部品を取り外したさい、紛失しがちなのはボルトやナット。便宜的に広げたウエスに置いておく、あるいは取り外した部品が皿替わりになればその中に入れるなど、それなりの工夫をするものだ。ところが、この便宜上おこなうことに意外に落とし穴が待ち構えている。広げたウエスを間違って踏んづけたとか、けつまずいた拍子に皿状の部品に入れたボルトやナットがいつの間にかどこかに行ってしまう・・・。こうなると紛失したボルトやナット探しに時間をとられ、途方に暮れることも!
やはり間違いのない、正しい仕事をするには、トレーを準備したいものだ。
マグネットトレーはこう考えると必需品と思ったほうがいい。ところが、従来のマグネットトレーは、重くかさばるため、当初は使っていたが、いつの間にか遠ざかり、トレー自体が行方不明となる! という事態もないわけではない(筆者の場合)。その点、たまたまホームセンターで見つけた「折りたたみ式マグネットトレー」は使えそうだ。購入したのは、φ135ミリとやや小ぶり(この上のφ230ミリもある)だが、蛇腹式なので、ふだんは厚みが27ミリほどで、実にコンパクト。しかも重量がわずか120グラムなので、大き目の工具箱でなくても収まる寸法。
ただし、マグネット力自体はあまり大きくないので、作業中に指で引っ掛けると引っくり返るおそれがある。それに蛇腹の隙間にワッシャーが入るといちいち蛇腹を両手で広げて取り出す面倒くささがありそうに見えるが、目いっぱい広げ円錐状にしていればその心配は不要。価格は税込みで483円とバカ安(φ230ミリはネットで見ると1000円ほどで手に入るようだ)。中国製で、㈱髙儀(電話0256-70-5100)が販売元だ。
「手の延長である工具」は、意外な面白さを提供してくれる。
アメリカンタイプの巨大スーパーマーケットコストコで、ふと見つけた「KELVIN 23」(ケルヴィン23)は、文字通り23のツールをひとつに収めたカナダ生まれのマルチツール。
手に持つとずしりと重い(実測303グラム)アルミダイキャスト製のハウジングに、いろいろな仕掛けを収めている。先端のスライド部を指でずらすと、いきなりポンとプラスドライバーが顔を出す。軸の中央はマグネットタイプで、ビスを紛失予防の目的で保持できる。大きなトルクをかけたいときは、L字にできる。
ハウジングの上部の樹脂カバーをはずすと、計15個のビットが現れる。プラスが4種類(0,1,2,3)、マイナスが4種類(2,3,5,6)、ヘキサゴンが3ミリから6ミリまで4種類、それに家具で使われる4角いビットが4種類(0,1,2,3)。これにトルクスがあれば完璧だが、値段(なんと477円のウソみたいなバーゲンプライスで手に入れた。通常は4000円ほどだ)を思えれば文句はいえない!? しかも、ハウジング先端部にはLEDライトまで付いているのだ。さらにさらにエンド部には、1940ミリまで測れるメジャーとハンマーまで付いている。忘れるところだった。ハウジングの上部には水準器まで備わるのだ。
このマルチ工具、「家庭で」「クルマで」「別荘で」「ボートで」と活躍するスーパーツール! というふれこみだが、実際はどうもプレゼント用というのがこのツールのメインのターゲットというか使い道らしい。バイクのツーリング用としても使えなくはないが、デスクワークで行き詰ったときに、この工具を取り出し、眺めたり、身の回りの機械をばらし憂さを晴らす・・・。そんな使い方が本来というところか。
