ふと耳を澄ませると、女性にまつわる独特な響きを持つ言葉が流通している。
山をこよなく愛する女子を称して「山(やま)ガール」、広島カープの女性ファンを称して「カープ女子」、バイク好きの女性を「バイク女子」、あるいは白衣をまとった理系の女史を称して「リケジョ」。
“これまで男性100%と思われてきた世界に飛び込んだ勇気ある女性”を指す言葉。当事者の女性たちが自らを称して、そう名乗るわけではない。周囲の男どもが羨望と冷やかしの気分が混じって、そう呼んでいるだけ。長く続いてきた“家父長社会のしっぽ”を断ち切れない日本男子の自嘲の思いがにじむ言葉、と言えなくもない!?
とはいえ、言葉はいつも挑発的。新しい概念を伝えるには、新しい風をまとう必要がある。
今回取材した静岡にあるネジをつくる専門メーカーには、「ねじガール」が活躍していた。「ねじガール」とは、簡単に言えば男性だけだったネジの製造ラインに女子、それも若い女性が進出し、ある意味旋風を巻き起こしている。
静岡県清水区興津(おきつ)にある従業員数80名ほどの日本でも有数のねじメーカー「興津螺旋(おきつ・らせん)株式会社」だ。JR東海道線の興津駅から歩いて約15分、国道52号線沿いにある。
国道52号線といえば、戦国末期から続く甲斐・山梨と駿河(静岡中部)を結ぶ身延道(みのぶどう)がそのルーツである。太平洋の大海原を背景に富士山が雄大にそびえ、景勝地日本平からも遠くない、まさに日本の原風景が広がるのどかな場所に、そのねじメーカーがある。そこで9名ほどの「ねじガール」が奮闘中なのである。
最近の合理化された工場の例にもれず、一日になんと200万個~300万個という莫大なネジ生産量に比べ工場のスタッフはわずか30名。そのうちの9名、つまり3割が女子なのだ。
「ねじガール」が誕生したのは、10年前の2012年のこと。はじめは男の世界バリバリのなかで、内心舌打ちし、違和感を伝える古参スタッフもいた。男子に比べ質問の量が多い女子に対し、うまく言葉にできない男子スタッフもいて、職場内に不協和音。でもそれは杞憂だった。やがて女性従業員の仕事に対する熱意が徐々に部内に伝わり、「ねじガール」が文字通り螺旋階段を着実に登るように、社内に新風を吹き込んでいったという。
これまで気づかなかった感性や着眼点の異なる女性が増えるに従い、オトコ同士のコミュニケーションも活発。「女性には無理」という、これまで訳もなく思い込んでいた思いが単なる思い込みに過ぎなかった。「工場で機械を触るのは男の仕事」という長く続いた固定概念も霧消。「機械に強い人は女性にもいるし、機械に弱い人は男性にもいる」この当たり前の常識が社内に定着した。国公大の工学部出身の女性も、入社してきた。
そして女性が働きやすい職場は、ひとえに男性にも働きやすい職場と同義語であることに気付いたという。これって難しく聞こえるかもしれないが、ジェンダーフリー。21世紀が目指す社会のひな型!?
