軽自動車は、日本だけの固有のカテゴリーである。海外に輸出することがほとんどないので、良くも悪くも、いわば日本の道や家族を一番知り尽くしているクルマが有利。・・・・と「実用一点張りのジャーナリスト」ならそう思うのだが、自動車が売れるか売れないかは、意外とそんなところにないことがあるから厄介だ。
というのは、年間180万台の市場の日本の軽自動車市場で、やたら元気なのが、ホンダのN-BOXなのである。誤解を恐れず言えば、一度軽市場から手を引いた、“出戻り軽自動車メーカー”のホンダの軽が大ヒットをかっ飛ばし続けている。永年軽自動車に力こぶを入れているスズキとダイハツはホゾをかむばかり!?
どこにホンダの軽に魅力があるのか? 浜松のスズキの軽自動車は、軽に対するモノづくり精神でいうならどこにも負けていない! つもりだ。でも‥‥ホンダのN-BOXは,F1の元開発者がデザインし、F1が走る鈴鹿サーキット近くの鈴鹿製作所でつくり、本社はおしゃれな東京・青山。こう考えると、「出自のイメージ」では確かに負けてはいる(逆立ちしても勝てない!?)が、製品では販売数ほどには負けていない。う~ん、困った、困った! ということで、スズキが背水の陣で、プラットフォームから造り替えたのが、新型スペーシアだという。
コンセプトは、とにかく「乗る人をワクワクさせ、楽しさを磨き上げたクルマ」だという。
中身は、最先端の安全装備、乗り降りのしやすさ、車内の広々感、カラーバリエーションの豊富さなど(おかげで価格は133万円台から高級グレードになると190万円台とお高くなった!)、この面では確かにN-BOXにくらべ、勝るとも劣らない。これは偏見かもしれないが、でもどこかが違う。垢抜けないというか、余裕を感じないというか、そもそもコンセプト自体に新鮮味がない。陳腐にさえ聞こえる。F1や東京・青山は、“非日常の誘惑・魅力”だとすると、スズキのスペーシアにこれはかけらもない。
工業製品としての“できの良し悪(あ)し”はほとんど差がない現在。なにをもって、競合他社と差をつけるか? スペーシアを眺めると、この新しい課題が浮かび上がる。
約510万人が住む北欧のノルウェーは、すでに5台に一台が電気自動車(EV)で、一足先に「脱ガソリン・脱ディーゼル車時代」に足を踏み入れつつある。イギリスとフランスが、23年後の2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を中止する方針を先取りしているとされる。この背景には、ノルウェー政府によるEV優遇策を講じているのである。どんな優遇策かというと、EV購入を誘導する補助金を出すだけでなく、高速道路やフェリーの料金を無料にすることで、「ユーザーにEVに乗ると断然有利!」というリアリティを与えている。ただし、この政策により財政不安がちらついていることは見逃せない。
いっぽう日本のEV事情はどうか? 開発の遅れだけでなく、EV優遇策についても遅れを取っている感がある。
先日、日産が7年ぶりに新型リーフ(写真)を世に出した。無資格検査員による車検業務のチョンボで、出鼻をくじかれはしたが、ワンチャージ400㎞は、カタログ上とはいえフツーの人にもEVが身近な存在に見えてきた。
ただ、もう一つの課題が横たわる。バッテリーの寿命である。
従来型のリーフは、7年間でわずか28万台しか売れなかったことから、下取り価格がガクンと下がり、ユーザーを裏切る結果となっている。たとえば、6~7年落ちは10万円前後まで下落模様。昨年モデルでも400万円台だったクルマがいまや100万円ほどなのである。「買ったとたんに1/3以下に価値が下がるクルマ!」となると、よほどそのクルマへの愛がない限り、二の足を踏んでしまう。そういえば、日産は当初「使用済みバッテリーは家庭で再利用したり、リサイクルするシステムを構築します」とメディアに大見えを切っていたが、そうした動きは販売数の想定以上の少なさから腰砕けになったようだ。リーフは、日産のイメージアップになっているのか、逆にブランドイメージに傷を付けているのか? EVフロンティアとしてのアドバンテージがいまのところ見えない。
となると…‥‥トヨタとホンダが、EV戦線に加わらない限り、この国の庶民がEVを身近な存在に感じることができないということのようだ。
東京モーターショーでは、ときどきとんでもない仕掛けがお目見えして、戸惑うことがある。
今回は、ブレーキの老舗「曙ブレーキ」の展示物だ。
「MR液体ブレーキ」である。MRは「マグネトー・リューオロジカル」で、無理やり訳すと「電気式物質変形ブレーキ」? 液体の中に分散している数ミクロンの鉄粉が、磁場を加えることで、整列し、鎖状の粒クラスターを形成し半固体化する、という理論を応用したものだ。
車両に固定された円盤に、ハブ・ベアリングとともに回転する円盤が交互にレイアウトされているあいだにMR流体が充填されている構造だという。
ブレーキ内部に配置された電磁石コイルに電流を流し、円盤と垂直の方向に磁場を発生させることで、固定円盤と回転円盤のあいだに鎖状粒子クラスターができる。回転円盤は回転し続けているため、鎖状粒子クラスターがせん断変形を受け、崩壊され、隣のクラスターとつながり、また崩壊される。これが繰り返され、回転円盤に抵抗力が発生。これがブレーキ力となる。……生半可に考えると頭が痛くなる難しい理屈。
東北大学の流体科学研究所との共同で、研究中だという。2020年には実用化を目指すという。このブレーキシステム、物理的な摩擦をうまないので、ノイズの発生はないし、ホイールを汚す摩耗粉の発生もないという、夢の制動システムなのである。
いきなりですが、ここで質問です。
「自動車のピストンって、どのくらいの重さだと思いますか? 1分間にアイドリング時でも650回転ほどエンジンの中で上下するピストン」
答えは乗用車用のアルミ合金製でだいたい300~400g、スポーツカーのピストンになると300gを切っています(例えば手持ちのフェラーリのエンジンのピストン、マーレ製ですが275g!)
