一昔前まではプロのメカニックのあいだでは、ラチェットドライバーと聞くと「おもちゃのドライバーだね」という評価だったが、スナップオンのラチェットドライバーの有効性が伝播するにつれ、その概念は葬り去られた。ワンタッチで左右切り替えができ、腕のスナップをきかせるだけでビスが回せる便利さは経験すると忘れがたい。
つい最近日本のハンドツールブランドであるKTCから「ラチェットドライバーDBR14」がデビューした。 さっそく使ってみた。ずばり言えば、グリップ感、使用フィーリング、重量バランス・・・などスナップオンが1馬身リードの感じ。重量もスナップオンの290グラムに対し、KTCは348グラム(実測値)と20%ほど重い。同じ作業を続けざまにするとKTCは不利となる。しかも、スナップオンはグリップが折れ曲がりピストル型(ガングリップ)にすることもでき、その点での使い勝手は3馬身のリードを許す!?
だが、KTCにも美点がある。ビットが全部で8本付いていて、先端形状が14種類もあるのだ。スナップオンも買い足せばいろいろなビットを付けることができるが、KTCは、わずか4、300円(スナップオンの約半値!)でプラス1番、2番、3番は無論のこと、マイナスビス3タイプ、ヘキサゴン4サイズにトルクス4サイズが始めから入っているのである。ちなみに、KTCとスナップオンのビットの互換性はない。
たとえば、ソケットにエクステンションバー(延長棒)を取り付け、エンジンルーム内にあるボルトを緩めているとき、相手のボルトにソケットがくっついて泣き別れ、はたまたボルト+ソケットが落下した! といったトラブルを経験した読者もいるハズ。
使い込んだソケットやエクステンションバーの場合、よくあるトラブルである。
そんな時、それぞれをがキッカリとロックできたらどんなにいいだろう・・・と考える。かゆいところに手が届く・・・とでもいうべき工具は意外と存在するのである。
FPC(フラッシュ精機)の「フルロックキング・ソケットレンチセット」がそれ。ラチェットハンドルを中心に、75ミリと150ミリのエクステンションバー、スピンナーハンドル、標準サイズのソケット、ディープタイプのソケット、ユニバーサルジョイント、スピンディスク、それにスパークプラグソケット2タイプ付きだ。ロックボタンもしくはレバーを作動させることでロックON/OFFを切り替えるタイプ。
スナップオンなどとくらべると、やや滑らかさ、高品質感には欠けるきらいがあるが、切り替え作業に慣れさえすれば通常の使用上ではまったくノープロブレム。 興味のある読者は一度工具屋さんで手にとって試して欲しい。
ここ数年クルマのドア回りの構造が大きく変化しつつある。
かつてはハードトップ志向でサッシュレスタイプが流行していたが、このサッシュレスにはいろいろ問題が多いのである。
ウエザーストリップがいわゆる一筆書きができず、シール性が難しいため、ノイズと振動に悩まされ、高速走行時にはガラスが浮き上がり雨水が浸入することもありうる。ガラスを降ろしたときに積み残し代が大きくなるし、ドアパネルの補強が必要となり、ドアポケットにドリンクホルダーを設けられない。加えてサッシュレスタイプの一番の悩みは、浮き上がりを利用して隙間にタイヤレバーをかますなどの盗難に襲われやすいという側面もある。
意外と知られていないがサッシュタイプはガラスのリサイクル性にも有利。というのはサッシュを付けることで振動騒音が軽減されるため、ガラスの厚みを薄くできるからだ。たとえばサッシュレスなら4ミリ厚だったガラスが、サッシュタイプにすることで3.1ミリにできた事例があるくらい。
クルマのトランスミッションの世界もどんどん進化し続けている。
一番の話題はCVTの目を見張る進化具合である。かつてのCVTは、油圧式制御だったためスムーズさに欠けたり、エンジンをレーシング(空ぶかしのこと)した状態でポンと繋ぐとプーリーと金属ベルトが滑りほどなくベルトがばらけてしまう・・・そこでリサイクル部品の注文が殺到、という事態になった(新品は目の玉が飛び出るほど高いから!)。