(次回から数回にわたり、“ねじガール”のいる最新の「ねじメーカー」の面白情報をお届けします)
トヨタ初の乗用車となる「トヨダAA型」のプロトタイプA1型の開発は、じつはトラックの開発も兼ねていた。
同じエンジン(A型エンジン)をはじめとする主要コンポーネントを使い、シャシーは1934年式のフォードのトラックをお手本にしてトラックも同時並行して開発されていた。「G1型トラック」がそれで、もともとは軍からの要請だった。でも実情は、少し違った。当時は、トラックの方の需要の方がはるかに大きく、ビジネス的にはトラックを優先すべしという声もなくはなかった。つまり、乗用車専用で開発するにはリスクが大きすぎたのだ。
そこで、1935年9月、A1型試作乗用車とG1型トラックのテストが行われた。
当時は、いまのような専用のテストコースがあるわけではないので、一般公道での走行試験である。コースは、愛知県の刈谷をスタートし、東海道を東へ進み、箱根を越え東京。東京から北に向かい熊谷、高崎を経て伊香保温泉。伊香保から西に向かい碓氷峠を越え、上田を経由して松本。そして松本から山梨の甲府に出て、甲府から静岡県の御殿場、さらに熱海に着き、熱海からふたたび東海道を西に向かいゴールの刈谷まで…‥そんなルートでA1型が5日間で1433km、G1型トラックはそれより1日長い6日間で1260kmを走破したという。
改良のためのデータ集めだったが、実際は走行中次々にトラブルや故障に見舞われた。リアアクスル・ハウジングのフランジ取り付け溶接部が折損、プロペラシャフトが折れたり、ステアリングが効かなくなったり、トランスミッションが破損したり…‥現在の感覚でいえば、「危なくて乗っていられないクルマ!?」だった。
部品一式を積んだサービスカーが伴走していたからいいものの、単独走行ならその場でアウト。重大トラブルが起きたら万事休止だ。もちろんマイナーなトラブルは両の手指の数を越えた。
でも、その都度修理しながら、何とか予定の行程を走り終えてはいるが、前途多難な船出だった。明治維新からわずか70年しかたっていない極東の国が単独でクルマを作るということとはこういうことだった。愚直にならざるを得なかった。
フェラーリは、もちろんイタリアのスーパーカーだ。そのフェラーリに日本の練馬ナンバーを付けて、日本の道路を走る! これを聞いて「別にいいんじゃない!」というか「そうね、冷静に考えればフェラーリに日本の土着的匂いのする練馬ナンバーを付けるってダサいかも?」と思う人もいる。
そう考えると、この一見ふざけたタイトルも、深い意味を感じ取れてくる。
ふだんラーメンをすすりながらお金をためてスーパーカーのオーナーになるエンスー(エンスージアスト:趣味人)がいるとは聞いていたが、それに近い人なのかと思いきや、1962年生まれの著者は比較的恵まれたメディア関係者である。
「週刊プレイボーイ」のクルマ担当編集記者になったことから、この本の筆者はフェラーリのハンドルを握る。怒涛の咆哮の排気音がまとわりつく! その時いきなりクルマの神様が降臨し、フェラーリのオーナーへの道を決意。4年後諸経費込みで1163万円強の費用で1990年式フェラーリ348tb(V型8気筒3400cc)を手に入れる。ある意味人生はマンガチックなのかも!?
これで彼のカーライフは、極楽浄土、天国の楽園! と思いきや、いざオーナーになって冷静にフェラーリを味わってみると、誇るべき点とそうでない面を味わうことに。
フェラーリを持つことがゲージツそのものなのだ! と至福の思いに浸るも、冷静に弱点にも目を向ける(向けざるを得ない?)。まっすぐ走ってくれないし、少し気合を入れてコーナリングすると横に飛びそうになるし、ブレーキも動力性にそぐわず、なんだか甘い。早い話、クルマの3大基本性能である≪走る・曲がる・止まる≫、これがあんまりよくないのだ。
それだけではない! 金食い虫の高級車(あるいは当時のイタ車)は難儀だ。タイミングベルトを2年または走行2万キロで交換というオキテがあった。ふつうのクルマなら10万キロまでOKなのだが‥‥。手抜きすると、最悪ベルトが切れてエンジンがオシャカになり、目の玉が飛び出るほど大出費必至と脅かされ、泣く泣くベルト交換。ところが、エンジンが運転席の後ろに付いている、いわゆるミドシップ。だからふつうなら数万円で済むところ、エンジンを降ろしての作業がともない、けっきょくベルト交換だけで17万円!!
