「いつかはクラウン」とかつては憧れのクルマだったトヨタのクラウン。半世紀以上も前の1955年(昭和30年)に登場して以来、現行ですでに15代目。長いあいだ50代から60代の旦那グルマの代表でもあったクラウン。だが、セダンの凋落でいまや年間2万台の低空飛行。
高級車レクサスシリーズもいわゆる富裕層のあいだで定着したことだし、フェイドアウトも頭に浮かぶ。
ところがトヨタはセドリックをあっさり消し去った日産とは違った。クラウンは、カローラとともにトヨタにとっては看板銘柄以上に強い思いが込められたDNAと考えているらしい。それだけに、16代目の新型クラウンは、伝統のクラウンにどれだけの進化と革新を、曲がり角に立っている自動車の大変革時代にどんなカードを切ってくるのかが、注目だった。果たせるかな、それは・・・・想像を超えた大胆な大変身だった。
永年頑固に守り続けてきた駆動方式であるFRをかなぐり捨て4WDにするだけではない。簡単に乗り降りできるSUVのクロスオーバー、スポーツSUVのスポーツ、正統派でありショーファーニーズにも対応できるセダン、それにキャンピングカーなどになりそうなエステート、この4タイプを登場させたのだ。かつてクラウンと言えばセダンの代名詞だったが、セダンは一角に存在するにすぎなくなった。“想像力のフラッグシップ!”とばかりコンセプト自体を変えてきたのだ。ちなみにエンジンは2.4と2.5リッター直4気筒でデュアルブースト・ハイブリッドと進化させている。
半導体不足の影響などでクロスオーバーを今年の秋に販売し、その後1年半にわたりあとの3つのタイプを発売していく予定だという。一度にデビューさせるのではなく、1タイプごとメディアの話題を狙う戦略? 4タイプということは、多様性に対応し、従来の旦那クルマのイメージをかなぐり捨て、勇み足の評価かもしれないが、これってアバンギャルド(前衛)的! 30代40代の比較的若い層と女性ドライバーにも照準を合わせた? けだし、モノづくり側から見ると、形態の数を増やすのは、大振りの三振を防ぐ安全策とも取れなくもない。
今回のクラウン4タイプ登場させた背景には、もう二つの理由があるとみた。
2016年からのトヨタ社内カンパニー制の採用で開発速度が向上したのがひとつ、もう一つは新しいモノづくりの基本TNGA(トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャ)の熟成があったといわれる。開発陣は伝統と革新のはざまで苦悶して新型クラウンを生み出したようだ。
新型クラウンの話題はクルマそのものだけではない。これが4タイプ登場の二つ目。市場をグローバルに拡大したのだ。
クラウンと言えば、スカイラインや軽自動車同様ながきにわたり国内限定の商品だった。今回の16代目の新型はなんと世界40か国に販売するという。欧州と北米などでベンツ、BMWと戦うクルマに仕上げたということだ。年間販売台数を20万台とふんでいる。世界に足場を備えたトヨタの拡大路線がすかし見える。
行き過ぎたデザインで当時のセドグロに抜かれた4代目クラウンの苦い記憶がある。だが、日本市場では、トヨタの圧倒的な販売力に物言わせ確実な受注が予想される。海外で新型クラウンのアバンギャルド性にどんな評価が下されるかが早く知りたいものだ。日本での価格は量産効果を背景に400万円台から600万円台と意外とリーズナブル。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってすでに5か月近くたった。いまのところ、ウクライナ東部をめぐる激しい戦闘が続いている。
一方、ロシア経済は、アメリカをはじめ西側諸国の経済制裁でじわりじわりとロシア国民の暮らしにも暗い影を落とし始めているといわれる。ロシアの自動車産業も、ここにきて大きく様変わりしつつあるようだ。
