19世紀中ごろ、ペリーの黒船が江戸湾に来航し、これをきっかけに日本は永い眠りから目覚めたがごとく、近代国家への道を歩んだ。以来≪黒船の来航≫という比喩は、海外からの新しい商品などがやってきて、安定していた市場を瓦解に追い込み、やがては新しい景色を作り出す・・・・。来年1月からの中国製EVの本格参入は、さながら、この黒船来航に匹敵するのだろうか?
「EVの販売台数で世界第2位のBYDは、比較的格安で性能のいいリチウムイオン電池を踏査して、比較的日本市場に受け入れやすいサイズのSUVのEVを投入する!」
字面(じづら)だけを眺めると、いまにも、日本の自動車市場は、中国車に席巻される気がする。だが、落ち着いて調べてみると、そうたやすく日本の自動車タフ市場が瓦解する要素が見当たらないことに気がつく。
ただ、これもEVが自動車という従来の枠のなかで、とどめて置いての考えか、スマートフォンのように、まったくその市場が存在しなかった、いわばスッピン・マーケットでのEVを考えるかにより、まったく違った景色が浮かび上がる。
前者だとすれば、トヨタを頂点にした日本の70年にもわたる自動車の市場形成の積み重ねは、そうそう黒船には崩せないほど頑丈だ。BYDの社長は、2022年6月、「日本に2025年までに100カ所ほどのサービス拠点を構築する」とした。現在、輸入車のシェアが、10%ほどだから、これをEVの追加で20~30%に伸ばそうとするには、100カ所ではとても無理だ。と考えると、ハナからチャイナ自動車企業は、短期間での征服の野心は抱いていないようだ。
EVの価格の高さは、ニッケルやコバルトといった値段の張る貴金属類が入ったバッテリーが主な原因だ。BYDの強みは、こうした高価な金属を使わずにリン酸鉄という安い素材をベースにした「ブラッドバッテリー」といわれるリチウムイオン電池を自社で生産しており、車両そのものも自社での組み付けラインで、トータルでコスト削減を実現しているのが強みだ。この面では、いまのところ、トヨタもホンダも後塵を拝している格好。
後者、つまりスマホのように、これまでの日本にはなかった市場としてEVを想定すると、まったく違ってくる。EVはエンジンを持たないので、極端な話、デカいスーパーマーケットの片隅に、それなりの設備を整えれば、修理ベイを持ったサービス拠点兼販売店を構築できるのではないだろうか? だとしたら、既存のカーディーラーのようなメカニックを要した大掛かりな設備や人員が不要となる。そもそもEVは部品点数が激減するので、故障率も劇的に下がる見込み。こうなると、従来の修理工場は不要となる。
ここまでドラスチックなシチュエーションはたぶん想定していないかもしれない。
日本での総指揮をとっているのが、東福寺厚樹さんという日本人。この人物、もともと三菱自動車で販売を担当し、そののちVWで販売部長として汗を流した男。厳しい言い方だが、実力は未知数だ。BYDのトップなら、トヨタの販売のトップをヘッドハンティングして日本市場で大暴れさせたかったのではないだろうか? まったく異なる風景となる次世代のカービジネスを想定すれば、日本にもかならずや漲るほどの野心と実力のあるカーガイ(自動車野郎)がいるはずだ。こう考えるのは、夢幻だろうか?
一時は日産の復活劇の立役者として、カーガイ(自動車野郎)として名をはせたカルロス・ゴーンさんも、東京拘置所の鉄格子から抜け出し、いまや逃亡生活者。これってやはりドラマチック!
世界最大の自動車メーカーGMの創業者・ウイリアム・デュラント(1861~1947年)も、すでに1世紀前のことだが、ゴーンさん以上の“壮絶なるダイハード人生”を送った。カービジネスは、誤解を承知で言えば、成功すれば巨大な利益が転がり込むが、ひとつ間違えば無間地獄!
