スイスという国は、不思議な国だ。永世中立国にして軍隊を持ち、いまでもバチカンへの傭兵までいる一方、GDPは世界19位。金融、観光、精密機械、化学薬品などがおもな産業で、一人あたりの年収は8万ドル以上(約800万円)。全世帯数の約9.5%が、100万ドル(約9000万円)以上の資産を持つ富裕層だというから凄い。
そんなスイスに世界的に名が知れたドライバーメーカーがある。PB(ピービー)だ。創業者のPAUL BAUMANNの頭文字がその社名の由来。1878年農機具づくりからスタートしたPBは、1940年代からドライバーに特化。意欲的な新製品の投入で、世界のドライバーメーカーを牽引する存在だ。
そのPBで、注目したいのは、クロスハンドル型のドライバー。まるで大きなリーフ状のハンドルで、使うと実にチカラが入れやすく手にやさしい。赤色の樹脂製で、滑りづらい表面仕上げが特徴だ。通常ラチェットドライバーというと、おもちゃ感覚が多いが、これはプロ仕様だ。軸の途中に歯数24のラチェットギアが仕込まれており、気持ちのいいフィーリングで締め込んだり緩めたりできる。先端部には、1/4インチのビットが取り付けられる。軸のガタもまったくなく、しかも中立位置(左右の切り替えはラチェットの収まる黒い部分)でも遊びのないところは他を圧倒している。スナップオンなどに比べ重量が3割ほど軽いところもアドバンテージ。ビットの収納部はハンドル部にはないのが玉にキズだが、すぐ愛着を抱き馴染むことができるラチェットドライバーだと評価できる。価格はそれなりに高く、ビットが付かないで8、190円もする。喜一工具 www.kiichi.co.jp/
前回のビーハのドライバーも魅力的だったが、同じドイツのハゼットにもお勧めのドライバーがある。品番802というタイプで、「ヘキサナミック(HEXANAMIC)」というカテゴリーのドライバー。従来ハゼットのドライバーは、3角断面の黒い色の樹脂グリップを特徴としていた。「三角」はギリシャ数字でトリなのでトライナミックといった。3角断面なので、手のチカラの伝達能力が高く、しかも作業台のうえで転がりづらくて都合がいい、という評価をかつてしたことを憶えている。あれから10数年、評価基準は高まるものだ。当時の言い分が恥ずかしくなるほど、実は802は魅力的なのだ。
見るからにグリップ断面が大きい。事実測定すると“胴回り“が120ミリもあるオデブちゃんだ。6角断面だが、交互にヘコミをつけているので、12角ともいえる。ところで、握ってみると、実に手のひらにピタリ張り付く感じ。これなら何時間使おうが指が痛くならないのでは? と思わせるほど。しかも見た目にくらべだんぜん軽い。今流で、グリップエンドにマークが付けられプラスかマイナスかがひと目でわかる。試しに家庭用洗剤を付け握って見たが、今までのドライバーに比べ滑りづらいようだ。http://www.hazet-japan.jp
クルマでもバイクでもそうだが、いつの間にかヘキサゴンボルトは増殖している。通常の6角ボルトにくらべ、頭部が小さくできるのが主流になりつつある理由のようだ。とくにボタンネジと呼ばれる頭部が低く丸まった形状のボルトは、出っ張りが少ないことからバイクのボディ回りなどにポピュラーに使われている。
ところが、ヘキサゴンボルトを締めたり緩めたりする場合、≪頭が小さい≫ということが弱点に結びつく。脱着の際使う工具、つまりヘキサゴンレンチの2面巾が、旧来の6角ボルトより2回りほど小さくなるからだ。たとえばM8のボルト、つまりネジの直径が8ミリのボルトで考えると、6角ボルトの場合、頭部の2面幅は12ミリもあったのが、同じM8のヘキサゴンボルトだと、6角穴の2面幅が10ミリなので、10ミリのヘキサゴンレンチを使うことになる。同じネジ径で2ミリも小さい工具で回す。ということは、6角ボルトの感じでヘキサゴンレンチを使うと、いきおいネジの頭がぐちゃぐちゃになったり、レンチ自体が破損したりする可能性があるということ。とくに、M5あたりのボタンタイプのボルトを脱着する際にこのことを想定し、できるだけ慎重におこなう。ボタンネジは穴部が物理的に浅くなっているからだ。
