことができた。
種類により異なるが、外輪と内輪とそれに保持器とボールの4つで構成されているベアリング。熱処理や研磨などミクロン(1/1000ミリ)オーダーの緻密な工程に圧倒。歯医者さんで活躍のドリルにも内径3ミリというごくコンパクトなベアリングも作られていた。玩具の世界ではヨーヨーにもベアリングが使われはじめた。軽やかにいつまでも回り続ける能力が飛躍的に向上したことからヨーヨー遊びの芸を広げる役目をしているという。
1970年代までは、自動車エンジンの大きなトラブルのひとつに≪オイル消費≫というのがあった。一番苦労したのは、2ストロークエンジンに限りなく近いロータリーエンジン(RE)で、自動車メーカー(マツダ)で試乗車を借り受けると1リッター缶のエンジンオイルをもらったものだ。途中で、継ぎ足すためだ。4ストロークエンジンでも1960年代までは1万キロ走ると1リッターのエンジンオイルを消費するクルマが珍しくなかったという。
オイル消費はなぜ起きるかというと、オイル上がりとオイル下がりの2つだ。前者は、シリンダーとピストンリングの隙間からオイルが燃焼室に入る現象。後者は、バルブガイドの隙間からオイルが燃焼室に入る現象だ。オイル上がりがオイル消費全体の50~70%を占め、オイル下がりは20~30%を占めるとされる。実は、わが愛車(ファンカーゴ)のオイル交換を先日しようとしたところ、うれしいことに!? レベルゲージにオイルが付着しない。アバウトだが、走行1万5000キロで約1.5リッターオイルを消費したようだ。現在オドメーターは12万5000キロ。異音などの不具合症状こそ出ていないが、徐々にではあるが、エンジンが怪しくなってきているのかもしれない。
自動車部品メーカーは星の数ほどあるが、なかでもメガ・サプライヤーと呼ばれる企業はさほど多くない。日本ならデンソー、アイシン、ジャトコなどであり、海外ならボッシュ、コンチネンタル、デルファイなど。これから、下手な自動車メーカーよりも莫大な利益を得ている企業である。
なかでも、ボッシュは、有限会社でありながら昨年、前年比24%アップの47億ユーロ、日本円で約5兆円もの売り上げを記録している。こうした利益の大部分は右肩上がりの中国需要に負うところ大。一歩あるいは半歩先ゆく需要に、いかに応えるかがサプライヤーの生死をかけるようだ。巨大だからといってユメユメ油断できないというビジネスの世界。
そんななかで、面白い話を聞いた。ここ1年でスマートフォンがグングン勢いを増し、もはやスマートフォンなしでは進まない現代人も珍しくない。クルマに積極的にスマートフォンを取り入れ、車内でインターネットを楽しむ、あるいはルート案内に役立てる、事故回避のツールとして使うなどどんどん拡張できるはず。ところが、クルマのエンジニアの大半は、こうした状況に対応できないという。頭がついていけない。需要を先取りすべき立場のエンジニアが徒手空拳状態! たぶん、これはクルマのエンジニアが高年齢化しているせいだ。自動車の企業そのものが高年齢化しているとも言えるかも。逆に言えば、まだまだ、自動車が進化し続ける余地があるともいえる!?
乗用車の世界では、エンジンオイルとオイルフィルターの交換インターバルは、走行1万~1万5000キロごと・・・というのが通り相場。ターボチャージャーなど過給機付きとなると熱負荷が高いので、5000キロごとに交換という認識。
トラックエンジンはエンジンオイル容量が多いので、かなり長いとは聞いていた。が,今回UDトラックスの中型トラック≪コンドル≫の試乗会に出向いて聞いたところ,さらに長くなり、「走行3万5000キロごとです」という。タマゲルとはこのことだ。乗用車の3倍以上。従来は2万5000キロごとだったという。「これまでは鉱物油でしたが、今回からは100%化学合成油を純正にすることで長くできました。エンジン清浄性能、燃費性能、耐摩耗性能などを高めています」という。化学合成油が通常の鉱物油に比べ1割ほど値段が高いがそれにしてもすごいロングライフ。トラック業界は、厳しい環境のなかさらなる低コスト化を求めていて、トラックメーカーはその回答のひとつだという。
ちなみに、コンドルの4気筒新エンジンGH5は、直噴ディーゼルインタークーラー付きターボエンジン。排気量4675cc、圧縮比17.0で215PS。エンジンオイル容量は11.9リッター。ところが、日本のトラックはこれでもまだオイル容量の世界で欧州トラックと比べると少ないほうで、欧州製トラックのオイル容量は1.5~2倍ほどあるという。いつか、このナゾを解明したい。
「オイルパン用のシートプラグ」と聞いて、はじめ何を言っているのは皆目わからなかった。ドレンボルトの相手のメスねじが、こさえてある“小さな部品”のことだった。このシートプラグを月に80万個も生産している名古屋市にある工場に取材に出かけた。水野鉄工所という従業員300名ほどのモノづくり工場である。エンジンのバルブ周辺で活躍するコッター(バルブスプリング・リテーナーロック)とか、ATのバルブボディ内に使われるスプールと呼ばれるアルミ製のバルブ、エンジンのシリンダー付近で使われるリングピン・・・こうしたごく小部品を月間数千万個という途方もない数を作り出している。