よく言われるようにロシアは、原油や天然ガスなど化石燃料の資源埋蔵量が多く、ロシアにとってエネルギー関連事業を国家の柱と据えているため、モノづくりの企業育成が立ち遅れていた(軍需産業に力を入れすぎたせいだともいえる)。なかでも自動車産業はすそ野の広さが要求される産業のため、人口が1億4400万人のロシアといえども、思うように育てられなかった。その意味ではロシアは自動車後進国。どうしても、海外からの技術に頼らざるを得なかった。
たとえば、ロシア最大の自動車メーカー「アフトバス」(英語でAvtoVAZ)がある。モスクワから東に約1000キロいった人口69万人のサマラ州トリヤッチ(ボルガ川河畔)に本社を置く企業。もともとは1966年イタリアのフィアットの協力で設立したボルガ自動車工場がそのルーツ。
1970年代から約30年間にわたりロータリーエンジンを搭載した車両をつくっていたことでも知られるが、冷戦時代ということもあり、ドイツのNSUや日本のマツダにライセンス対価を支払わずに生産を続けていたというからすごい。技術へのリスペクトが感じられないことは、技術立国にはなりえない。
そのアフトバスが、14年前の2008年からルノー・日産と組んで「ラーダ」という乗用車などを生産していた。ダットサン・ブランドのクルマも生産し、西側諸国や中国、キューバなどにも輸出していたのがつい最近までの話。ところが、今回のウクライナ侵攻で、ルノー・日産も撤退したことから、最新鋭(でもないけど)の自動車技術であるエアバックやABSが入手困難となり、仕方なくいわば1960年代の安全性や環境対応まで後退した車両を生産し始めているという。
中国のサプライヤーと組めば、難なくエアバックやABS付きのクルマがつくれると思いきや、そう単純ではない。アメリカや西側諸国の制裁が強化され、ますます東西の冷戦時代の様相が深刻化するかもしれないからだ。
独裁者プーチンの強硬策が続く限り、ロシアのクルマは“枯れた技術満載の自動車”をつくり続けるようだ。
はじめてドイツを訪れたとき、アウトバーンを走るのがひとつの夢だった。
速度無制限の世界で、全開で走るポルシェやベンツ、BMWたちの姿を眺められる! 名車たちを育みそだてあげるアウトバーンの姿をこの目で確かめられる! そんな図柄を頭に描いていた。ところが、いざ現場に立つと、ふつうの高速道路とあまり変わり映えがしなかった。たぶん、それは・・・・「総延長1万3000キロなので、地域によれば違った景色が展開されている。環境問題もあり、制限速度で縛られる個所もあるようだし…‥」
よく知られるように、アウトバーンの建設は、第1次世界大戦の敗戦後大不況に陥ったドイツが600万人もの失業者を抱えた。これは人口の約1割に当たる。日本の失業者は現在約188万人だが、人口が当時のドイツの約2倍だから、1930年代のドイツがすさまじい不況が襲いかかっていたことか。
アウトバーンの建設は、1933年9月、フランクフルトの郊外で起工式がおこなわれた。シャベルを手にしたアドルフ・ヒトラー(1889~1945年)が労働者とともに鍬入れをおこなう模様を宣伝相のゲッペルスがドイツ全土に報じ、プロパガンダ効果を狙った。工事が始まり1年8か月後、フランクフルト―ダルムシュタットをむすぶ22キロの道路が完成。写真はこのときの記念パレードでヒトラーがオープンカーで祝っている様子をとらえている。
6年後の1939年には当初計画の半分にあたる3300キロが完成。戦争がはじまるとポーランド人の戦争捕虜、ユダヤ人、外国人労働者も多数駆り出されたが、戦況の悪化にともない、1942年に工事はすべて中断されている。
