小さなクルマがもてはやされている今日この頃だが、もともと人間はより広く、よりゆとりのあるクルマを求める存在である。より豪華に、より付加価値の高い、よりステータスなクルマ・・・そう考えると、仏教用語の無間地獄(むげんじごく)ではないが、「大空間高級サルーン」に行き着くか、フェラーリを代表とする超スポーツカーに行き着く。だからして富裕層のなかには、この2つの異なるベクトルのクルマを所有している御仁がいるようだ。
このほどデビューしたアルファードとヴェルファイアの兄弟車は、まさに前者の「大空間高級サルーン」である。個人的にはほとんど興味はないが、ナナメに眺めるとなかなか面白いことが分かってくる。このクルマ、年間6万台以上を売り上げているのである。この狭い日本でだ。驚くべきことにこのカテゴリーでの競争も激しいらしく、そのぶん技術革新もないわけではない。アルファード/ヴェルファイアのリアサスが、このほどダブルウッシュボーンタイプに変更されたのだ。これにより、リアの荷室空間&居住空間が広がっただけでなく、フラット部が劇的に増え、セカンドとシートサードシートの前後移動の自由度が高まり、シートアレンジに幅ができた。空間の演出の拡大はこの手のクルマの魅力だという。もちろん自動ブレーキも万全だ。
ハイブリッド仕様もあり、JC08モード燃費では19.4km/lだという。HVにしてはあまりよくないと思いがちだが、車両重量が2トンを超え、2220kgを超える車種もあることが分かり納得。ハイブリッド仕様のベーシックモデルでも415万円。最上級のエグゼクティブ・ラウンジ(定員7名)は車両価格が703万6691円もするのだ。ちなみに、アルファードのキーワードが「豪華・勇壮」はいいとしてヴェルファイアの「大胆・不適」には驚かされる。ワンボックスカーのすごい世界だ。
ホンダから注目すべき「変なクルマ」がデビューした。
ここでいう「変なクルマ」というのは、“これまでなかったクルマ”という意味。
ホンダは、2011年11月のN-BOXを皮切りにN-BOXプラス、N-ONE、N-WGN(ワゴン)を矢継ぎ早に発売。スズキとダイハツ、2社の競争だった軽市場に殴り込みをかけたカタチ!? 約3年間で、シリーズ全体で100万台を超える勢いは立派。そして、昨年すえには、「N-BOXスラッシュ」をリリースした。
「N-BOXスラッシュ」の凄いところは、“デザイン室の1枚のデザインスケッチから生まれたモップアップモデル”というから驚く。単なるショーカーとして終わるかと思いきや、「社内の女性社員に熱烈に支持され」発売にこぎつけたというのである。もちろん、話は多少盛ってはいるものの、ホンダではありそうな!? エピソードだろう。
そもそも車名の「スラッシュ」というのがおじさんの理解を超えている。VWのコンパクトカーに「up!(アップ)」というのがあるが、そのビックリマークほどではないが、初めて聞いたとき戸惑いを思えた。そもそも「スラッシュ」といえばORまたはANDのどちらかの意味だ。あるいは、車検時の点検票に「このクルマはこの項目には該当しない」という意味で/のシルシを書き込む。燃費表示ではリッターに「つき」「当たり」という意味で使われる。
このクルマ、早い話N-BOXの天井を少しカットし、箱型でありながらクーペテイストを引き出している。エクステリアはあらん限りの個性的なデザインだ。50年代60年代のアメリカンデザイン、ホットロッドのカスタムイメージ、カリフォルニアの道路沿いにあるダイナー(食堂)のイメージ、ハワイのサーフィンイメージ、古いジャズを思い浮かぶライブハウスイメージと5つのエクステリア、インテリア、それにカラーを選択できる。なかには8スピーカー+1サブウーハーというとんでもないサウンドカーも選択できる。こんなクルマで燃費云々は野暮だが、JC08モードで21.0km/l(ターボ仕様)、25.8km/l(NA仕様)と新型アルトの37km/lには遠くおよばない。価格は138万円から。
「ゴーッ! ゴーッ!」
エンジン試験室では、ジェットエンジン単体が離陸・航続・着陸のシミュレーションを繰り返す。遮音材で壁を隔てた隣のコントロール室にいると、その轟音はかすかにしか聞こえてこないが、モニター画面からはさかんにジェットエンジンは燃料を取り込み、燃焼し、推進力を発揮していた。埼玉県和光市にあるホンダR&D(研究・開発)のジェットエンジン実験ラボには、鳥が飛び込んでも安全かどうかを確認するラボまであった。
ホンダが航空機産業に本格的に参入したのは、ごく最近だ。だが、それまでには長い道のりがあった。1986年から航空エンジンの初歩から研究しホンダジェットが初飛行したのが10年ほど前の2003年だ。一昨年2013年にアメリカでの型式認証を取得し、2015年にようやくホンダジェットの発売にこぎつけた。だから苦節30年、ということになる。そのルーツは、はかるか昔だ。もともと創業者の本田宗一郎が、少年のころ、浜松の練兵場までアート・スミスの曲芸飛行を自転車の三角乗りで見に行ったときの情熱からはじまる。いまからちょうど100年前だ。