こうした背景で、ヘキサゴンレンチは、ネジを傷めにくい形状が求められてきた。そのひとつの回答が、ベッセルの≪ウルトラヘックス形状≫。6面のうち3面をウエーブ形状にすることで、相手のボルト穴に対して応力が集中しづらい工夫となっている。使うとなるほどという感じがする。
ボールポイント側も、通常の形状とは異なり、先端を尖らせボルトの穴部の上部に当たる形状でしかもクビレ部が太い感じ。傾き角度が最大35度だ。ソリッド部の95%のトルクがかけられるため、本締めもできるという。工具は使ってナンボの世界、さらに使い続けてリポートしていきたい。http://www.vessel.co.jp/
ネジにまつわるトラブルというのは数多くある。
ねじ山が駄目になった場合、頭がもげた場合、頭がぐじゃぐじゃになって普通の工具では回せなくなったケースなど・・・。ねじ山が倒れたら、ダイスとタップで修復したり、頭がもげたらポンチで根気よく回そうとしたり、それでも駄目なら、折れた面を平らにし、逆タップを立てる・・・など文字通り応用問題、経験がモノをいう世界。
そんなトラブルで、意外と重宝するケースがあるのが、グリッププライヤーの小型版。全長140ミリ、最大開口30ミリ、ジョー(アゴ)の長さ18ミリのコンパクトなものが、想像以上に活躍することがある。
使い方は、対象物に合わせてジョー開口調整ノブの開きを調整。対象物をジョーで掴み、カチッと音がするまでグリップを握る。これでまるで凶暴なサメのごとく対象物を捕まえるので、つぶれたネジ頭をつかまえ緩めることができるわけだ。取り外すとき(リリース)は、赤色のリリースレバーを外側に押すだけだ。リリースレバーが赤くなっているのでとても使いやすい。
価格はなんと530円。ストレート製だ。http://www.straight.co.jp/
3/8インチの差し込み角のラチェットハンドルの世界で、スナップオンの80ギア、KTCネプロスの90ギアが注目を集めているが、いずれも1万円以上なので手が出せないユーザーもいる。ところが、取材してみるとイブシ銀のような、光り輝くラチェットハンドルが日本には存在する。使いやすい小判型のギア数が72。切り替えレバーも節度ある動きをしてくれる。もちろんにメイド・イン・ジャパンだ。
FPCの新型ラチェットハンドルRH-3KL。プッシュボタン式で、全体は鏡面仕上げ。グリップが実に個性的。すべりにだんぜん有利なローレットなのだが、形状が紡錘形をしているのだ。紡錘というのは、錘(つむ)とも呼んでいるもので、糸をつむぐと同時に、糸によりをかけながら巻き取る道具。握ったときに手になじむ形状はほかにはない。価格は、4250円。
FPCというのはフラッシュ精機のブランド名で、明治30年大阪郊外で農機具製造所からスタートした50年以上の歴史を誇る老舗工具メーカー。面接触のソケット・パラボラソケットを1990年デビューさせたり、相手のボルトやナットを含め接続個所をすべてロッキングすることができる「ロッキング・ソケットレンチ」を世に出すなど意欲的な製品をつくり続ける。http://www.flash-tool.co.jp/
ハンドツールなんてアイテムは規格や長年の歴史があるので、目に見えた変革をするのは極めて困難。そんな思いが強いが、この商品を眺め、手に持ち使って見ると、それは独りよがりの思い込みに過ぎないことに気付き、ハッとさせられた。
「超軽量! JIS規格の強度を実現」というキャッチコピーをもつ「ライツール(LIGHTOOL)」。ライツールとは、もちろん“軽い”という意味のLIGHTと“工具”のTOOLを足した造語。Tはダブルので、1個にしただけ。