そんなとき、何気なく経済記事を読んでいたら、「ステランティス」という自動車メーカーの記事が目に入った。
長年クルマの記事を書いているモノとして、おおいなる迂闊。ここはパンデミックがもたらす思考停止が災いした、と弁解するしかない。
フランスのPSA(プジョーとシトロエングループ)とフィアットとクライスラーのグループFCAが2021年1月に統合され、「ステランティス」という名称になっていたのだ。本部はオランダのホープトドルプだ。Stellantisとはラテン語の動詞stelloからの由来で「星で明るくなる」という意味だそうだ。CEOが1958年生まれのカルロス・タバレス。
日本での統合された新会社「ステランティスジャパン」(本社:目黒区碑文谷)の発足は今年2022年3月からだ。
カルロスといえば、すぐカルロス・ゴーンが頭に浮かぶが、こちらのカルロス・タバレスは、ポルトガルのリスボン生まれのパリ育ちの元エンジニアだという。
調べてみると、こちらのカルロスさんの父親は会計士。母親はフランス語の元教師。14歳のときからクルマのレースに夢中になり、1981年24歳でパリにある「エコール・セントラル・パリ」という学校を卒業し、ルノーに入社、メガーヌのディレクターとして腕を振るったという。
そして、興味深いところだが2004年~2011年の7年ほど日本にいて、ゴーンさんの片腕として活躍している。その後、2011年にルノーに戻り、ドイツのオペルの再建に辣腕を振るいPSAのCEOの立場で、昨年できたステランティスを率いるトップに立った。
ステランティスが扱う車種は多い。アルファロメオ、シトロエン、フィアット、アバルト、プジョー、DSオートモビル、JEEPなどだ。企業規模でいえば、トヨタ、VW,ルノー・日産・三菱連合に次いで世界第4位のポジションだ。
カルロス・タバレス氏は早くも、EVに主軸を移した生産販売宣言を唱えている。なんと、2030年には世界で年500万台のEVを世に送り出すというのだ。とくに欧州での販売比率は、EVオンリーでの戦略だという。有言実行のカーガイという噂だけに、今後のカルロス・タバレスの力量が注目される。
若いころは内部のメカニズムに気を奪われて、デザインの良し悪しなどあまり考えに入れてクルマを見てこなかった。でも、このところデザインが量産品の成否を分けることが理解できる。
たぶんここ数年自転車にまたがり、ショーウインドウに写るわが姿を見たり、日々クロスバイクの自転車を愛でているせいかもしれない。三角フレームと2つのタイヤにハンドルとサドル、この4つの単純明快な要素で構成されている自転車でも(あるいはそれ故こそ!)デザインひとつで気持ちの高まりが違ってくる。そのことに気付いたせいかもしれない。
このほど発表された新型プリウスは、たぶん誰の目にも、なんともカッコいいスタイルに映るに違いない。
全長で25mm伸ばし4600mm、全幅で20mm伸ばし1780mm、全高では逆に40mm低くして1430mmとした。タイヤ径を19インチ(195/50R19)とでかくしている。フロントはまるでハンマーヘッドでシャープさを醸し出し、フロントピラーを寝かせた5ドアクーペ。これで、居住性は大丈夫なのかと心配が先に立つほどに、カッコよすぎる感じ。
いまから4半世紀前に登場した初代のプリウスは、どちらかというとズングリむっくりスタイルだった。当時はパワーユニット(何しろエンジンだけでなくモーターが追加している!)の小型化の困難さが反映されたスタイルだったが、逆にそれが好感さを生んだようだ。
あれから25年。いまやトヨタ車の約50車種にハイブリッドが誕生し、世界初の量産ハイブリッドカープリウスも2010年をピーク(世界販売約51万台)に、このところ販売面での低空飛行を続けていた。
トヨタの開発陣は、5代目を計画する前で悩んだという。脱炭素の世界的潮流のなかで、EVに切り替えるべきではないか!? だが、HVでまだいけるとする意見が上回った。「ハイブリッド・リボーン」を掲げてフルチェンジしたのだ。
デザイン、設計、製造、販売などあらゆる部署のメンバーを初期段階から巻き込み、ひとつのチームとして開発業務に取り組んだという。で、出来上がった5代目のもうひとつのコンセプトが「デザインと走りの良さ」である。
ハイブリッド車はこの冬発売、外部から充電できるPHV車は来春に発売なので、価格や詳細は不明だが、新型2リッターのエンジンを載せる新型プリウスはシステム最高出力が193PSと従来比1.6倍! PHV車システム最高出力がなんと223PSで0→100km/hがスポーツカー並みの6.7秒をマークするだという。