でもこれもいまは昔の物語で、たとえばベルトがプーリーと当たり面に細かなオイル溝を設けるなどの工夫で信頼耐久性がずいぶん高くなった。そればかりでなく、電子制御が巧妙になり、走りがよくなり、燃費にも大いにプラスしている。いまどきの燃費のよいクルマは、ハイブリッドを別にして、フリクションロスの少ないエンジンとよくできたCVTの組み合わせに絞り込まれてきているほど。
ところが、CVTのメンテナンスで間違ってはいけないのは、潤滑油。CVTF(Fはフルードのこと)はそのCVT指定のものを使うこと。同じメーカーでもジャトコ製のCVTとアイシンAW製のCVTの両方を持っていることがあるので要注意。これを間違えると摩擦係数が異なり、ベルトが滑り最悪故障の原因となる。
北京近郊に≪全体がディズニーランドそっくり。なかではミッキーマウスそっくりの着ぐるみやピカチュウそっくりの人形が販売されていた≫という遊園地があり物議をかもしている。そんなニュースがまだ記憶に残っているなか、先の上海モーターショーにも多くのフェイク(偽物)が展示されていた。
なかでも一番面白かったのが、スパークプラグのNGKのブース。正真正銘のホンモノのNGKのスパークプラグと、中国各地で出回っている偽物をコンビネーションとして展示していた。カットモデルまで見せて「中身がこんなに違います」みたいなところを中国のユーザーに示していた。さらに「偽物を使うとエンジンがブローしますよ」あるいは「ピストンに穴があきますよ」はたまた「こんなふうに偽物は金具部分が錆びますよ」「電極が簡単に溶解しますよ」。
NGKというロゴに紛らわしいNGLとかMGKがあるという。 これって、プラグメーカーにとってはとても大きなダメージで、本気で困っている。
「ノレンに腕押しみたいな気もしますが、それでもこうした啓蒙活動をすることで少しでも理解して欲しい」とそこにいた担当者は中国のフェイクに対するノーテンキ振りの実情を呆れ顔で説明してくれた。価値観の違いでは済まされないところまできているようだ。
海外を取材すると服装や習慣の違いと同じように、クルマに対するまなざしの違いでびっくりすることが少なくない。
上海のとあるカーショップに入ったところ、日本製のワイパーブレードを発見。英語、中国語、それに日本語の文字が入り乱れたパッケージに入った高級品だ。なかを開けてみてびっくりした。ゴムのブレードに樹脂製のカバーが付いているのである。
販売している日系の商社に問い合わせたところ「中国製のワイパーの約2倍の価格でも売れるんです。中国製だとすぐダメになるのですが、うちのは1年以上大丈夫という高い評価なんです。といってもこれも実は中国でつくったものなんです。日本の市場で学習したわれわれのノウハウを注ぎ込んだ製品です」
つまり逆輸入自動車部品だったのだ。それにしてもゴムブレードに過剰ともいえる樹脂のカバー。中国の市場では「ここまでやっているから高級品で長持ちする」というメッセージとして受け取るらしい。
40数年前、舶来のほろ苦いチョコレートやカラフルなレーズンのパッケージにまだ見ぬカルフォルニアのまぶしい太陽を想像した少年の日を思い出す・・・・。
欧州、北米、日本。世界には3つの大きなクルマ市場があるが、このなかで一番「異音」に神経質なのは日本だといわれている。
クルマの2大異音はベルトの鳴きとブレーキパッドの鳴きである。
とくにブレーキの鳴き消去作業が難しい。摩擦で熱を発生し、制動力を得るブレーキ。物理の世界でいえば、運動エネルギーを熱に変換する理屈である。このとき2つの物体がこすり合うのだから音が出るのが当たり前・・・といっても納得できないのが日本人。
そこで、ブレーキパッドやライニングの摩擦材をつくっている日清紡という企業の担当者が、デモカーで全国行脚するという。「ユーザーであるお客様にブレーキの仕組みをどう説明するか?」「ブレーキの鳴きを消す手法を伝授します」あるいは「いまどきのブレーキの素材、環境問題をやさしく説明する」・・・そんな役割を果たすというのである。