近くのホームセンターで見つけた「ビスキャッチ・ドライバー」は、アイディアとしてはなかなかのものだ。
00番など通常は精密ドライバーの守備範囲の小さめのプラスビスを取り付けるとき、うっかりすると作業中ビスが落下して、いらいらすることがある。
こんなとき、これであらかじめキャッチしておく。樹脂のブルーリングを上に持ち上げれば先端部のツメ(バネ)が逆ハの字型に開き、ビスの頭部を捕まえることができる。そして相手の取り付け部にアクセス。ネジが固定された時点で取り外す。
ところがいざ使うと、ネジの頭部のサイズや形状にもよるのかもしれないが、グラグラして、かなり心もとないのだ。これなら、マグネットタイプのほうがまだ数段に使いやすいと感じた。ただ、精密ドライバーでマグネットタイプはあまり見かけない(ANNEXなどになくはない!)。工具というのは直接ひとが手に持つだけに本来シンプルさを求める存在。この製品は、付加価値を付け加えることで、逆に別の課題を作り出した、そんな典型的な製品といえる。
しかも、あちこちに「日本製」と謳うわりには、価格が307円(消費税込みで)と安い(これは誉めるべき点!)のだが、インジェクション成形のグリップの出来がよくない。バリを無造作に引きちぎった仕上りなのである。製造販売は、ドライバーメーカーとしては老舗の㈱新亀製作所(ブランド名「サンフラッグ」http://www.sunflag.co.jp/)である。
エンジンルーム内、あるいはインパネの下部など手が入りづらい狭いスペースでのねじ回しに苦労するケースがある。むろん、この場合はスタビドライバーの登場なのだが、このスタビドライバーが意外と曲者。小ぶりのサイズだとアクセス性には優れるが、どうしても指先だけの作業となるので、回すときトルクをかけづらく、最後までしっかり締めこみづらい。だからといってグリップが太めだとチカラの伝達こそ上手くいくが、アクセス性に課題が残る。まさにジレンマの世界。
ANEX(兼古製作所http://www.anextool.co.jp/)の「ラチェット式ミニ・スタビードライバー」は、このあたりのユーザーのじれったさを解消すべく考えられている。本体を軽量なアルミベースの丸みを帯びた(直径33ミリ)とし、外周に滑り止めのローレット加工を施し、内部にラチェット機構(ギア数40なので送り角9度)を組み込んでいる。握りなおすことなく、実に軽やかに動かせる。
付属ビットは使用頻度の高いプラス2番と、マイナスの6だ。ビット装着時の高さは31ミリ。樹脂製のスピンディスクを付ければ早回しができるし、付属のハンドルを本体に取り付ければ、トルクアップが図れる。ビットに溝を施すことで、この溝にツメを立てれば比較的楽に脱着できる実に細やかで、心にくい工夫がある。価格はホームセンター調べで1214円。この手のひらにのる小さなドライバーを眺めると、なんだかメイド・イン・ジャパンの素晴らしさが味わえる。
モンキーレンチほど、ふだんは当てにされないが、いざとなると当てにされる工具はない。
ボルトをつかむ開口部の幅をウォームギアと呼ばれるギアで自由に変えられ、複数のサイズのボルトに対応できるのが一番のウリ。でも、アゴ部の調整自由ということは、微妙に相手の6角部とのあいだに遊びがうまれ、“カドが舐める”というトラブルを引き起こす要素をはらんでいる。モンキーがアバウトなツールの代名詞でもある所以(ゆえん)だ。英語ではアジャスタブル・レンチとも呼ばれるだけに、便利の裏には不都合な事実が隠れている!?