それと見落としがちだが、トヨタのHV特有だった小さすぎて、どこにあるのか戸惑ったシフトレバーが通常のシフトレバーの位置に明確にセットされ、メーターにシフト位置を表示させるだけでなく、レバー近くの文字表示を光らせドライバーにわかりやすくしているのも、4半世紀でHVが普通のクルマに近づいた印象を与える。
プリウスとは、ラテン語で“さきがけ”を意味するというが、そのココロは実に微妙である。
「んっ! なんだ、これは?」
そう心のなかでつぶやいてしまった。遠くから見ると、なんら変哲のないオフィスチェア。
近づいて目を凝らすと、座面と背もたれには碁石ほどの大きさの丸いボタン(接触子)が、いくつもいくつも等間隔に貼り付けてある。・・・・その椅子に恐るおそる座る。そして目の前にあるモニター画面を指でなぞると、背中あるいは背もたれがムズムズと動くのだ。
“うん、これって江戸川乱歩の短編小説「人間椅子」? 100年の時空を超え具現化した? ”
なんていうのは真っ赤なウソで、身体の拡張を狙った新技術なのである。
もともと東大の先端科学技術研究センターの堀江新特任助教授などが構築した技術を、より分かりやすいかたちで具現化したのが、大和秀彰さんはじめとする千葉工大未来ロボット技術研究センターの先生たち。
象牙の塔的に小難しいコトバで説明すると…‥“皮膚せん断変形にもとづく椅子型触覚提示装置”という。
これじゃ、わけが分からないよね。そもそもいま注目のメタバース(仮想空間)内で自分のキャラクターであるアバター(分身)を動かしたりして、いろんなサービスを受けたり、情報のやり取りをおこなう。身体と情報空間とを有機的につなげていく……。これが新ビジネスを生み出しつつあるのが、いまどきのトレンドだ。
今回の不思議なオフィスチェアであるCHAINY(チェイニー)は、ウエアラブル情報、身体拡張、エンタメ、ゲームチェアなどの応用だけではなく、数年後登場するソニーの新世代の高級EVなどに組み込まれる可能性がある。自動車が自動運転化されたら、クルマは運転する空間から“コンテンツを楽しむ空間”へと激変する。となるとシートにこうした細工が施されていても少しも不思議じゃない!
そもそもヒトの皮膚に刺激を与えるってことは、生体的あるいは物理学的に言えば皮膚に歪みを与えると言い換えられる。直径20mmの接触子が座面と背もたれに計48個付け、最大でそれぞれが50度回転させる。丸い接触子がクイッと50度回転することで、皮膚を変形させる。複数の接触子を協調的に動かすことで、刺激の強度の分布を作り上げる。これにより人に何かを伝えることができる。音響や映像とリンクさせれば、より臨場感を伝えることができるわけだ。
今回の試みの一つとして隅田川の花火大会の打ち上げ音と映像に連動するプログラムを組んでいた。これを実際試してみると、「うん、なるほど!」と合点がいく。これをたとえば音楽プロジューサや映像のプロなどとコラボしたたとえばラブストーリー作品を作る、そんな近未来のアートがぼんやり想像できた。つまり従来からあった視覚と聴覚の2本立てのほかに、触覚がそれに加わり3本柱での表現ゲージュツが生まれるのかもしれない。21世紀の近未来は手が届く位置にある。
光陰矢の如し! とはよく言ったものだ。まる2年はあっという間にやってきた。
マイカーのシエンタ2015年式(エンジン排気量1500㏄ 走行約6万キロ)の3回目の車検が迫ってきた。前回、川崎の検査登録事務所で取得したので、今回も同じところで車検を取るつもり。なにしろ川崎は、規模が大きい港北にある検査場(正式には神奈川運輸支局)よりも空いているからだ。
整備記録(メンテンナンスノート)を見直してみると、2年前の前回からわずか5000キロほどしか走っていないことが判明。この間ちょうどコロナ渦。しかも近所はもっぱらクロスバイク(自転車)での移動に切り替えたため、従来にくらべ1/4の走行キロ数でしかない。
とりあえず、あらためてざっと24か月点検をおこなった。もし不具合が発見できれば「検査後に修理をする」というやり方をとる目算だ。いわゆる“前検査・あと修理”というスタイル。たとえて言えば、フォーマルな場に出るとき、普段着にジャケットを羽織り、ドレスコードに引っ掛かれば受付でネクタイを借りてすませる、そんな気分?