台数が少ないので遭遇する機会はまれだが幸運にも見かけたら、覗いて見てほしい。
昼間でもエンジンルームという世界は、存外薄暗いものである。夜になればむろんさらに暗くなり作業などできないので、作業灯が必要となる。ところが、光は直線でないと進まないので、作業灯だけでは今ひとつのケースもある。そこで、作業灯の角度を変えたり、セット位置を変えたりする・・・。
台湾からやってきた「TOPTUL」(トップツール、と読むらしい。詳細はhttp://www.can-corp.jp/)はソケットのボス穴にLEDを組み込んだタイプ。たとえまわりが暗かろうと相手のボルトやナットの頭をクリアに照らし出しぴたりとソケットを使うことができる、というものだ。
写真に見るようにソケットに樹脂製の赤いスイッチを付いていて、これでLEDのON/OFFができる。差込角3/8インチはドライブ側の穴が小さいので1/2インチにし、アダプターを追加することで、3/8インチとしている。ボタン電池3個で、約48時間点灯するという。スペア電池1セット付きで3/8インチが3000円、1/2インチが2800円だという。
クルマをメンテナンスしたり修理する場合、意外と苦労するのが工具である。
「帯に短しタスキに長し」とはよく言ったもので、ある部品を脱着するときにちょうどいい、つまりスピーディに確実に、怪我をすることなく作業できるハンドツール。これは言葉で言うのは簡単だが、クルマが違えば、あるいは部品が異なれば使える工具も使えないし、逆にほかでは使えない工具が使えることもある。
個人的なさまざまなシテュエーションの整備やメンテ作業をこなすことで、いくつかの工具とその人の個人的物語のページが増えていく。たぶんベテランのメカニックといわれる人物は、経験と、現場を見ただけで即座に「この工具が一番いい」と判断でき、もしダメなら「ではこれでは・・・」ということをイメージでき、その的中率がうんと高い人のことだと思う。
かっこよくいうとクルマの整備というのは、あちこち失敗を重ね、成功の喜びの物語を紡ぎだしながら工具にまつわる、あるいは部品にまつわるお話を蓄積していく。
筆者の場合、写真にあるようなショートメガネレンチを見るとオルタネーターの脱着を思い出す。NA6CEロードスターのオルタネーターの脱着に欠かせない工具だった。これよりも長くても、短くてもダメな工具だった・・・。
初心者のころを思い出すまでもなく「坂道発進」ほどドライバーを悩ますシチュエーションはない。とくに路面が凍結しているときはなおさらだ。後ろに車両が下がるのを恐れついアクセルぺダルをあおり、凍結路面でスリップというケースもある。
このほどデビューしたホンダのSUVクロスロード(ストリームと同じプラットフォーム)の4WD車には、こうした不安を取り除く仕掛けが付いている。「ヒルスタートアシスト機能」がそれ。ブレーキとエンジントルク制御で、走行中の左右輪の駆動力を緻密にコントロールするVSA(車両挙動安定化制御システム)の機能にプラスして坂道でブレーキ圧を約1秒間保持することで後退を防ぎ、余裕をもって発進できる仕掛けとしている。
このシステム、なにも雪道や凍結路だけでなく、都会の地下駐車場などで見かける坂道でも、重宝なシステムだ。
ちなみに、このシステムを備えるクロスロードは、エンジン排気量1.8リッターと2リッターの2本立てで、いずれもⅰ-VTECで軽快な走りをしてくれる。4285ミリという比較的短い全長に3列シートを持つマルチな使い方ができ、しかも角ばったエクステリアで街中でも存在感のあるクルマだ。価格は2WD車が193万円台から、4WD車は225万円台から。
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