そこで、モンキーレンチの各メーカーは、ここ20年「遊びの追及」に尽力してきた。遊びはガタともいい、ガタが少なければ、相手の6角部を舐めづらいからだ。とくに新潟のTOP工業はひたすらそれに邁進したのはよく知られている。
ペンチやニッパーの老舗で東大阪の「フジ矢ペンチ」(電話0120-248-440)が、モンキーレンチの世界に進出している。この製品もそのひとつで、ためしに近くのホームセンターで「ライトモンキーFLA-28-F」を購入してみた。全長155ミリ、厚み10ミリ、幅58ミリの手のひらサイズ。0ミリから28ミリも開くので、小柄なわりには、幅広いボルトに対応できるというのが最大のウリ。使ってみると、あごの遊びが極端に少ない。遊びが少ない背景は工作精度の向上だと見た。しかも、モンキーは通常上下のアゴがすこしハの字に開き気味なのだが、これはパラレル。しかも下あごに滑り止めにギザギザが施してある。薄く、しかもグリップ部に肉抜き穴があり、114グラムと軽くできている。ふだん使いというよりも林道ツーリングのツール袋のなかに忍ばせておきたくなる一品だ。購入価格は1419円。台湾製だ(人件費の高い日本ではとてもこの値段ではつくれない)。ネットで調べると、これ以外にも、いろいろなサイズがラインアップしているのに驚く。
モノを挟む道具のうち一番ポピュラーなプライヤーという道具は、どちらかというと、これまでないがしろにされていた。少し前まで、バイクでもクルマでも「標準工具」というおまけに付いてくる道具のなかで、見るからに安っぽい工具がプライヤーだったからだ。標準工具のなかで、ドライバーはとても使い物にならなかったが、プライヤーはとりあえず使えたため、「プライヤーとはこんなものなのか」とユーザーは合点した。よりいいプライヤーが登場しなかった背景はどうもそんなところにある。(もちろんクニペックスなどのブランド品はあるにはあるが)
新潟県にあるIPS(五十嵐プライヤー)は、このプライヤーに目をつけたのは凄いと思う。「プライヤーを使うユーザーが困っている点はなんだろう?」たぶんそんな疑問から、このソフトタッチのプライヤーが誕生したのではないだろうか。全体のデザイン自体は従来のプライヤーと同じだが、くわえ部分に樹脂としていることで、くわえた際の相手へのダメージをやわらげている。メッキ品や化粧ナット、樹脂製品をくわえた際、樹脂なので、傷つける心配が小さくなる。しかもくわえる部分のデザインに工夫をすることで、加工性も向上させている。くわえ部は、いわば消耗品。破損したら、プラスドライバー1本で交換が可能だ。見逃せないのは、プライヤーはガタが大きいのが当たり前だが、ごく小さい。しかもグリップにはビニール・コーティングを施しているので、手が痛くなりづらい。黒い部分はカチオン電着塗装だという。
近くのホームセンターにて820円で手に入れたのだが、なかなか侮れないプライヤーだ。調べると、IPSには、このソフトタッチシリーズにはウォーターポンププライヤーなど全部で7シリーズもある。
工具だけではないかもしれないが、工業製品をウォッチングしていて、ときどき面白いな、と感じるとは、“下克上”の現場を見ることだ。下克上とは、戦国時代、目下のものが目上の者を凌駕する、いわばオキテ破りの現象。
ウォーターポンプ・プライヤーは、上下のアゴ部から延長している長めのハンドルを両手で開き,掴む相手の大きさにあわせ、アゴ巾を調節する。つまり「掴む前に、目算してこのぐらい開けばいいかな・・」と考えながらの“前動作”を要した。だから、慣れないと、ときどき、開きなおし! ということもある。そのぶん二度手間にもなる!
GISUKE(扱い企業名:高儀 電話0256-70-5100)の「オートマチック・ウォーターポンプ・プライヤー250ミリ」は、はじめから目いっぱいアゴを開いて相手を掴めば、OKなのだ。自動的にアゴ巾を調整してくれるのである。相手の大きさに合わせてあらかじめ・・・という心煩わせる必要なし。下部のグリップにスプリングを内蔵したストッパーが付いていて、上のグリップ部がずるずると動き、アゴ幅を相手にフィットさせる・・というものだ。
「必要は発明の母」あるいは「誰にでも思いつきそうだが、いざとなると・・・なかなか」、「だれがどんな流れで思いつき商品化したのだろうか?」。このウォータープライヤーをいろいろいじっていると、そうしたコトバが頭のなかに渦巻く。しかも、ジョイント部が3枚合わせ構造なのだ。これは2枚合わせにくらべ、コストアップになる傾向なのだが、力強く握ったときどちらかに振れないし、相手にたいし体勢が崩れずにピタリと掴むことができる。形状も、どこかドイツの老舗クニペックス風で、飽きがこない。価格はホームセンター調べで1810円と、実にリーズナブル。中国製の工具というとこれまで評価以前のものばかりだったが、初めて評価していい製品に出会えた!?