いまやユーザー車検の受付は、スマホを使いネットで安直にできる。
車検証を手元に置いた状態で「インターネット予約サイト(https://www.reserve.naltec.go.jp)」にアクセスする。
そこで継続検査、検査車種の乗用車を選択し、次に出向くべき車検場を選ぶ。そして日時を指定し、スマホのカメラを起動して、車検証の下部にある2次元コードを読み取る。すると、画面にアルファベットと数字が並ぶ車体番号が取り込まれスムーズに予約完了となる。
この間わずか数分。あとは、確認メールが、送られ、そこには予約番号が記されているので、リマインダーに記憶させるか、当日、そのメールを参照すればいい。
車検に必要な用紙は、車検証、自賠責保険証、それにメンテナンスノートの3つ。以前は、自動車税の納税証明書が必要だったが、いまは窓口で確認できるということで不要。書類探しに右往左往。納税証明書を取りに近くの県税事務所の窓口に駆け込んだものだが、そのわずらわしさから解放された。
当日、車検場で準備する書類はこの3つ以外に3つ。自動車重量税納付書、一部鉛筆書きが要求される継続検査申請書、それに検査ラインの結果を印字する自動車検査票。この3つを車検証を横に並べ、備え付けのサンプルを見ながら記入する。ちなみに用紙代はいまや無料である。
書類ができたら受付窓口にGO! 受付では「では検査ライン〇〇番に入ってください」と言われる。
検査ラインに入る前に、点検ハンマーを手に持った検査官とご対面! 書類と実際のクルマは同一かどうかを確認する同一性の確認(ここでライト類もチェックされる)。そのときランプ類やホーン、ワイパーが作動するかをチェックされる。
いよいよラインに入る。すでにユーザー車検は20回以上の体験者だが、やはりどこか不安な気持ちでドキドキ。
ところが、その不安もすぐ消える。いまではユーザー車検のお客(?)にはピタリと「車検検査係」のおじさんが付いてくれるからだ。その係のおじさんが、手取り足取り教えてくれるのだ。サイドスリップでは「歩くほどの速度でゆっくりと走行してください」とか、ブレーキ検査では「もっとペダルを踏み込んでください」とじつに優しく教えてくれる。
ところがひとつ難問が! 排ガス検査だ。マイカーはハイブリッド車だからだ。
いわゆる整備モードにしないと、アイドリングストップ状態となり、排ガスの検査ができない。このときだけはあえて環境汚染を無視して、アイドリング状態にしないと検査ができないのだ。
そのための複雑な手順がある。ブレーキを踏まずにスタートボタンを2度押し、アクセルペダルを2回ベタ踏みし、次にブレーキペダルを踏みながらNレンジに入れ、再度アクセルペダルを2回ベタ踏み、さらにPに入れ・・・・という1度や2度聞いただけではとても覚えきれない複雑な手順が要求される。これらを、係のおじさんは、横に付いていて親切に教えてくれるのだ。
この案内係のおじさんに限らず、受付の女性や各担当者は、みなフレンドリーな空気を少しばかり醸し出しているようにも見える。むかしの築地の市場に迷い込んだような「素人さんお断り」のオーラなどまるでない。
ちなみに、今回は走行5000キロの履歴ということが功を奏して、無事車検に一発で合格。しかも、自賠責が従来より5000円ほど安くなり2万10円。重量税が1万5000円、検査登録印紙が400円、審査証紙が1700円で、自動車税を抜きにして、自賠責保険込みでわずか3万7110円でした。
節約だけではなく、クルマと触れ合う機会が増えたぶん、ずいぶん得した気分だ。みなさんも、ぜひユーザー車検に挑戦してもらいたい! 必ずやいろんな気づきが得られるはず。
(下の写真は、日本の車検場で配布している手のひらサイズの「クルマの日常点検ハンドブック」。わずか26ページの小冊子だが、だれにでもわかりやすく点検ができる工夫がある)
少しおどろおどろしい言い方だが、いま自動車に詳しい人のあいだに“一つの謎”が浮上している!
1台700万円以上もするコンパクトカーが、発売したら約1万件もの注文が入り、あっという間に売り切れとなったのだ。「若者のクルマ離れで、そもそも運転免許を取る若者も少なくなった」というのに、これは一体全体なぜ? といくつもの疑問符が沸き上がる。
たしかに、このGRMNヤリス(ちなみにGRMNはGAZOO RACING tuned by Meister of Nurburgringの略)という限定車、単にフツーのヤリスをフルチューンしたわけではない。ゼロから小さなスポーツカーを目指して造り上げられた。モリゾウこと社長の豊田章男氏がハンドルを握りマスタードライバーのひとりとしてラリーに出場し、壊しては直しの繰り返しによるノウハウを蓄積。それを惜しみなく注入して作り上げたマシン。いわば素材から見直し、特別に仕立て直した超高級紳士服みたいなものか。
具体的に言うと‥‥骨格となる軽量ボディは超高剛性を目指し545点ものスポット増し。構造用接着剤の使用を拡大、部品同士の結合剛性を大幅に向上。エンジンフードとルーフは、カーボンファイバーを用いて軽量化。ボディのあちこちに補強ブレース(筋交い)を入れ、レカロのフルバケットシート、ビルシュタインのダンパー、機械式LSD、強化メタルクラッチ&クラッチカバー、クロスミッション&ローファイナルギアと文字通りバリバリのフルチューン。
価格は、731万円からだが、ラリー仕様が837万円から、サーキット仕様がそれより10万円ほど高く846万円台。
エンジンは排気量1.6リッター、272PS/390Nm。ふつうのヤリスが69PSで車重940kgなので、いわゆるパワーウエイトレシオは13.62kg/PSといかにも鈍重。GRMNヤリスは、車重が1250kgとノーマルより300kg近く重いが、パワーウエイトレシオは4.59kg/PSとまるで、スタート時前かがみにならないとウイリー状態になる一昔前のバイクのナナハン並み。
それにしても、700万円オーバーのクルマが500台とは言え羽根が生えたように売れるとは?