ところで、シートプラグは、3つの突起(足)を持ちオイルパンにプロジェクション溶接で取り付けられるという。コイル材を素材にしてパーツフォーマーと呼ばれる機械で圧造・成型され、最後にタッピングマシンでネジ切りがおこなわれる。ネジ径は、数種類あると思いきや、12ミリと18ミリの2タイプだという。よく見ると切り欠きが付いているものもある。これは廃油をできるだけ排出させたいための工夫だ、という。上から抜くことが多く、昨今あまり意味がないのだが・・・。意味がないといえば、例の3つの突起を作るとき、逆側は凹むのが普通。ところが凹みなしのフラットである。「設計図がフラットなので、こうしています。ただし、このためにはかなりのノウハウがあり、苦心しました」(担当者)という。凹みがあろうが、性能上はまったく問題ないはずだが、このあたりが日本のモノづくり(美意識)へのこだわりなのかもしれない。
ジャパニーズカーのシートは、1980年代まではかなりトホホなものだった。当時は、ドイツ車のシートやフランス車のシートにひどくあこがれたものだ。ところが、時代が移り21世紀になって日本車のシ-トは、それほど不満がなくなった。一番コスト意識にさらされる軽自動車のシ-トだって、80点を挙げてもいい。ではシートは自動車部品の世界では話題にはなりにくい、あるいは卒業しつつある技術、と思いきや「いやいや技術はこれからです!」とそんな声がしそうなシートが登場した。
いささかもって回った前振りだが、新型デミオのフロントシートは大いに注目していい。
見た目は、ふつうのシートだが、これまでのシートがSバネと呼ばれるスチール製のクッション構造を持っていたのだが、ペットボトルと同じ素材のPET樹脂をベースにした編み物、つまり「ネット状クッション構造」を採用しているのだ。そのうえに、1.5ミリのウレタン層、さらには布の表皮で覆われているので、ふつうのシートと同じに見える。が、従来シートにくらべ接触面が20~30%増加し、そのぶん姿勢の崩れが少なく、不要な筋肉の動作が少なくなり、疲れの軽減に結びつくという。しかも、このシート、シートバックフレームを成形後に高周波焼入れでは硬くし、結果として肉薄素材にしている。クッションとフレームの両面で軽量化が進み、1台あたり1.5kg軽くできたという。シートにも革新の波が寄せつつるようだ。
世の中には、目に見えない変革と目に見える変革がある。約3万点もの部品で成り立つ自動車の世界でも、その2つが常に出現している。目に見えるものは、ニュースにしやすいが、そうでないものは話題にのぼりにくい。でも重要なものも多い。
クルマの中の電線であるワイヤーハーネスのアルミ化もそれに入る。アルミは銅より約3.3倍比重が大きい。アルミ合金の電線でワイヤーハーネスを作ればコストはかかるが、車両の軽量化に一役買う。新型ヴィッツのドアに使われているワイヤーハーネスは国産車初のアルミ製のハーネスである。
ところが、導電率が銅の約60%なので、電線のサイズアップをしている。しかも腐食性が高いので、端子部に特殊な対策を施している。もちろん、被覆は、燃やしてもダイオキシンを出さないハロゲンフリー樹脂だという。住友電気工業㈱とトヨタの共同開発だが、やはりコスト面での課題があった。でも、アルミはリサイクル性が高く環境負荷は小さい。どんどん使うことで量産効果が生まれコストが下がるので、今後増える見込みだ。
街中を散歩するように、ときどきは博物館やイベント会場を散歩すると面白い。目的もなくただぶらぶらすると・・・目を吊り上げた取材モードでは発見できないものが目に飛び込んでくることがある。
台湾の台北で4月の中ごろにおこなわれたAMPAショーというクルマのアクセサリー、部品、工具の見本市でも、そんなシチュエーションで発見したものがある。
「カー・ラップトップ・マウンティング・ソリューション」というずいぶん長い名称のカー用品だ。音楽家が演奏のときに使う“譜面台”のようなもの・・・と説明すると理解してもらえるだろうか? 早い話、クルマのなかで、12インチのノートパソコンやⅰPadを安心して使いこなせる「台」なのである。アルミ合金製のロッドとトレイから構成され、ロッドは途中で折れ曲がっているので、好みの角度と高さにアジャストできる。マウント方法は、助手席のシートレースの前方取り付けボルトに共締めする。あるいはフロントガラスに吸着させる。後席で使うのなら、前席のヘッドレストを利用して取り付けることができる。0.8~1.3kgと軽量で、耐荷重性は2.5kgだという。
もちろん、パソコンやⅰPadだけでなく、コンビニで手に入れた食べ物を楽しむフードテーブルや、車内で書き物をするための“ワークテーブル”としても使える。この製品わずか半年ほど前に完成したもの。いかにも台湾のモノづくりらしい製品だ。ONYX社製で、詳細はホームページ(www.pjaps.com.tw)を見てほしい。
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