ところが、地上を走るクルマのエンジンもいろいろです。トラックの、それも大型の6気筒で排気量12.8リッターのエンジンのピストンを先日、京都の某リビルトメーカーから頂戴してきて、ここ3週間ほど眺めて暮らしています。50万キロ以上走ったピストン。眺めているとなんだか鼓動が感じられる。
その中間報告ですが、なんと重さが! 1個のピストンですよ、驚かないでください。1個4.7㎏もする。普通のガソリンエンジン用ピストンの12倍強。ピストンピンだけでも2㎏ですから、普通のガソリンエンジンのピストンの6個分! ボアは、132ミリです。こちらは2倍はいきませんが。ピストンの高さは2倍近い110ミリもある。ピストンピンのボス径が56ミリもある。
驚くべきは、その置かれた環境だ。燃焼圧は25MPa(メガパスカル)前後なので、ガソリンエンジンの2倍近い。熱負荷は、ガソリンエンジンのピストンがせいぜい300℃に対し、ディーゼルは500℃レベル。高出力化でますますストレスが大きくなる傾向だ。だから、アルミ合金ではなく、鋳鋼製なのだという。
ついに電気小型トラックが姿を現した。
三菱ふそうのeキャンターである。すでに、ハイブリッドキャンターは世に出ているが、オール電化の小型トラックのCO2を出さないゼロ・エミッションカーは世界初である。セブンイレブンに25台、ヤマト運輸に25台、計50台が日本の道路を走り始める。欧州とアメリカでも各50台ずつ、グローバルで計150台が今年中に走り始めるとのことだ。
気になるのは性能だ。一充電での走行キロ数と、充電時間。それぞれ100㎞と11時間(単相200V、直流急速充電なら1.5時間)。物流センターから、近在のお店や顧客を回るのだから、100㎞の航続距離で十分。夜間充電するので充電時間も、ユーザーから見て不満はないという。運転したドライバーに聞くと、加速も申し分なく、なによりも静かなのがいい、とのことだ。車両総重量7.5トンクラスだ。
このeキャンター、開発スタ-トからわずか7年で出来上がったという。こんなに速くできた背景は、三菱ふそうがダイムラーグループの一員であり、共同での開発ができた点。それにベンツのPHEV(プラグイン・ハイブリッド)のバッテリーやインバーターと互換性を持たせたことのようだ。バッテリーは、高電流のリチウムイオン電池パック6個(重量は720㎏)をフレームの側面と内側などに積んでいる。
今後、トラックの電動化が進むか否かは、このeキャンターの将来にかかっている。三菱ふそうの開発者は、「年間10万キロを走るトラックはディーゼルに道を譲るが、ダンプカーや塵芥車、高所作業車などの走行キロ数が1日50~100㎞未満の大型車もEVできる」と意気込んでいた。
このところ日本のモノづくりの根幹が、揺らぎ始めている。
東芝の一連の問題、神戸製鋼所のアルミや銅製品の強度データの書き換え問題。それに日産の完成車検査の偽装問題。いずれも日本を代表する老舗のモノづくり企業の不祥事である。とりわけ神戸製鋼所の金属製品の強度データのインチキ行為は、自動車から航空機などあらゆる産業に影響するため、その余波が今後広がる恐れがある。
大企業ともなると、経営者が、現場の本当の姿を確認するのは極めて難しいとされる。いきなり現場に足を運ぶのが一番だが、部下のメンツを重んじるためか、たいていはしっかり予告して現場に行くようだ。だから、隅から隅まで掃除をした、普段とは異なる“よそ行きの現場”を見ることになる。心を鬼にしてまでも、いきなり現場を見るべきだ。優秀なトップを目指すなら。
それにつけて、15年ほど前、こんなことを目撃した。
張富士夫さん(現在80歳)が、トヨタの社長だったころ、都内で開かれた新車発表会でのあいさつを下から見上げていたら、彼のズボンにポッコリと膝の痕が出ていた。膝の部分に癖がついて丸くなっていたのだ。アララッという感じで眺めていたのだが、「忙しそうだな、この人、愛知から、新幹線に飛び乗り、着替える暇なくそのまま東京に来たんだ。現場から・・・」という想像をしてしまった。