1988年だから、いまから30年以上も前に日産からマーチ・スーパーターボが市販されている。スーパーチャージャーとターボチャージャーの二つの過給機を狭いエンジンルームに詰め込んだコンパクトカーの特別バージョンがウリだった。110PS。パワーウエイトレシオでいえば6.72kg/PSと比べるとさほどでもない。あまり売れなかった記憶がある。
GRMNヤリスは、作り込みを公開したりレースで実績を残したことでホンマモノのスポーツカーであることを証明! そのことに明白に気づき、大金を叩く人がこの日本には一定数存在するということだ。
これから先、スポーツカーは、おそらく公道ではそのパフォーマンスを発揮できず、いわば乗馬のように、サーキットで楽しむ乗り物になると思う。公道を移動するクルマは、AIで制御され安全でお気楽な、ある意味で退屈極まりない移動手段の道を歩む。クルマが本来持っていた自由に移動できるモビリティからかけ離れた存在!? そうしたクルマの行方に我慢がならない人たちが、こうした特別なハイパフォーマンスなクルマ(別のコトバでいえばメッセージ性の高いクルマ)に大金をつぎ込むのだろうか。転売目的だけの顧客だけとは思えない。
お隣韓国の自動車メーカー「ヒョンデ」が、ふたたび日本市場に挑戦し始めている。
Hyundai Motor Companyは、過去を振り返ると2001年から日本で乗用車を販売していた。だが、わずか10年で1万5000台程度の販売実績を残し撤退している。ちょうど韓流ブームとやらで、“ヨン様”仕様の高級車がTVのコマーシャルで流れていた。いつの間にか日本市場から撤退した。ただし、大型バスが販売されていたのだが、乗用車は完全に日本市場から姿を消した。
10数年前のことを思い出すと‥‥たまたま磯子に販売店があり、複数台ヒュンダイ乗用車をタクシーとして導入していたタクシー業者が横浜にあった。その車にたまたま乗り合わせたことがあった。エクステリアもインテリアもかなりイケていたし、走りや乗り心地も高級車テイストの印象。これならクラウン・コンフォートを軽く凌駕している! そんな印象を得ていた。
だが、俗にいうタフマーケット(成熟したクルマ社会)の日本では、ただロープライスのクルマは受け入れられなかった。ファーストリテーリング的魅力は高額商品のクルマ市場では通じなかったともいえる。
その韓国車が、捲土重来とばかり、いきなりEVとFCVを引っ提げて日本市場に再登場したのだ。
シリコンバレー生まれのテスラ同様、新生「ヒョンデ」もネット販売で、いわば定価販売ビジネスだという。しかも、500万円台にEVの高級車をぶつけてきた。SDGsを前面にした商品で勝負。
でもやはりネット空間での展示だけでは訴求力不足。見て・触ってもらわなければ! そこで新横浜駅近くに顧客に実車を見て触れてもらう施設をつくった。「ヒュンデ・カスタマーエクスペリエンス・センター横浜」がそれ。今年の7月末にオープンしたものだ。
ただクルマを展示して説明員を張り付かせるのではなく、試乗ができる基地としての役割のほかに専用の整備ベイを設け、その光景を2階に設けた小洒落たカフェでお茶を飲みながら見ることができる。カタカタ文字が続く、このいささか長ったらしい名称の施設は、文字通り顧客が体験して楽しめる工夫を凝らしている。
この施設にやじうま根性丸出しで、潜入してきた。新横浜の駅から市営地下鉄で一つめ「北新横浜駅」から歩いて5分。まわりにはスーパーマーケットやファミレス、あるいは倉庫などがある、いわゆる手垢がついていない新規開発の商業ゾーンの一画にその建物があった。
受付カウンターのまわりがなにやら華やいだ雰囲気が漂う。なんと、人気の韓国のヒツプホップグループBTSのコンサートチケットが当たるキャンペーンが展開されていた最中。若い女性が朝から30数名ほど足を運んでいた。そしてスマホで、ヒョンデのクルマをパチパチと撮影している。SNSでヒョンデのクルマの写真や動画を拡散すると、抽選でチケットが手に入るかもしれないという。これってコスパの高い、いま風の宣伝手法! 期せずして、その実情を覗き見た感じだ。
こうした女性は初めから試乗の予定がないので、筆者はあらかじめネットで申し込んだとおり、何ら支障なくEVのアイオニック5(IONIQ 5)に試乗することができた。試乗コースは、通常のディーラーの試乗などより2倍近い距離で、かなり余裕でクルマを味わうことができた。