それだけではなかった。2年ほどで、エンジンからのオイル漏れ、高速でハンドルがふらふらするとか、フル制動でハンドルがガクガクするなど……の不具合の兆候が出て、けっきょくホイールアライメントの調整、ダンパーとスプリングの交換、スタビライザーのブッシュ交換などなど、総額71万円の大出費。
ここまで保守点検したにもかかわらず、スーパーカーは、油断できない! 遠出した時、いきなりエンジン不調に見舞われる。8気筒のうち4気筒が死んだ感じで、こうなるとスーパーカーもただの鉄の塊。
ディーラーのアドバイスでECU(エンジンコンピューター)のヒューズの差替えをしたところ、ウソみたいに直ったという。排気温度上昇で、ECUが自動停止したことが原因か?! 日本の夏はイタリアの夏より暑くて湿気が多いことが原因か? そんなフェラーリ都市伝説が付きまとう輸入車特有の悩みがボコボコ現れる。スーパーカーを所有することなど端(はな)から考えたこともない、普通の読者は、ここで大きく留飲を下げる。そして、丈夫で長持ちする日本車オーナーの自分を慰める!?
フェラーリオーナーの無尽蔵のトラブル体験と嘆き節がどこまでも続くと思いきや、このエッセイ本、途中から大きくスライス! フェラーリの母国イタリア旅行のドタバタや路線バスや鉄道輸送の超まじめな考察、市販車での草レースの自慢話などが展開される。内田百閒先生をホーフツしないでもない、いわば優雅なモータージャーナリストの“安房列車”といったところ。お気楽な気分になれる90年代のエッセイ集だ。
(1996年7月4日発行)
新潟にあるドライバー専門メーカーANEX(会社名/兼古製作所)は、このところ意欲的に新製品を世に送り出している。たぶん背景にはDIYブームがあるからかもしれない。
そのANEXのドライバーで一番のお気に入りは、ビスブレーカーというアイテムだ。
その名の通り、頭がつぶれたネジを回せるという「元祖お助けドライバー」である。ふつうの貫通ドライバーだけではない。先端部に注目(写真:右が従来型で、左がワニドラ)。先端部もクロス形状にすることで、舐めたネジの頭にハンマーで叩き、新たなクロス溝をつくる。これで舐めたネジを回せるというわけだ。
しかも新しいネジにも使えるので、普段使いにもとても重宝するドライバーでもある。
このドライバーのいいところは、かつておこなった“意地悪テスト”で一番いい成績をあげたことからも分かってもらえる。
どんな意地悪テストかというと、意図的に油が着いた手という想定で、食器洗い洗剤を手のひらに付着させ、ネジを回せるかどうか? というものだ。5段階レベルで、5点が満点として、大多数は3~4だった。なかには、ウッドのグリップなどは文字通りツルツルしてまったくチカラが伝わらず、使い物にならず評価1というものもあった。
ANEXのビスブレーカーのグリップ力の秘密はややユニーク。グリップ自体が合成ゴム系(TPE:熱可塑性エラストマー)でつくられ、断面が楕円形状のうえリブが付いている。これが劇的にグリップ力を高めてくれる感じ。握ったとき親指を置くディンプル(溝)が軸の根元にあり、これで使い勝手を高めている。このグリップのことをメーカーでは「クロコダイルハンドル」と命名している。“ワニドラ”という商品名は、ここからきているようだ。
ともあれ、この洗剤手のひらの意地悪テストでの評価は、5点満点でライバルを圧倒してしまった。
今回、品番も3980で、従来の3960から進化している。重量が、実測で133gから115gと18g軽くなっている。見えないところで、軽量化している。
この点をANEX本社に問いただしてみると「とくに軽量している意図はないです。個体差ではないでしょうか? ただ、刃先の形状を見直し、よりネジに食いつきやすく、結果として自社テストですが、従来比1/5の力でネジを回し外せます。素材も少し手にやさしく柔らかくしています。それと刃先をクロムメッキ+黒染めからパーカー処理に変更しています」とのこと。
このドライバー、使ううえで要注意なのは、熱処理した硬い素材のネジ(HRC硬度が40以上)には、残念ながら歯が立たない点。この場合は、ドリルでもんで、古いネジを取り外すなり別の手法をとることになる。
ホームセンターでの購入価格は、712円。海外ブランドに十分太刀打ちできるコストパフォーマンスだといえる。