幅5メートルの中央分離帯を挟んで両側に幅7.5mの本道と1mの側道を備え、1家に一台という国民車(フォルクスワーゲン)が走る予定だったのが、不首尾に終わる。(ドイツのクルマ社会の実現は第2次世界大戦後を待つしかなかった)
戦時下では飛行機の滑走路に使われたり、ついには自転車道路になりはてたという。軍事的にも、戦車など重量車両の走行には適さなかった。皮肉にもアウトバーンがフル活用されるのは、ヒトラーがこの世から消えてのちの話。
たしかにヒトラーはクルマの運転こそしなかったが、このアウトバーンの大推進者であったことは間違いない。ところが、発案者であったかというと、NOだ。
じつは、交差点や信号機のない高速道路構想は、すでに20世紀当初に構想されていて、ヒトラーが首相になる前年の1932年、戦後西ドイツ初代首相となる当時のケルン市長のコンラート・アデナウアー(1876~1967年)がケルン―ホン間全長20キロの開通式を取りおこなっている。おまけに高速道路網の建設法案が1930年に提出されたとき、ヒトラー率いるナチ党はこれを予算の無駄使いとして反対の意思表示をしている。ヒトラーは政権を握ると、こうした経緯がまるでなかったかのように、失業問題の切り札として、アウトバーンの建設を進めたのである。
以上は、ドイツ近代史の学者・石田勇治著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)を読んでの受け売りだ。ウクライナ戦争を始めたロシアのプーチンが、「ネオナチを蹴散らすためウクライナに軍事行動を仕掛けた」と世界から見てフェイクの理由付けをしている。これに触発され、ふと手に取った本に思わぬ発見をしたのである。
「地球上の乗り物をすべてバッテリーEVにすることで、環境問題のゲームチェンジを図る!」
これって、もともとディーゼルエンジン車のフェイク試験でミソをつけた欧州車メーカーが、覇権を握りつつあった日本車潰しとグローバルでの主導権奪取を狙った政治的動き。カーボン・ゼロを正義の御旗にした、いわば“横紙破り”の挙だと見えなくもない。そもそも電気をつくるのに化石燃料の石油を使っていたら、だれが見てもインチキだし・・・・。
これまで自動車に縁がなかった企業も、この戦に参加している構造なので、混乱をきたしている。のちの歴史家になって読み解くと、SDGs(持続可能な開発目標)をめぐる“非情の21世紀の日欧自動車戦争”。そんな妄想に駆り立てられる。
ともあれオール電化にしろ、電動アシスト(HV)にしろ、高性能な蓄電池が今後の切り札になることは間違いない。いまあるリチウムイオン電池では航続距離、充電時間、それにコストなど多くの課題が山積して、役不足気味!
だからして待ち望まれているのが、次世代電池の「全固体電池」。BEVの切り札。これこそがゲームチェンジャーにもなりうるキラー技術!
この全固体電池は、2011年東工大の菅野了次教授(写真)が、全固体電池の基礎技術である“超イオン伝導体”を発見したところから始まった。エネルギー密度と充電時間の短縮が魅力。でも電解液が液体ではなく、“固体”というメッセージが強すぎ、詳細があまり語られていないようだ。
電解液が固体で、そのなかをリチウムイオン電子が素早い速度で動く。従来あったセパレーターもなくなる。つまり従来のセルで構成されるのではなく、正極、固体電解質、負極、この3つを繰り返し積み重ねて電池を構成できる。セパレーターがないぶん、コンパクトになり、しかもエネルギー密度が従来の2.5倍、充電時間は1/3の素早さというのが圧倒的優位性。固体なので、高温で電解液は蒸発しづらく、低温で凍らない。そのため、高温、低温での使用もできる。