その数日後、日産のニューモデルのお披露目の会場。あいさつに立ったカルロス・ゴーン(現在63歳)を見ると、一部の隙もない(アルマーニだろうな、たぶん)スーツでビシッと決めていた。への字の眉毛で強い意志を示すゴーンさん。付け入る隙なし・・・・さすがだな……と納得。「でも、この服装だと、現場に行くのは憚られる……」という思いが頭をかすめた。
現場の人である張さん、カッコマンのカルロスゴーン。どちらも違って、どちらもいい! でも、今回の事件があると…このふたりの光景が強く思い出される。
このところ絶好調なマツダから、新エンジンの発表があった。
「スカイアクティブX」である。スカイアクティブG、スカイアクティブGというエンジン技術で、他メーカーの技術者を驚かせたマツダは、今回は、「予混合圧縮着火」エンジンの実用化のメドがついたとしたのだ。これは、理想の内燃機関といわれたCCI(コントロールド・コンペレッション・イグニッション)である。ディーゼルエンジンのように、スパークプラグを使わずに圧縮着火による内燃機関。燃費と出力向上を大いに期待できるものの、これまで制御が極めて難しいとされてきた夢のエンジンである。ただし、極冷間時にはスパークプラグで点火するそうだ……。
マツダによると、従来の14.7という理論混合比(ガソリンと空気の割合)の約2倍の超リーンバーンで、出力とトルクが劇的に向上。つまり走りと燃費の上場のバランスで、燃費向上率はスカイアクティブGよりも20%も高いという。ということは、モーターや高価な電池を使ったハイブリッドカーに迫る燃費と出力ということになる。ハイブリッドカーを蹴散らすに足るエンジン!?
“ところが!”である。
VWはじめジャガーなど欧州の自動車メーカーは、2035年ごろまでに化石燃料車を生産中止にし、電気自動車に切り替えるとしている。スバルやホンダも欧州向けのディーゼル乗用車の生産中止を決めている。乗用車の世界で、発展途上国では、コンベンショナルなガソリンエンジンが依然として残ることはあるものの、少なくとも先進国では、こぞって電動化に動きつつある。大型トラックなど一部のクルマはディーゼル(化石燃料エンジン)を使い、≪地球上に残る最後のエンジンはディーゼル!≫ともいわれる。とにかく乗用車のパワーユニットは、電動化に大きくかじを切ったといっていいだろう。
残りの30年余り、このCCIエンジンは、大きく花開かせる余地があるのか? つい悲観的に見えなくもない。となると、“悲劇のレシプロエンジン”とも“遅れてきたレシプロエンジン!” となるやもしれない! 神のみぞ知るのだが!
「“日本の家族の幸せのために“をコンセプトにして、この軽自動車を開発しました。いい暮らしをつくりたいというのが、このクルマのコンセプトです!」
東京の南青山にあるホンダの本社。お披露目した軽自動車「N-BOX」の担当者の晴れやかな第1声だ。“家族の幸せのために”というフレーズは、昭和の時代に何度も聞かされたキャッチコピーである。この家族自体がかなり怪しくなってきた時代、聞きようによっては、皮肉に響く。「いまさら! 当たり前のこと言うなよ!」と冷ややかに受け取る向きもあるかも。戦後70数年、日本の家族は、軽自動車でつつましい幸せを紡ぎ出している! そんなものなのかと思う一方、どこかわびしさが襲ってくる。Nというのは日本のことだとホンダの深謀遠慮がここでガテンした。
ホンダのN-BOX,6年前にデビューしたのだが、累計112万台(国内で)を売りさばいている。日産の電気自動車が、7年でようやく28万台(グローバルで)セールスしたのとは、ずいぶん開きがある。いまや、ホンダのNシリーズは、ホンダの屋台骨の一つのようだ。だから、ついつい冒頭のいささか時代錯誤のキャッチコピーを、コピーライターがひねり出したからといって目くじら立てることはないのかもしれない。
そのNのフルチェンジから、数日後ベンツの発表があった。180度異なる世界を見せてくれた。まさにジャジャジャ~ンだ!