ホンダの最新HF120というジェットエンジンは、先輩格のGE(ジェネラル・エレクトリック)の一部技術供与を受けることで世界最先端の性能を誇る。トップクラスの低燃費と高推重比(パワーウエイトレシオ)、それに大型ジェットエンジン並みの低排ガス性能。しかも通常3000時間後とのオーバーホールだが、5000時間と長くすることができ、低維持費もウリだ。
ちなみに、航空機エンジンメーカーは、ロールスロイス、P&W(プラッツ&ホイットニー)、トーマス・エジソンをルーツとするGEの3社。ホンダはその末席に位置することになったわけだ。民間ジェット飛行機の市場は、北米を中心に現在年率5%の成長市場だという。自動車にくらべ数倍高い技術、それに資金力と情熱、この3つがなくてはできないビジネスと見た。
工場内に板金のハンマーが打ち鳴らす心地いい音が響き渡る。
12月1日、第3京浜港北インター近くにあるヤナセの広大な工場で、BP(板金塗装)のコンテストがあった。8名の選手がベンツのリアフェンダー(リアクオーター・パネルともいう)をいっせいに修理する光景が展開されていたのだ。ヤナセは来年で100年の歴史を刻むが、不思議なことにヤナセ初の公開BPコンテストだという。
コンテストなので、イジワルして修復しづらい個所にヘコミを設けていた。場所というのは、フェンダーのプレスライン、つまりヘリの山になったいわば3次元曲線のところだ。ルーフとのつなぎ目の約20センチ巾の部分の溶接とともに、70分で修復しなさいという競技。ヘコミ修理はハンマーを使うため「ハンマリング」と呼ばれ、裏側に当て金(ドリーという)を当て、表側から木製もしくは鉄製の板金ハンマーで叩き、元の形状に修復するのだ。
ハンマーが叩く真裏にドリーを置くのがオン・ドリーといい、少し離れた個所をハンマリングし、反力でヘコミを持ち上げるというのがオフ・ドリーという。溶接は、半自動タイプの溶接機を使うのだが、周囲の歪みを少なくするため、最初ポイントでつなげ、しかるのちに線状に溶接するのがコツだという。だが、コトバでいうのは簡単だが100%スキルの世界。観ていると、木製ハンマーを使わない選手もいたし、それぞれやり方が異なるし、仕上がりも「思わず凄い!」と息を呑む選手もいたし、素人目にも「それなりかな?」と感じる選手もいて、いろいろだった。BPが職人技のいかに深い、未体験の世界かがわかった。
11月18日(火曜日)、トヨタは世界初の「燃料電池車(FCV)・ミライ」の発売(発売は12月15日から)を発表した(写真)。会場はお台場にある「日本科学未来館」である。4人乗りで消費税込み723万円少しだが、国の補助金などを利用すれば500万円ほどになるため、商品力としては充分いける。少し前まで1台1億円といわれたころから見たら、開発力は目を見張る!?
ところが、ホンダも、その前日の17日(月曜日)「ホンダFCVコンセプト」を青山の本社で急遽開き、2015年度中に発売すると公表した。数日前メールでマスコミ各署に伝えての駆け込み発表。トヨタとホンダの露骨なツバぜり合い!? 価格や詳細なスペックは未公開だが,5人乗りだということが,トヨタとの差を見せる。航続距離は700km前後とあまり差はない。
2020年の東京オリンピックのマラソン競技の先導車に燃料電池車を走らせたりする構図は分かるが、実用車としてFCVが市民権を得るか、となると大きなハードルが立ちはだかる。トヨタのミライの場合、東京、名古屋、大阪、福岡などの都市圏での発売に絞り、年400台ペースの発売。水素ステーションの数がほんの数えるほどしかないからだ。水素ステーションは一軒つくるのに4億円ほど必要とされる。
しかも水素を作るにはいまのところ石油などの化石燃料に頼るしかなく、トータルではCO2の排出量が増える。CO2を出さないソーラーなどの自然エネルギーで作ろうとするとガソリン車の約10倍ものコストがかかるといわれる。つまり「究極のエコカー」になるには、ゴールはまだまだ先だということだ。
いきなり水を差すつもりはないが、フラッグシップカーというのは、自動車メーカーのいわば見栄を露骨に表現したクルマだけに、あまり営業的に成功したクルマはいない。発売は来年1月22日からだが、このほど10年ぶりにフルチェンジされた5代目レジェンドの月間販売予定数が300台(年間3600台)ということは、フィットの数パーセントの販売数に過ぎない。価格は消費税込みで680万円。フィットのざっくり3倍以上の高級車は、どこが違うのか?