現在、この日の丸ハイテクの固体電池は、産学合わせてのプロジェクトチームにより実用化に向けてラストスパートがかかっている段階。コストダウンや安全性の確認などの課題に注力されているようだ。
日本の産業の屋台骨に成長する可能性大に見える。ところが、全固体電池をめぐる特許数ではじつは中国の方が2倍近く多いというのが不安要素。EV車の走行中での非接触充電システムの世界に先駆けた実証実験が、今月から山梨で始まるという。でも、のんびり構えていて気づけば中国が先んじていた! ということになりかねない。今後の動向に注視すべしだ。
ふるい読者なら覚えておいでだろうか? 福岡の博物館に展示している「アロー号」のことを。
現存する日本最古の手作り乗用車「アロー号」は、1916年(大正5年)24歳の矢野倖一がほとんど一人でつくり上げた4人乗り水冷2気筒サイドバルブエンジン1054㏄を載せたアルミボディの乗用車だ。全長2590mm、全幅1170mm、全高1525mmだから現在の軽自動車のひと回りもふた回りもコンパクト(下の写真)。
この矢野倖一の流れをくむトラックの架装事業企業が、福岡にある「矢野特殊自動車」である。昭和33年日本初の機械式冷凍車を開発するなど、トラックの架装事業の世界では確固たる地位を占めている。その矢野特殊自動車が、今回横浜で催された「ジャパントラックショー2022」で新製品をお披露目していた。
それが「新型スーパーチルドウイング車」(上の写真)。
チルド車というのは、生鮮肉、魚類、乳製品、それに温度管理の困難な医薬品輸送を専門とするトラック。ウイング車というのは、荷室の側面をガバッと上に持ち上げ、フォークリフトなどによるに作業がらくらくできるタイプのトラックだ。昔の算盤と呼ばれるコロを使った人海戦術要素の多い、平積みトラックにくらべウルトラ高効率である。
トラック自体は日野の大型「プロティア・ハイブリッド」だが、架装を担当したエンジニアに話を聞くと「通常のチルド機能を持つウイング車は温度が+10度C前後ですが、このトラックはチルド機能を謳うだけに+2~8度Cの温度範囲」だという。
これを実現したのは、「とにかく気密性を高めること。そのためにパッキンを追加したり、床面の形状を冷風が効率よく流れるようにキーストーン形状と呼ばれるギザギザをつけている。それと煽り部分の断熱材をアルミ板をサンドイッチとして両側にスチレンフォームを配しています」。合わせ技で、チルド機能を高めているようだ。「一番の苦労した点ですか? それはパッキンの当たり方の検証でした」という。当たり方ひとつで気密性と温度管理に変化がみられる、というのだ。
冷風はハイブリッドのモーターで駆動する前後2つのエバポレーターで、温度センサーを複数付け庫内温度の“見える化”を実現しているという。われわれの豊かな暮らしを支えている物流の代表選手である大型トラックの楽屋裏にはこうしたドラマがたっぷり詰まっている。
ちなみに、この手のチルドウイング車は、行きと帰りで庫内温度が変えられるので、荷物のクオリティの自由度が高い。だから輸送業者から見ると台数を絞ることができ、結果としてウイング車が増加中だという。
ふと耳を澄ませると、女性にまつわる独特な響きを持つ言葉が流通している。
山をこよなく愛する女子を称して「山(やま)ガール」、広島カープの女性ファンを称して「カープ女子」、バイク好きの女性を「バイク女子」、あるいは白衣をまとった理系の女史を称して「リケジョ」。
“これまで男性100%と思われてきた世界に飛び込んだ勇気ある女性”を指す言葉。当事者の女性たちが自らを称して、そう名乗るわけではない。周囲の男どもが羨望と冷やかしの気分が混じって、そう呼んでいるだけ。長く続いてきた“家父長社会のしっぽ”を断ち切れない日本男子の自嘲の思いがにじむ言葉、と言えなくもない!?