最高級セダンのSクラス「メルセデス・マイバッハSクラス」。従来のSクラスより前輪と後輪の距離、つまりホイールベースを20センチも伸ばしたという。後席では大画面のモニターを楽しめる。居心地最高! しかも現時点での最高峰の自動運転技術が組み込まれ、ハイウエイで、自動で車線変更するのだ。車内から専用ボタンを押すと、24時間体制のオペレーターが対応! 至れり尽くせり! 「これ以上何を求める!?」といっているようなクルマである。価格ですか? 2200万円台~2700万円台! ホンダのNの10倍以上。ベンツの上野金太郎社長は自信満々で、こういわく、「日本の富裕層は、こういうクルマを欲している」。へ~っ、そうなの?
Kカーで家族の幸せを追求するのか? はたまた2000万以上のクルマで、富裕層のジレンマに悩み続けるのか? いつから日本はいまにも崩れそうなフラジャイルな2元化社会になったんだろう?
乗用車の世界では、いまや自動ブレーキ装置付きがごく当たり前になりつつある。
トラック・バスにも、もちろん新型車は自動ブレーキ付きが登場しているが、大多数の現役でいま活躍しているトラック・バスは、いまのところそうした手段がない。
そこで、登場したのが、「モービルアイ」という商品。イスラエルにあるインテル・モービルアイ社製だ。
フロントガラスに小型カメラを取り付け、インパネ上にコンパクトな表示部を付ける。小型カメラが、前方の障害物を感知すると、3秒前に衝突の危機を音とLED表示で教えてくれる。居眠りやよそ見していて車線を逸脱しそうになった場合も警告を発してドライバーに注意を喚起する。前方の歩行者が近づいても同じように警告を与え、危険を避けることができる。
この装置を取り付けたトラックやバス業者によると、劇的に追突事故や接触事故が減ったという。取り付け装置、1基20万円弱だが、十分ペイできるという。面白いことに、なかには自動ブレーキ装置が付いているトラックにも、この「モービルアイ」を付けたケースがある。自動ブレーキの場合ではガクッと急ブレーキがかかるが、「モービルアイ」だと、ドライバーが危険を察知してブレーキを踏むので、ソフトブレーキで、荷崩れがなく都合いいというのだ。
それに、ぶつかる前にブレーキを踏むという「瞬間効果」のほかに、警報音を出さない運転をやがて心がけることで、ヒヤリ・ハットのない安全運転の「学習効果」もあるという。いわば“安全運転養成ギブス”みたい?
すでに日本でも約6万台の販売実績を持つ。ちなみに、このほど三菱ふそうトラック・バスでは、この「モービルアイ」を純正アクセサリーとして各ディーラーで販売と取り付けサービスを展開し始めている。
「ポン! と音を立てていきなり自動運転技術がクルマに搭載されるわけじゃないんです。いまは過渡期なのです。いろいろな課題があるわりには、メディアは明るい部分だけにスポットを当てすぎるのは問題です」
8月初頭、都内で2日間にわたって開かれた自動運転フォーラム(正式には「2017NCAPフォーラム」)でのドイツ人担当技官の衝撃の発言だ。
よく知られるように、世界の自動車メーカーはいまステージ1から徐々に技術向上してステージ5の完全自動運転を目指している。「ステージ4とか5の完全自動運転車が登場するのは2020年だ」とか「いやいや2025年を待たないとダメだ」といういろいろな情報が飛び交う。
国際会議を取材して見えてきたのは、「自動運転車両とはいえ、無事故で走れる完璧車両」ではないということ。
昨年のステラモーターの死亡事故が示唆するように、情報の至らなさでユーザーの誤解を招き、それが事故につながる。どんな技術も過渡期は、誤解と思い込みが横行する。言葉自体も「同一車線自動運転」とか「部分自動運転」といった自動車メーカーの売らんかな! の勝手な説明で、ユーザーは混乱し、誤解を生んでいる。
冷静に考えれば、自動運転の目的は、3つだ。
安全性の向上(運転アシスト)、労働力不足の解消(トラックのコンボイなど)それに高齢化対策である。その究極にいわば鉄腕アトムの世界をイメージする「完全自立走行」があるのだが、究極でも、ぶつけられる危険を抱える以上、“死亡事故ゼロ”というビジョンは、夢のまた夢なのである。ただ、人工知能が人間の頭脳を上回るシンギュラリティ(技術的特異点)が起きるとされる2045年時点では、完全自立運転車がガンガン走る世界が実現しているに違いない。
« 前 | 次 »