ネジにまつわるトラブルのなかで、よくある頭部のつぶれ。こうなるとそう簡単には回せない。
タガネを使い、新しく溝をつくる、あるいはプライヤーのたぐいで無理やり回す・・・そんなとき、このドライバーがあればスマートの問題を解決してくれる。兵庫県三木市のある藤原産業㈱(電話0794-86-8200)が扱う「パーフェクトドライバー」。横浜・みなとみらいにあるホームセンターにて753円で手に入れたものだ。
いっけん何の変哲のないドライバーに見えなくはないが、先端部の片側がまるでマイナスドライバーのごとく薄くなっていて、タガネのようにつぶれたねじ山にハンマーで打ち込める仕掛け。あるいはその前に、強く押し付ければ、グイッと食い込み、回すことができるかもしれない! グリップが黒色でほぼ丸断面に近い。軸は「クロームバナジウム鋼をハードメッキしてあり、高い強度を誇る」とある。いじっているうちに、急に10数年前に一度使ったことがあることが、頭のなかでひらめいた。「そうだ! トーコマというメーカーのドライバーだ!」
調べてみると、やはりグリップにもTOKOMAの文字があった。実は、トーコマは、兵庫県小野市に本社を置き、大正13年創業のドライバーの老舗。ベッセルやANEX(兼古製作所)などと並び称せられる日本のドライバーメーカーだったが、平成26年に倒産している。これは推理だが、その在庫を藤原産業が扱っているということか!? でも、グリップエンド部(ポリカーボネイト製)にSK11 PERFECT-FIT というロゴが見える。となると、ただの在庫品ではない!?
手のひらサイズのガングリップタイプの小型ラチェットハンドル「ペッカーラチェット」である。
2ヶ月ほど前、ANEX製の同じタイプを取り上げたが、こちらのほうが少し値段が高いが、よりすぐれているようなので紹介したい。不思議なことにこちらもギア数は10しかない。ANEXのときにも不満を漏らしたが、通常のラチェットハンドルが80だ90だというときに、これでははじめから通常のラチェットハンドルの土俵の上に乗らない製品だとみた。
そうした目で見ると、悪くないかもしれないと思いはじめる。
対辺が6.35ミリ(1/4インチ)のビットを差し込んだときのガタも少なく、硬質プラスチック製という本体のグリップフィーリングも悪くないのだ。ラチェットを乗り越える力も軽く、音も軽やか。赤とグレーの色使いも悪くはないし・・・。もう一個のビットが納まるハンドル部の格納の様子もまんざらではない。「許容トルク30%UP」と謳っているのだが、モノづくりメーカーがときどき犯す癖で、何を基準に3割アップしたのかが不明。従来自社製品なのか、ライバル商品なのか? 重量を測ると105グラムあった。寸法は100×60×30ミリ。
なお、ビットの内容は、プラスの1番とマイナスの4.5ミリ、プラス2番とマイナスの6.0ミリの組み合わせ。もちろん、手持ちの6.35ミリのビットを使うことができる。購入価格は、1490円だった。サンフラッグ印の㈱新亀製作所製だ。電話06-6971-6131。
これって、いかにもプロ好みにハンドツールっていえるのかもしれない・・・
そんな第一印象を抱いたのがサンフラッグの「ロータリー・アクショングリップ」である。
品名自体が、大阪人の発想のようで、なんだか意味不明だが、要するに対辺1/4インチのヘキサゴンビットをジョイントして使うT型レンチである。アルファベットのTの上部の横棒がスライドしL字レンチにもなるし、完全に抜き去り、Iレンチにもなる。Tの縦棒の中間部に樹脂の黒色カラーが備わるので、クルクルッと早回しできるのがミソ。
もうひとつのミソは、ヘキサゴンビットとのジョイント部が手前にスリーブを引くとロックが解除でき抜き差しでき、しかもマグネット付きで、なおかつジョイントの遊びが小さいという点だ。遊びが少ない、という点だけで、プロユースといえる。モノづくりの世界ではこれが意外と難しいからだ。
ただ、いざ使うとなるとやや重く、しかも工具箱でかさばるのが気にかかる。単体での重量が224グラム、長さが200ミリあり、これにヘキサゴンのビットを取り付けるとさらに長く重くなるからだ。でも、重いぶん丈夫に感じ信頼感は小さくない。使いこなすうちに整備の能力がなんだか高まるのではないか・・・そんな、多少オーラを感じなくもない工具である。㈱新亀製作所 http://www.sunflag.co.jp/
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