とはいえ、言葉はいつも挑発的。新しい概念を伝えるには、新しい風をまとう必要がある。
今回取材した静岡にあるネジをつくる専門メーカーには、「ねじガール」が活躍していた。「ねじガール」とは、簡単に言えば男性だけだったネジの製造ラインに女子、それも若い女性が進出し、ある意味旋風を巻き起こしている。
静岡県清水区興津(おきつ)にある従業員数80名ほどの日本でも有数のねじメーカー「興津螺旋(おきつ・らせん)株式会社」だ。JR東海道線の興津駅から歩いて約15分、国道52号線沿いにある。
国道52号線といえば、戦国末期から続く甲斐・山梨と駿河(静岡中部)を結ぶ身延道(みのぶどう)がそのルーツである。太平洋の大海原を背景に富士山が雄大にそびえ、景勝地日本平からも遠くない、まさに日本の原風景が広がるのどかな場所に、そのねじメーカーがある。そこで9名ほどの「ねじガール」が奮闘中なのである。
最近の合理化された工場の例にもれず、一日になんと200万個~300万個という莫大なネジ生産量に比べ工場のスタッフはわずか30名。そのうちの9名、つまり3割が女子なのだ。
「ねじガール」が誕生したのは、10年前の2012年のこと。はじめは男の世界バリバリのなかで、内心舌打ちし、違和感を伝える古参スタッフもいた。男子に比べ質問の量が多い女子に対し、うまく言葉にできない男子スタッフもいて、職場内に不協和音。でもそれは杞憂だった。やがて女性従業員の仕事に対する熱意が徐々に部内に伝わり、「ねじガール」が文字通り螺旋階段を着実に登るように、社内に新風を吹き込んでいったという。
これまで気づかなかった感性や着眼点の異なる女性が増えるに従い、オトコ同士のコミュニケーションも活発。「女性には無理」という、これまで訳もなく思い込んでいた思いが単なる思い込みに過ぎなかった。「工場で機械を触るのは男の仕事」という長く続いた固定概念も霧消。「機械に強い人は女性にもいるし、機械に弱い人は男性にもいる」この当たり前の常識が社内に定着した。国公大の工学部出身の女性も、入社してきた。
そして女性が働きやすい職場は、ひとえに男性にも働きやすい職場と同義語であることに気付いたという。これって難しく聞こえるかもしれないが、ジェンダーフリー。21世紀が目指す社会のひな型!?
(次回から数回にわたり、“ねじガール”のいる最新の「ねじメーカー」の面白情報をお届けします)
「ホームプラネットである地球という美しい故郷を、次世代に引き継いでいくことを目指して作りました!」
こんなイマドキ美辞麗句を並べ立てて、登場したトヨタのBEV(100%電動自動車の意味)。
今年中ごろから日本、北米、中国、欧州で販売される“bZ4X(ビージーフォーエックス)”だ。この車名、はやりの欧文と数字だけなので、いくら眺めていても頭に入ってこない。
そこで、昭和人間は、ついつい連想してしまう・・・・ビージーフォーといえば、正式にはスペシャルが付くが・・・・あのグッチ裕三やモト冬樹が参加した不思議と本格的名演奏で一世を風靡した80年代のものまねコミックバンド。脇道にそれました!
