車名の変遷を改めて調べてみると、世相が大いに反映されて面白い。日本のクルマ歴史約60年の間を高みから覗くと、カタカナからアルファベットへの流れ、さらにはごく最近ではアルファベットの略字が登場している。
だから、すぐにその意味が分からない。次期戦闘機名なのか、有人宇宙ロケットの名称なのか? あるいは化粧品名なのか?
たとえば、いま街中でエクスリアがやけに気になるトヨタのC-HRなるクルマ。調べてみると、「コンパクト・ハイ・ライダー」の頭文字をとったという。あるいは「クロス・ハッチ・ランアバウト」という意味を込めているそうだ。ライダーは仮面ライダーのライダーだし、ランアバウトは“走り回る”の意味。「ふ~ん」・・・そうなんだ。
このクルマ、新型プリウスのプラットフォームを活用した世界戦略的クロスオーバーSUVだという。トヨタ流のビジネスで、手持ちのユニットや技術を最大限に展開して、他社を圧倒するクルマを作り上げる手法は見事。経済評論家は多分そう評価する? 2つ目の「ふーん」だ。
一言でいうと『小さなハリアー』。このクルマの最大の魅力のひとつは、間違いなくエクステリアデザインである。
そこで、デザインコンセプトを調べると、なんだか面白い。
キーワードはDISTINCTIVEという英語の形容詞。慌てて辞書を引いてみると、「明確に区別できる」という意味だ。ディスティンクティブ・テイスト(独特の味)とかディスティンクティブ・アクセント(独特の訛り)というふうに使うという。昭和生まれには“ユニーク”と言ってもらったほうが……。「ユニークなスタイル」では現代人の心に響かないので、「ディスティンクティブなデザイン」と言い換えているのかしら。思わずここでも「ふ~ん」である。
このクルマを眺めていたら、ふと中学のときに画用紙を前に眺めていたアグリッパの彫像を思い出した。古代ローマの軍人で、いまでいうイケメンだ。「こんなハンサム近所のおじさんにはいないぜ」と木造教室で、一人ぶつぶつ言いながら鉛筆でデッサンらしきものをしたことがよみがえる。
C-HRの確かに彫りの深いデザインは、これまでの日本車にはなかったから新鮮。
1.2リッターのダウンサイジング直噴ターボと1.8リッターのエンジンとモーターを組み合わせた2タイプがあり、購入時価格は諸費用を入れると軽く300万円を超える。
ユーザーはこのクルマと毎日付き合っていて、つい自分の顔のことを思わないのだろうか? そこに違和感を抱くことはない。飛鳥時代からずっと1500年ほど外国文化を受け入れ、自分流に消化してきた日本人の子孫だから。
こんなに取り留めなき妄想を膨らませてくれるクルマはそうざらにない。