パワートレインは3つのモーターとV6/3.5リッターエンジンを採用したハイブリッドカーなのである。車体の前部に直噴SOHC1カム4バルブエンジンと高性能モーターを内蔵した7速の湿式DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を、車体後部には2つのモーターを内蔵したツイン・モーターユニットを搭載。エンジンと3つのモーターを最適に制御することで、前輪駆動、後輪駆動、4輪駆動の3つの駆動方式と、うしろ2つのモーターのみで走行するEVドライブ、エンジンによる前輪駆動と車体後部の2つのモーターで走行するハイブリッド走行、エンジンのみで走行するエンジンドライブの3つの走行モード。そのなかから、ドライバーの要求する走行上に応じて、最適な駆動方式ともっともエネルギー効率のよい走行モードを自動的に選択するというものだ。減速時には4輪すべてのタイヤでエネルギーを回生し、16.8km/l(従来車は9km/l)というすぐれた燃費性能をたたき出している。
燃費を高める目的で、高張力鋼板をこれまで以上に使い、エンジンフード、トランク、ドアパネル、前後のバンパー・リンフォースメントなどもスチールからアルミに置換。それでも車両重量は1980kgと限りなく2トンに近い。しかも車幅が日本の道路を走るには苦しい1890ミリでこれまた1900ミリに限りなく近い。要求される燃料は、無鉛プレミアムで、タンク容量が57リッターと、無給油で800kmは走れそうもないレベル。ちなみに、エンジンとモーター合わせると、最高出力は382PSで、これはV8エンジン以上の動力性能で、燃費は直列4気筒並みだというふれこみだ。レーダーとカメラの2つによる自動ブレーキシステムもウリ。リアシートに座ってみたが、ヘッドルームは不足気味だが、レッグスペースは有り余るほどだった。
秋葉原から神田の街の中を10分間ほど、電気自動車のハンドルを握り運転した。
クルマは来年早々価格366万9000円で、日本で発売されるVWの全長3.54メートルの5ナンバー「e-up!」である。
日本ではこのくらいの大きさがベストじゃない! そんなベストサイズのup!の電気自動車は、東京の下町をグングン走る。しかも静かに活発に。車内は明るいし、気分は悪くない。スタンダードだとドア枠などトリムなしで鉄板剥きだしだが、そのチープ感がなんだかカッコよく感じるから不思議だ。重量230kgのリチウムイオン電池を床に平たく積んでいるがそんなことなどまったく気が付かないほど乗り降りは不便ない。セル数は204個で、最大出力60KW(82PS)、最大トルク210Nmと聞けば、なるほどその走りも理解できる。モーターはなにしろシームレスだから気持ちがいいのだ。カタログを見ると、時速100キロまでの到達時間が12.4秒、最高速度130km/hだという。高速道路でも苦痛ではなさそうだ。
EVで一番気になる1充電での航続距離は、もちろん走り方(ヒーターを使うとダウンする!)にもよるが、JC08モードで185kmというのは、東京から箱根まで途中充電なしに走れるということだ。しかも急速充電では30分あれば80%充電完了できるという。
クルマはなかなかの出来だが、VWの本気度に疑問符が付く。補助金50万円としても、300万円以上は高すぎる。
テストコース場という条件付ではあるが、生まれてはじめて自動運転車両に乗ることができた。
タイヤをはじめABSなど自動車部品の世界的メガサプライヤーのコンチネンタル社が、作り上げた自動運転車両だ。VWパサートに自動運転ディバイスを組み込んだもので、外観は普通のパサートである。千葉県旭市にあるテストコースはオーバル周回路だが、その途中に工事区間や信号機を設置して、通常の国道や県道レベルと考えてもらいたい。
筆者は助手席にいたのだが、ドライバーは走り出してすぐハンドルから手を離した。
低速で前方の車両に追従する。前方の車両は加速するとこちらも加速する。道路標識の制限速度をカメラでとらえ、認識し、制限速度を守る。途中工事区間があり、車線が1車線規制となっても忠実にこれを守り、まるでショーファー(お抱え運転手)がいるような気分になる。物陰からいきなり子供が飛び出してきた。むろんこれは人形だったが、見事に緊急ブレーキがかかり手前でクルマは停まった。今回は、幹線道路を40~60キロで走行したが、時速100km以上の高速道路でも、もちろん自動運転できるという。
このクルマには、フロントとリアのバンパーにそれぞれ2つずつの短距離レーダーセンサーと、これとは別の長距離レーザーセンサー、それにステレオカメラを搭載していた。つまり3つのレーダーセンサーとひとつのカメラで、障害物や標識を認識し、センサーから得た情報を、高速で処理し、車両の縦方向横方向モーションをエンジンやブレーキ、ステアリングへ信号を送り制御する。こうした自動運転向けのロジックは、欧州、アメリカ、それに日本などで実走行しながら学習し、完成度を高めていくのだという。今後は、e-Horizon(イー・ホライズン)と呼ばれる前方の工事ゾーンや複数のクルマの動きを考慮した地図情報をそれに組み入れることで、さらに自動運転化の完成度を向上させるという。気になる実用化のメドと価格だが、2023年と当初よりやや遅れ、コスト的には自動ブレーキの約2倍としてプラス20万円あたりになるのではないだろうか?