まじめな話、このトヨタ車、日本では定額制、つまりサブスクリプションでの販売(トヨタのKINTO)となるが、スバルでは通常通り「ソルテラ(SOLTERRA)」という車名で店頭販売(600万円前後)。
トヨタのサブスクKINTO(キント)はカローラクロスやRAV4,ノア/ヴォクシーなどで既に展開。車両代はむろんのこと自動車保険、税金、保守点検費などの費用を月額で支払うため、ユーザーは駐車代と充電費のみ負担。
10万円から手に入るランクルより高価なbZ4Xだからこそ、KINTOで初期費用の負担増を減少して、ユーザーの負担感を軽減する作戦らしい。もう一つの狙いは、EV独自の課題である電池の回収リサイクルがある。
7~8年前だったか・・・・「LAの修理工場には、劣化したプリウスの電池が山のように廃棄されている」という生々しい情報を現地に住む友人を通して耳にした。「すわっ! 日本でも同じ問題が!」と思いきや日本では走行キロ数が短いのとリサイクルのループが構築されているため、そうした問題が起きていない。
でも世界的にみると、じつはBEVには、劣化したバッテリーの廃棄問題が横たわっている。サブスクのKINTOを導入することで、確実に使用済みバッテリーがメーカーのもとに戻り、高価な素材が回収できる。この電池リサイクルを確実なものにすれば、BEVのコストダウンにつなげられ、中古車価格の暴落も防げる。ひいてはユーザーにもプラスになるという青写真。少し前に起きた日産リーフの悲惨な中古車暴落を横目で見ているだけに、トヨタの深謀遠慮がこの売り方に見える。
bZ4Xには、もうひとつ注目点がある。一部車種にステア・バイワイヤーを導入したことによる異形ステアリングの登場だ(写真)。ステア・バイワイヤーとはリンクなどによる従来から続いた機械式のハンドル構造ではなく、エレキ仕掛けでステア(ハンドルを切る)できる夢のハイテクメカニズム。四角いかたちのハンドルを約+-150度クイッと動かすだけでUターンでき、峠道を意のままに走行できる。丸いハンドルで、手を持ち替えクルクルと回す労働からドライバーを開放。これなら箱根の旧道を走っても疲れない。
オプションで付けられるルーフソーラーパネルにも注目だ。従来型プリウスにも同じような装備があったが、せいぜい夏場の車内の熱気を外に排出するためのファンを動かすほどでしかなかった。今回のルーフソーラーは、がぜん性能アップし、年間で走行キロ数1800kmに相当する発電量を稼ぎ出すという。頼もしいソーラーパネルだ。
とまぁ、このクルマ、総額700万円近い高級車だ。日本では、スバルあわせ年間約7000台売るという。
庶民には、とてもじゃないが手が届かない。次ぎ、もしくはその次に出るBEVが手に届く車両になるに違いない。でも、bZ4Xをつくづく眺めていると、地球のことをホームプラネットというだけに、ハイテクがてんこ盛り! そこへオールデイズの楽曲が流れる……これって“駆け抜けるプチ・モーターショー的クルマ”ではないかと思えてくる。
トヨタ・グループでトラックとバスを担当している日野自動車に、いま激震が走っている。
新車時の排気ガスや燃費測定データを改ざんしたとして、8車種のトラックやバスの「型式指定」の取り消しを食らったのだ。再取得までには数か月がかかるため、企業として莫大な損失を被る模様。ちなみに「型式指定」とは、車検証の上の欄から4行目あたりに掲載される「型式」、そのものを指す(写真)。
そもそも自動車メーカーがクルマを販売する前にブレーキ性能や排ガス性能といった品質、それに品質管理体制などを詳細に調べ、そのデータを国土交通省に提出。これをパスした車両に与えられ、そこで初めて量産車として、その車両を世の中に送り出せるわけだ。
だから「型式指定」を取得するということは、そのクルマの販売権を得ると同義語。逆に言えば、これを取れないと売ることができない、いわば市販車のパスポートなのだ。
今回、報道によると日野自動車のエンジン検査部門は、長年にわたり排ガステストで触媒の性能ダウンを見越して新品の触媒に入れ替えてデータを改ざん、燃費データ測定では流量計を不正に操作していていたという。言葉は悪いが、インチキの限りを尽くし、「型式指定」を取得していたというのだ。
