秋になるとインポーターのサービスマンコンテストがあちこちで展開される。要するに日頃実力を培っている全国の優秀なメカニックやアドバイザーと呼ばれるディーラーの現場のスタッフのコンテストである。
例年、何かひとつ感心させられることがあるが、今回はVWのアドバイザーのコンテストだった。「20キロ離れた自宅から不満をぶつけに来たお客様で、その不満とは外気導入にすると車内のニオイが酷いというもの」だった。お客様は、TVにも出てくるという俳優さんだ。そのクルマちょうど車検を前にしていたタイミングだったこともあり、選手は異口同音に「エアコンのフィルターが交換次期に来ています」という説明。つまりエアコンのフィルターが駄目になったからニオイが酷くなったというステレオタイプの発想をした選手がほとんど。このお客さんのクルマは普段木の下に停めていて、落ち葉がフードとフロントガラスの根元に溜まり、それが腐ってニオイを発していたことを突き止められなかった。VW車の多くは、溜まった落ち葉を除去しづらい構造になっているのだ。だから、役者であるお客様は、開いた口が塞がらないというわけで極端に言葉少な目。車検プログラムの提案をしても「検討します」というばかり。この場合の、「検討します」はほかのディーラーに行くよ、に限りなく近い!? だから、「いつご返事いただけますか?」とお客様に切り返すべきところなのであるが・・・10名の選手の誰からもその言葉は聞けなかったという。わずか15分間のコンテストだが、中身がいっぱいだった。
よく知られるように日産のGT-Rのエンジンは、横浜工場に所属する「匠(たくみ)」と呼ばれるベテラン作業員の手で1基ずつ組み立てられている。530PS,612Nmの超ドキュウのパワーとトルクが出ているか、エンジンダイナモのパワーテストで確認する。その手前まで、わずか1人の作業員の手で、約380個のパーツをひとつずつ組み上げ、ボルトというボルトは履歴が残るトルクレンチで限りなく正確に締められていく・・・。しかも、その工場は、チリやホコリのないクリーンルームと呼ばれる作業室である。匠は3つのピラミッド型構造になっていて、日々研鑽し、互いを高めあう作業集団だという。勘とコツの世界を伝承しつつより精度の高いエンジン組み付けを持続する集団でもある。大量生産ではない、見えない付加価値を売ろうというビジネスモデルといえる。
50年以上ものモノづくりの歴史を持つ自動車工場が、モノ余り時代に生き残るひとつの道なのかもしれないが、ユーザーにとって本当に勝ちあるものなのかは、実は別問題。というのは、匠のひとりに「ユーザーにとって手組みエンジンはどこがアドバンテージなのですか?」の質問の答えに窮してしまったからだ。「・・・・機械で組むとどうしても不具合が出る恐れがあるので・・・」と、つまりそれは、機械での組み付けは当たり外れがあるということ? と重ねて聞くと・・「その通りです」と返答。ということは量産車には当たり外れがあるということをいみじくも告白したってこと!?
キーをひねる、あるいはスターターボタンを押せばらくらくエンジンが始動し、すぐに走り出せるイマドキのクルマ。そんな便利さはごく当たり前のため、“このクルマ”を前にしたら、思わず卒倒しそうになった!