このところマツダががぜん元気だ。
マツダの総合力を発揮したクルマ造り、スカイアクティブ技術が徐々に認知されつつある。新しいデザインテーマである「魂動(こどう)SOUL OF MOTION」でエクステリアの魅力を打ち出したことも大きい。これまで日本車には希薄だったモノづくり側の“強い姿勢”(哲学)が市場で受け入れられているともいえる。白物家電化しているとはいえ、やはりクルマは冷蔵庫や炊飯器とは違い、情緒を重んじる工業製品だ。
1300のガソリン車は9月26日発売(135万円から)、1500ディーゼルターボは10月23日からの発売(170万円台から)だが、一足先に箱根で試乗してきた。一言でいえば、1500ディーゼルターボは、予想通りディーゼルの振動・騒音がまるで感じない。2.5リッターガソリン車並みのパワフルさに近い。燃費がリッター30キロ(6MT車:JC08モード)。しかも軽油はレギュラーガソリンより10円安なので、これは魅力だ。ハンドリング性能も高く、充分楽しいクルマに仕上がっている。従来型車の欠点のひとつだったトランクルームが拡大され、この点での引け目も消滅。インテリアもヘッドアップディスプレイなどの採用で、たぶんコンパクトカーでは一番進んでいるのではないか。1時間の試乗では、イジワルな目で観察しても、死角を見つけることができなかった。久々に欲しいクルマに出会った思いだ。
ガソリン車は、ディーゼルの陰に隠れた印象を持たれがちだが、ふだん同じ排気量のトヨタ車に乗る立場から言うと、目を見張る出来に近い。FUNなドライブができた。JC08の燃費も24.6km/lとこのクラスでは上々。今後のマツダの魅力ある車種展開が注目だ。
ちょうどバブル期の頂点1989年にデビューし、人馬一体というキーワードでいい走り味を追求してきた2シーターライトウエイトスポーツカー・ロードスター。その4代目が、もうすぐ発売される(発売日は未定だが)。
発売を前にして、先日、東京ディズニーランド近くにある巨大ホール(なんとシルクド・ソレイユを演るホール)で世界プレミアムと称して、スペイン、カルフォルニア同時のイベントでその姿を表わした。時代もグローバルになったもので、クルマも世界同時お披露目の時代なのだそうだ。
気になるスペック(燃費とか、価格とか)はまったく発表されなかったが、マツダのお家芸である『スカイアクティブ技術』を投入し、ホイールベースと全長をより短くし、よりコンパクトで、走りの楽しみを満喫できるクルマに仕上がっているようだ。車両重量は、重箱の隅をつつくというか、各部の贅肉をそぎ落とすことで、100kg以上の軽量化を図ったという。
エクステリアは、どことなくフィアットのバルケッタと3代目ロードスターを足して2で割った感じ。アルファロメオの次期スポーツカーをマツダが供給する、マツダの広島の工場で生産するという取り決めがフィアット社とのあいだで、なされている。だから、なんとなくフィアット臭がするわけだ。
ちなみに、シャシーモデルを公開したが、フロント・ウッシュボーンのFRレイアウトで、プロペラシャフトのところに補強梯子状の部品が付いているところなど、初期型のロードスターとほぼ同じで、初期型オーナーである筆者はどことなく安心した。それにしても初期型が発売され、四半世紀。25年たったクルマはド中古なのか、はたまたクラシックカーなのか、微妙だ。誕生から25年の女性なら、人生のピークなのだが、25年たったクルマとなると!?
« 前 | 次 »