これじゃカーボンニュートラルやSDGsもあったもんじゃない。モノづくり日本に背を向けた自動車メーカーという刻印を押されかねない。背景には、厳しい納期へのストレスがあったとはいえ、先輩たちが汗と涙で築き上げた自動車づくりの誇りと信頼をないがしろにしかねない、愚かな行為だといわれても致し方がない。
そもそも、エンジンの開発部門と国に提出する試験部門が同じ部署、つまり同じスタッフがおこなっていたというから驚く。これってわかりやすく言えば、お巡りさんとドロボーが同居しているようなもの。なれ合いが起きないのが不思議だ。厳しさが足りなさすぎる。
厳しさが足りないといえば…10数年前のこと。日野自動車の整備士コンテストを取材した際、かなりブッタマゲル体験を思い出す。
全国から選りすぐりの整備士が集まる年に一度の腕を競うあう貴重なイベント。会場は博物館が併設する研修センター。ペーパー競技と実技競技の2本立て。なかでも実車を使った実技試験がハイライト。日ごろ仕事をともにする同僚が見守るなかで、熱いバトルが展開される。トラブルシューティングと12か月点検(トラックだと車検整備にあたる)だが、一番の見所はトラブルシューティング。試験官が意図的に不具合を作り、それを持ち時間内に解決に導くというものだ。
記事をつくるリポーターの広田は、競技中は遠くから見守るばかりで、どんな課題でどんなふうに修理しているのかは、ほとんど読みとれない。そこで、日を改めて、日野の本社に出向いた。問題を作った試験官をつかまえ質問攻めにして、4ページをつくる目論見だ。こうした整備士コンテストの取材を年に10回近く15年間にわたり行っていた。なかには、「(なかば冗談だとは思うが)今回は広田さんが喜びそうなトリッキーな課題を作りました」とばかり鼻をピクピクさせながら説明する試験官(出題者)もいた。
ところが、その日野自動車の出題者は、当初出題した課題の中身を掘り下げて話してくれなかった。その問題の正解とは何か? そもそも、その問題の狙いは何か? 正解率は何パーセントぐらい? といった質問を次々に繰り出すも担当者はモゴモゴと言葉を濁すばかり。挙句に、貝のように口を閉してしまった。これでは取材にならない。そこで、ズバリ「なぜ、教えてくれないんですか?」と思いきって尋ねた。
…どんな返事が返ってきたと思います? 「来年も同じ問題を出すので、言えないんです」
二の句が継げないというのは、このこと。いっけんギャグのようで、じつは本当の話が世の中にはあるなんて。
実力が判断できるバランスのよい問題をつくるのは、そうたやすくはないことは判る。だけど、回答を想定しながら問題作成するのは、知的で刺激的な作業。クリエイティブな能力が問われ、出題者側も真剣勝負が要求され、切磋琢磨できる。そんな実力向上の絶好のタイミングを、この担当者は逃がしていることになる。思わず、その人の顔をじっとのぞき込んでしまった。
ちなみに、このまますごすごと引き下がってはこちらも予定のページが白紙となるので、食い下がり何とか妥協した線で取材にこぎつけた。でも、この一言で熱意が冷めて、差し障りのない熱の冷めた退屈な記事になってしまった。これって近江商人の“三方よし”の真逆で、売り手悪し、買い手悪し、世間悪し、だよね。
ただでさえ原油価格が上昇気味だったところ、いきなりのウクライナをめぐる戦争は、クルマ社会にも大きな影を落としつつある。当面の課題は、ガソリンの価格が今後上昇する雲行きだ。
欧州連合は2035年にガソリン車の新車販売を禁止する予定だし、アメリカもバイデン大統領が2030年に新車の半分は、「排ガスゼロ車」つまりEVもしくは燃料電池車(FCV)にする大統領令にサインした。これを受けて、ホンダは2040年以降のニューモデルをすべてEVもしくはFCVにすると宣言。栃木の真岡にあるエンジン工場を閉鎖するなど大改革が進行中。トヨタも2030年にはEVを全体の35%にあたる年間350万台生産すると宣言。
となると、ガソリン価格の高騰でいっきに“EV時代”に突入か?
