都営バスの工場には、バス全体を上に持ち上げ下回り整備などをするための”2柱リフト”が8レーンある。うち6レーンが車検専用のレーンで、あとの2レーンがエンジンをオーバーホールするためのレーン。
路線バスは、平均速度こそ遅い(平均時速11㎞/h台)が、走行キロ数が、月3000㎞とべらぼう。速度自体が遅いこと自体が、エンジンの水温が上がりづらく、吸気系が汚れやすいなどエンジンには大きなストレスを与えている。つまりシビアコンディション。自動車工学的に見ると酷使されている。その証拠に、エンジンだけでなく、走行系統、制動系統、電気系統、インテリアなどなどあらゆる面で、痛みや劣化が激しいようだ。
東日本大震災以前は、都営バスはだいたい「10年40万キロ」で買い替えていた。
ところが、それ以降は、15年60万キロまで乗り続け、そこでお役御免となる。
「ですから、お役御免の15年までに必ずシリンダーヘッドのオーバーホールのタイミングが訪れます」(工場長)実際、エンジンオーバーホールのエリアに行くと、一人の作業員がシリンダーヘッドを相手に、タコ棒を手に持ちバルブフェイスとヘッドのバルブシートの当り面を光明丹を塗布し確認しているところだった。バルブのすり合わせ作業だ。当り面の修正は、バルブフラッパーというエア式ツールでおこなう。フラッパーというのが「おてんば娘」という意味もあり、それを思うとなんだかおかしい。
30万㎞走行のいすゞの4バルブ6気筒の6HK1型エンジンだ。「このエンジンは、まだいいほうです。最近のエンジンはダウンサイジング・ターボなので、押し並べてストレスが大きく、オイル消費大や吹き抜け、水漏れ、オイル漏れなどの症状を引き起こし、なかには3年でこうしたオーバーホールを強いられるケースも珍しくないです」とくだんの工場長の言だ。