結論を言えば、やはりEVはおしなべて加速がいいし、静粛性も抜群。225kwの最高出力と600Nmの最大トルクで、1870kgの車重を軽々と移動させる。感動したのは、マスクしていても会話が弾んでしまうほど、車内が静かだという点。ステアリングが小径で好感が持てるし、インテリアも奇をてらうことなくしっとりとよくできている。回生ブレーキが働くので、ある程度のエンジンブレーキらしきものは感じられる。この回生ブレーキ、手元で強さをゼロまで4段階で調整できる。右左折時にウインカーを出すと、ドアミラー下部に設けている広角カメラが働く。死角になった側面の画像をインパネのモニターに映し出し、巻き込み事故を防ぐ。そんな新鮮な安全装置の仕掛けも魅力。
幹線道路を走っているときはクルマの大きさはあまり感じないが、路地に入ったり、狭い駐車場でクルマを停めようとすると、とたんに車両の寸法がふだん乗るクルマより一回りデカいことに気がつく。回転最小半径は、5.99mもある。これはコンパクトカーより約1mも長い。
カタログ数値を確かめると車幅が1890mm、全長も4635mmもあり、ホイールベースがなんと3000mmもあり、トヨタのノアの2800mmよりも200mm長い。価格は479万円からAWDの589万円まであるという。なお、フロア下にセットしているリチウムイオンのバッテリーは、8年または走行16万キロ保障。もしバッテリーが寿命のとき、単体価格はどのくらいかと聞いたところ「いまのところ未定で、たぶん100万円以上はすると思います」とのこと。「(トヨタや日産のような)バッテリーのリビルトやリサイクルの仕組みは未定です」という。
このクルマ、すでに欧州や北米でも売られているが、日本市場でそう羽根が生えたようには売れないと思う。高級車をまずお披露目してイメージアップ。全国に既存の整備工場と提携したサービス拠点を数多く設け、整備体制をある程度構築してから、本格的にリーズナブルな価格のコンパクトカーを売ろうという心づもりのようだ。
少し気のきいた博物館や美術館に行くと、かならず「図録」という分厚い印刷物が出口あたりで販売されている。
「図録」とは、館に展示されていた写真や図(イラスト)を詳細に記録した印刷物。英語のPICTORIAL RECORDの翻訳のようだ。映画などのパンフレットとは少し異なり、資料性が高く、帰宅後自室でじっくり眺めることで、より展示物の意図や催し側の狙いが分かり、新しい発見もできる。通常の印刷物ではカバーしきれない実に有意義な書物。ただ、見っぱなしだと記憶から遠のくが、ときどき思い出し本棚から図録を引っ張り出し、眺めると記憶がよみがえったり、ふと別の情報と結びつき新しい発見やひらめきに結び付く。
ところが、この図録という印刷物、作る側から考えると必ずしも割りが合う印刷物とはならない。
手間暇とお金がかかるからだ。展示物をみな写真撮りし、それぞれに説明文を付け、見栄えが良くなるように、編集作業が必要となる。変に手を抜くと、印刷物だけにあとあとまで残り評判を落とす。それに、あまり高い価格をつけられない。
そこで比較的リーズナブルな値段をつけて、販売することになるが、印刷しただけすぐに売れればいいが、博物館だと大量に刷って在庫することになるので、保管費用もばかにならない。
タイミングとしては、博物館での展示と並行して、あるいは熱が冷めやらない直後に、図録を製作する。しばらくたってからだと再度取材が必要になるから熱が冷めるからだ。
図録を作るか作らないかは、じつは一番熱量が高まる博物館オープンのタイミングだ。企業の博物館の場合、博物館をつくること自体が初めてなので、よほど余裕がなければ図録作成まで頭が回らない。
これを踏まえたうえでツラツラ観察すると、トヨタの「産業技術博物館」の図録はよくできている。繊維と自動車の両方の歴史と内容が、少し重いのが難だが320ページに収められている。ちなみに「トヨタ博物館」の場合、バックヤードに大量の車両があり、展示物が時節で替わるので、イベントのテーマごとに図録を作っていて、すでにその数50冊を超えているのではなかろうか。
一方同じトヨタ系のトラック・バスメーカーの日野自動車にも、70周年記念として1996年に八王子みなみ野駅から徒歩10分のところに「日野オートプラザ」という博物館をつくっている。わが国初のトラックTGEのレプリカモデルをはじめ、数々の関連車両が展示されているばかりか、日本の自動車産業の基礎をつくった幻のエンジニア・星子勇(1884~1944年)の実像に迫る展示物や、戦前、戦時中につくられた航空機の星型エンジンの現物をまぢかで見ることもできる。そのほか、日本のモータリゼーションの歴史を年表とともにわかりやすく追いかける展示物も秀逸だ。
だが、返す返すも残念なのは、こうした立派な展示物がありながら、図録がつくられていない。ここには数回出掛けてはいるが、最初訪れた時、窓口で「図録、ありますか?」と聞くと「図録って何ですか?」と返され、がっかりした記憶がある。これでは日野自動車への思いがしぼんでしまう!