ところが、自動車をめぐる革命はそう単純ではない。化石燃料からEVへのOS(オペレーティングシステム)の変換は、スマホやPCほどには簡単ではない。
半導体不足がいわれてからモノづくりがあちこちで滞っているのと、ウクライナでの戦争でニッケルとアルミニウムの価格が最高値を更新。さらには最大生産国のロシアからの輸出が途絶え始めて、クルマを作る原材料、とりわけEVのキモとなるリチウムの供給が需要に追い付かなくなり始めているからだ。こうなると、EV普及のカギを握る低価格EVの生産に強いブレーキがかかることになる。つまり、21世紀最大のモビリティ革命の主人公EVの前に暗雲が立ち込め始めたといえる。
トヨタは、世の中がどう変わろうが複眼の思想(というかモノづくり)で対応するつもり。じつは、ホンダもエンジン生産を一切やめるつもりはないと思われる。バイクのパワーユニットの大半は今後とも化石燃料を使ったエンジンだし、F1エンジンもレッドブル・レーシングやスクーデリア・アルファタウリなどにとりあえず2025年までは供給を継続することになっている。
政治・経済・国際環境など複雑なマトリックスのなかで、今後のモビリティの盛衰が変化していくようだ。
都市部には何とも不思議な施設があるものだが、我が家の近くにもそれがある。「横浜南水素ステーション」である。横浜駅から南に約7㎞、交通量の少なくはない鎌倉街道沿いにある。
ほとんど客が来ない水素ステーションである。6~7年ほど前につくられた設備だが、その前を通るたびに気にかけて観察している。ざっと100回近くは前を通っている。ところが、これまで実際FCVが水素を充填している現場を2~3回ほどしか見たことがない。いつも人影らしきものがないので、不気味と言えば不気味である。開店休業のオーラが充満している感じ。
調べると、横浜市のFCV保有台数は、多く見積もってもせいぜい500~700台程度。横浜市には計6カ所の水素ステーションがあり、官庁やトヨタの販売店社長あたりが所有するFCV(FCVを個人で所有する人はごくまれだと推理する)のための水素ステーションなのである。
さらに調べてみると、次世代の環境車として2014年に登場したFCVは、昨年の販売台数が約5600台しかない。現在手に入れられるFCVは、トヨタのMIRAI(ミライ)しかない。累計で1万7000台ほど。ホンダのFCVは昨年いつの間にか生産中止となっている。ちなみに、バッテリーEVは昨年だけで2万2000台売れているので、次世代乗用車はEVに軍配が上がると誰しもが考える。
FCVはEVと違い燃料(エネルギー)の充填速度が化石燃料並みに素早くできるのが魅力。だが、数多く売れないと量産効果が上がらず、車両価格が高止まりのまま。EVの約1/10。水素ステーションの設置個所もあまり増えていない。全国で現在166カ所。神奈川16カ所、東京21カ所、栃木や山梨は1軒しかない。これじゃとてもじゃないが、FCVでドライブにでかけようと気分にはなれない。だから、だれも買わない。ちなみにEV用の急速充電設備は全国に約7700カ所ある。
ところが、面白いことにそれでも政府は一度振り上げたFCV推進の環境“旗”は降ろすに降ろせない・・・・。3年後の2025年には、全国に水素ステーションを320カ所までに増やそうとしているのだ。そのため、来年度は今年度より40億円多い150億円を投入するという。FCV普及のために、税金を使って、いわば先行投資している。
ただ、乗用車の世界は駄目でも、トラック・バスの世界ではFCVは将来有望ではないか、という見方もある。トラック・バスは、たいていいつも決まったところを走ることが多い。だから、水素ステーションの利用頻度が高く、その設置についてもコスパに見合うということらしい。でもFCVトラック・バスが普及するかも、ひとつの賭けだ。
道路行政に限らないが、世の中やはり複眼でモノを見る必要がある。だが、明らかに無駄と分かった場合は、さっと引き上げる勇気も必要。このへんは民間企業とお役所仕事の違い!? 税金の無駄遣いにならないように今後も注視すべきだ。
(写真の「横浜南水素ステーション」は月~金が9:15~18:45、土曜9:15~16:45。日祝は休み。のぼり旗ははためくものの客の姿はない)
« 前 | 次 »