“このクルマ“とはトヨタ博物館(愛知県)にある木炭自動車(木炭を燃料とするクルマ)のことだ。
あまり知られていないが、今から60年ほど前の昭和21年のデータによると、実在車両が日本に約13万台いて、内44%が、代燃車だったという。代燃車は、第二次世界大戦後石油の輸入が滞った時期に、ガソリンに代わる燃料で走らせていたクルマのこと。代燃車のうち24%が木炭車で、次いで石炭ガス車、薪車が続いている。これらは、通常のガソリン車にくらべ、大幅にパワーが低下し、たとえば木炭車では50~60%だった。坂の途中で力がなく登れなくなった木炭車バスは、乗客が降りて後ろからバスを押して峠を登ったといわれる。
博物館にあるのは、当時官公庁の公用車として活躍していた1937年式のキャデラックのトランクに『愛国式』と呼ばれる木炭ガス発生装置を取り付けたもの。もともと木炭車は、欧州で一足先に発明された。木炭を燃やし、発生するガスを燃料としたもので、ガス発生炉、発生ガスの清浄器、冷却器などで構成されている。50kgの木炭で平坦路約100km近くが航続可能距離。スタートする前に、炭をふるいにかけ、炉内の炭落しを専用の工具でおこない、ガスの発生を待ち、さらに木炭に着火し・・・と走り出すまでに小1時間かかったのである。もちろん定期的に釜の掃除などのメンテナンスも大変だった。
ここ数年自動車部品のリサイクルは、環境意識の高まりからか、ずいぶん認知されてきたようだ。リビルト部品も、中古部品と同じくらいポピュラーになりつつある。
リビルト部品というと、ドライブシャフト、オルタネーター、スターター、エンジン、トランスミッション、パワーステアリングのラック、噴射ポンプ、ターボチャージャーなどが思い浮かぶ。大型トラック&バスの世界ではブレーキシューなどが昔からリビルト事業がおこなわれている。ところが、意外と知られていないが、クラッチディスクの再生事業というのがあるのだ。
川崎にある「東京クラッチ」という企業は、半世紀以上、再生クラッチの製造をおこなっている。スタッフ数10名ほどの小さな工場だが、そこで月に500~600個のクラッチディスクを生産されているのだ。クラッチといえば、マニュアル車。とくにクラッチ操作の頻度の高い路線バスがおもなお客様である。コア(素材)として入庫してくる中古のクラッチは摩擦材が紙のようになっていたり、ところどころベースの金属が顔を出しているものなど、限界まで使われたものばかり。10年前までは比較的景気がよかったので、再生率が70%近くまであったが、リーマンショック以降メンテナンスにお金をかけたくないせいか、再生率が40%だという。価格は、新品にくらべ30~40%安いが、まだまだ新品信仰があるせいか、市場の1割も満たないシェアだという。
自動車ジャーナリストを生業にしていて、よかったと思うことはあまりないが、たまにはある。時に近未来のクルマのハンドルを握れることが、そのひとつ。
世界の3大自動車部品メーカーのひとつであるコンチネンタル・オートモーティブが先日、技術を公開したなかで、興味が大きかったのはESAという仕掛け。ESAとはエマージェンシー・ステアリング・アシストの略。日本語でいうと緊急操舵補助装置。ときいてもピンとこない!?
早い話、走行中前方の障害物にハンドルを切って避けようとしたとき、その補助をしてくれる仕掛け。レガシーやボルボなどに付いているプリクラッシュ・セーフティ(障害物衝突防止補助装置)があればいいじゃないかという読者がいるはず。ところが、実際にはハンドルで障害物を避けようとして、避けられず、あえなく衝突というアクシデントがある。EASは、これを防ぐ装置。
ステアリングの切り方が不足したり、あるいは車両が不安定になり2次的事故に遭遇する・・・そんなシチュエーションである。ESAの構成部品は、77GHzのレーダーシステムで障害物をキャッチし、ESC(横滑り防止装置)でリアタイヤを制御、かつリアタイヤをステア(操舵)することで、危険を回避するというものだ。ESCが早めに作動し、リアタイヤを低速では逆相、高速では同相(フロントタイヤに対し)させることで車両をすばやく姿勢変化させ、安定方向に持っていく。実際、ESA付きの車両をドライブして試してみると、いささか違和感があるもののベテランドライバーもできないような素早い事故回避ができた。まるで忍者の如し!?
ところが、これを実際実用化するとなると、ブレーキとステアリングの依存度をどうするかなど、多くの課題がある。たぶん2~3年後あたりに登場するのではなかろうか?
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