この3月に日野自動車では深刻な不正が発覚している。エンジンテストの不十分さや不適切な検査が明らかになった。すでに知られるように、生産エンジン14機種のうち13機種で不正が見つかり、「型式指定」が取り消され、製品を作ることができなくなった。その後8月の再調査で、大型トラックばかりか、小型トラックでも、同様の不正が見つかり、不正発覚以前のわずか4割しかものがつくれなくなった。
まさに深刻な経営危機状況。愚直なモノづくり立国の日本はどこに行ったのか? 背景には「モノ言えぬ企業体質」「経営陣とモノづくり現場の断絶」などがいわれている。トヨタの子会社化されて約20年、上層部がトヨタの天下り陣容というのもあったようだ。
整備士コンテストなどを永年取材していくなかで、日野自動車の特異な企業体質をその都度感じてきたが、あらためて思うのが、博物館の図録がつくれなかった。たかが図録と言うなかれ。不正検査と博物館の図録とは、一見つながりがないように思えるかもしれない。でも、わずか大型トラック1台分の経費をケチったことが、その体質を象徴している。多様性の価値を育むことができなかった企業体質が、はからずもこんなところに投影されている。そう思えて仕方がない。
「かれこれ、7~8年このイベントをおこなっているのですが、女子の参加が目に見えて増えていることに目を見張る思いです!」
こう語るのは、長年スバルで車両開発に携わってきたOB。「キッズエンジニア」(主催は自動車技術会)を取材してふと耳にした現場の声である。たしかにこれまで男性社会だと考えられてきた技術の世界にも多くの女性が活躍している。女子がサイエンスを苦手とするのも思い込みだ。(ちなみに半世紀前の話だが、筆者が卒業した工業高校には全学年でわずか2人しか女子がいなかったが、いまは全体の10%を軽く超えている。それでも世界レベルから見ると低い?)
このイベント、2008年から横浜と名古屋、大阪を会場にして基本、毎年開かれている。が、長引くコロナ禍で、ようやくリアル開催が今年から復活した横浜パシフィコ会場。
小学生を対象にしているせいか、「レベルが低いから取材対象にはならない」とハナから思い込んでいるメディアが少なくないせいか、記者の姿がまばら。たぶんこれは“難しい技術をいかに易しく説明するか?”に関心がないせいだと思う。自慢ではないが、ほかでは類をみない面白いイベントだと見抜いて、かれこれ両の手指ほどの現場に足を運んでいる。
このキッズエンジニア、いずれも10~15名ほどの教室で時間が1時間ほどのワンテーマで進められる。プログラムは全部で20個ほどある。プログラムの提供先は、自動車メーカー、自動車の部品メーカーなど、なかには大学の工学部が子供を対象に、科学への好奇心に火をつけようという試み。狙いは将来の優秀なエンジニアがそだってもらいたいという切なる願いだ。
冒頭のスバルは、「2駆と4駆の違いを模型をつくりことで実感してもらう!」というもの。田宮の工作キットをベースに単三電池2本で駆動するモーターを備えた、ゴムバンド駆動の自動車の模型(写真)。ドライバーさえあれば簡単に組み立て完成するが、初めて工具を持つ小学生(ばかりか付き添いの父母も!)なので、意外と苦労していた。というのは、ナットが供回りしないようにボックスレンチで押さえるコツが要求されるからだ。2駆と4駆の違いはゴムバンド後輪にかけるだけで完成する。めっちゃシンプルな仕掛けなのだが、これを写真のような階段あり砂地ありのいわゆるラフな路面で走らせ、競争させると、思わず身体が熱くなる! ジェンダ―フリーのリアルが見られた!