サイズ12ミリを例によって体力測定すると、全長は141ミリで、通常のタイプより30ミリほど短いが、いたるところで肉抜きされている。軸の2/3は空白だし、スパナ部の両翼も肉がそぎ落とされている。重量は、通常の70gに対し約半分の38gだ。平均30%の軽量化。「こんなに肉を抜いて大丈夫かな」と思わず指で、曲げようとするがもちろん曲がらない! 開発者いわく、「JIS規格の強度をクリアする」というからすごい。バイクのツーリングにぴったり。サイズは5.5ミリから24ミリまである。スパナとメガネレンチにも“ライツール”がスタンバイしている。いずれにしろ少し使って何か発見したら、報告する予定だ。
発売元は、新潟の旭金属工業製(http://www.asahi-tool.co.jp/)。価格はたとえば12ミリのコンビレンチで1100円。KTCのネプロスの1/3ととてもリーズナブルだ。
ハンドツールの世界で、このところ使用頻度が増すヘキサゴンレンチ。別名、6角棒レンチ、ヘックス棒などと呼ばれ、6角穴付きボルトなどを回すうえで欠かせない道具だ。
そのヘキサゴンレンチにもドライバータイプ、ナイフタイプ、L字タイプ、T型タイプ、ソケットタイプと多種多様だが、主流はL字タイプ。これはそのT型タイプの付加価値を高めた製品。通常、一般的なヘックスレンチセットは、2面幅が1.5ミリから10ミリまで7本組みや9本組みとなっている。ところが、実際よく使うのは、4ミリ、6ミリ、8ミリあたり。それぞれネジ径でいえばM5、M8,M10である。「連結ホルダー」というのは、おもちゃのレゴを思わせる樹脂製の“親指大のブロック”。なかに白い樹脂のスリーブが納まり、レンチを差し込めるようになっている。面白いのは、ヘキサゴンレンチのサイズ別ごとにカラーが決められている点だ。
1.5ミリプラス2ミリはピンク、4ミリはイエロー、6ミリは緑、8ミリは水色という具合。連結ホルダーには隣り合う辺に突起と溝が付けられているので、スライドすることでどんどん連結させることができる。使うときは、ホルダーから取り外して使うのだが、連結ホルダー全体がカラフルでユニークなので、愛着を抱く要素がプラスされた感じ。正式な商品名は「連結ホルダー付き6角棒レンチ」。サイズ3ミリ以上のボールポイントには漏れなくキャッチボール付きで相手のボルトをしっかりキャッチしてくれる。発売元は、新潟の旭金属工業製(http://www.asahi-tool.co.jp/)で、価格はたとえば4ミリで1000円とやや高め。
たとえば仕事場、たとえばクルマの中,たとえばバイクのツーリングバックの中・・・「いつでも手元において邪魔にならず、すぐ取り出し使えるドライバーセット」というのはたぶん工具好きの読者の誰しもが思うことではないだろうか?
今回取り上げるANEXの「スーパーアクション・グリップドライバー」は、かなりそのイメージに近いと思う。全長125ミリの多彩なビットと樹脂製グリップが、黒色の洒落た専用ケースに収まる。“スーパーアクション“というとなんだか昭和の香りがするが、要は通常のストレートタイプのドライバースタイルだけでなくT型レンチ風に素早く変身できる、ということらしい。樹脂グリップはもう少しフィニッシュの完成度が高いといいのだが、何よりの魅力はビット7本の両端に、プラス1番と3番、マイナス6とプラス2番、トルクス20とトルクス25、トルクス27とトルクス30、ヘックス4とボールポイントヘックス4番、ヘックス5とボールポイントヘックス5,それにヘックス6とボールポイントヘックス6・・・という具合。
ちなみにANEX(http://www.anextool.co.jp/)は、新潟にあるドライバーをメインとした工具メーカー。60年の歴史を感じさせる一品といえなくもない。価格は7000円。重量は365g。
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