シンプルと言えば、マツダのプログラムは、さらに面白かった!
ペットボトル、段ボール、紙コップ、タピオカ用太めのストロー、それにティッシュペーパー。ごくごく身近にあるものを使って、マフラーを製作。それを実際マツダ車のマフラー作成で活躍する集音器を使い、チューニング具合をパソコンでリアルにみることができる! そんなプログラムである。ペットボトルが共鳴部(レゾネーター)、段ボールが仕切り板(拡張部)、紙コップが入力の集音部、そしてストローがアウトプットのテール部で、ティッシュが吸音材(本来はグラスウール)というわけだ。いわれてみれば、なるほどだ。
横には、例のロードスターのリアルなマフラーのカットモデルがあるので、より理解しやすい。筆者の場合、トライアルバイクのくたびれたマフラーを開腹し、なかのグラスウールを新品にしたりした経験が何度もあるので、このイベント他人事には思えない。
小学生が造り上げたマフラーを集音器で、入力するが、その言葉(排気音)が「ロードスター」と小さく叫ぶことだった! PCに録り込んだ波形を見て、集音器の紙コップを小さくしたり、大きくしたりすることで変化(チューニングの実際)を嬉々として楽しんでいた(写真)。これってすごいよね!
「いつかこの日がやってくるのでは?」
そんな疑心暗鬼と危機感が日本の自動車業界に滞留していたここ数年。ついに黒船ならぬ、≪赤いEV≫が日本に本格参入を始めた。
世界第2位のBYDが、来年1月から五月雨式に日本市場投入予定の計3車種をお披露目したのだ。
来年1月発売予定なのは、5人乗りEV「ATTO3(アットスリー)」(写真)。今年初めすでに中国でも販売していて好評だというSUV。WLTCの航続距離で485km。時速100kmまでの到達時間が7.3秒とかなりなものだ。価格の発表は11月ごろとなるようだが、中国では300万円台で販売されており、補助金が付けば200万円台で手に入る可能性あり。
来年半ばには、コンパクトカーのEV「DOLPHIN(ドルフィン)」をさらに低価格で販売するという。こちらは電池容量の違いでスタンダードとハイグレードの2タイプがあり、モーターも70KWと150KWの約2倍以上の開きがある。航続距離はそれぞれ386kmと471km。
3台目は、セダンのEV「SEAL(シール)」で、その意味はアザラシ。ドルフィンともに、インテリアが“海洋美学”をモチーフにしているというから、かなりユニークだ。航続距離は一番長く555km。
いずれもトヨタのbZ4Xや日産の軽EV「さくら」の間隙を縫う、一番市場規模がでかい真ん中のゾーン。
じつは、中国のBYDというメーカーは、香港の隣にある中国の深セン市で1995年に創業し始めた携帯電池のメーカー。モトローラなどの携帯大手にリチウムイオン電池を供給するなどで急成長を遂げた。その後国有自動車メーカーを買収し、中国政府のEV推進策の追い風を受けさらに企業規模を広げ、いまではテスラ、トヨタに次ぎ時価総額は世界第3位。
BYD製の路線バスやフォークリフトなどは、すでに7年ほど前から日本市場に食い込み、今回乗用車の世界に本格参入するというわけだ。
ところが、よく知られるように日本の自動車市場は、世界の自動車メ-カーが「タフ・マーケット(手強い市場)」と異口同音に評価する。アメリカ車はもとより欧州車すら全体の10%を超えることすらできない。韓国車など、最近敗者復活を狙ってはいるが、10年前に日本市場から退場した苦い記憶がある。
そこで、BYDは元三菱自動車出身でVWジャパンの社長だった人物を中心に「BYDオートジャパン」という法人を設け、販売とアフターサービスの充実を図るという。2025年までに全国に100社以上の店舗を設けるという(これはアウディの販売店数とほぼ同じ。ちなみにトヨタ系の販売店は約5000店舗もある!)。しかも4年10万キロの車両保証、バッテリーの保証は8年15万キロとして日本市場での信頼性を勝ち取ろうとする。
それでも、自動車という商品はいかにもブランド力が大きく左右する。香港やウイグルでの人権問題を抱える中国。食品問題でも中国産の食品を拒否する趣向が日本の庶民の間に消えてはいない。日本のユーザーに、チャイナブランドのEVがどこまで浸透できるのか・・・・前途多難、あるいは逆となるか? 動向が注目される。
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