「東日本にはエンジンのリビルト(再生)事業会社というのはないのです。ですからうちはBRE関東と命名したのです」
BREというのはベスト・エンジンエンジニアリングの略だそうだ。埼玉県越谷市大松にその工場はあった。設立が平成17年というからまだ6年ほどしかたっていない成長著しいリビルト工場。注目したいのは、この工場の扱うエンジンの大半は、軽自動車のエンジンだということだ。タイヤの径が12インチ(13インチもあるが)にもかかわらず軽自動車は普通乗用車同様ハイウエイを時速100キロ、120キロで走行している。これを考えるとタイヤが受ける負荷だけでなく、エンジンだってつらい。しかもエンジンオイル容量が普通車に比べ1リッター近く少ないし、かてて加えてユーザーの意識も下駄代わりの感覚。しっかりエンジンオイルの管理を励行している向きも少ないようだ。しかも低収入時代で、いまや維持費が安いことが受けて軽自動車はどんどんシェアを伸ばしている。
この工場は約20数名の作業員は分解、洗浄、機械加工、組み付け、テストの各工程で活躍中だ。出来上がったエンジン1機1機に責任者の手書きのメッセージを添えて、全国に送られていた。このエンジンリビルトのマネージメントをしているのが面白いことに、10数年前までF1エンジンの組み付けやメンテナンスで、世界を回っていた山浦靖雄さん(39歳)。当初は、レーシングエンジンのノリで、過剰なオーバーホールで採算が合わなかったが、徐々にF1で培った独自の許容領域でのリビルト技術を完成され、他では真似できないという滑らかで高い信頼性のリビルトエンジンを提供している。http://www.bre-kanto.co.jp
真新しいトラックは、イグニッションをひねると事も無げにエンジンが始動。ディーゼルエンジンとは異なる軽やかにアイドリングし始めた。
水素を燃料とする水素エンジンは、マツダやBMWが知られているが、40年前からこの実用化に取り組んでいる組織が日本にある。武蔵工業大学、現在の東京都市大学(本部・世田谷区)である。この大学の総合研究所ではここ40年の間に10以上の水素エンジンをめぐる研究成果を公開している。
このほど、その最新の成果をマスコミに公開した。公道を走れる水素ハイブリッドトラックである。日野自動車のデュトロをベースにしたもので、水素を燃料にするためシリンダーヘッドと吸気系を改造し、ナンバーを取得している。デュトロのエンジンはもともとディーゼルなので、インジェクターを取り外し、そこにスパークプラグを到着しているのである。水素エンジンは、排ガス浄化性能は飛び抜けて高いが、低速トルクの不足と最高出力不足が実用化を阻む大きな壁だった。ところが、この車両は、ハイブリッドの特技を生かし、低速時にはモーターのチカラでトルクをアシストし、高速領域ではVGタイプのターボチャージャーと、点火系を強化したCDIシステムで、ほぼノーマルのディーゼルハイブリッドエンジンと同等の動力性を発揮するという。
キャブと荷台の間にカナダ製の74リッター容量の水素タンク4個を搭載し、航続距離は約100kmだという。もちろん、万が一の水素漏れが起きて大丈夫なように、2重3重の安全装置を付けている。小口の宅配便がゴミ収集車などには、ぴったしのトラックだ。トラックの場合、電気自動車化はトルク不足を補うには莫大な量の電池を搭載しなければならず実用的ではないが、この手の水素ハイブリッドなら十分実用化が見えている。課題は、やはりコストになるようだ。
159万円といういささか衝撃的なプライスでデビューしたフィットのハイブリッドは、リッター30km(10・15モード)という燃費。ところが、『ハイブリッドだから燃費は一番!』という神話が崩れそうなニュースが飛び込んできた。
マツダが、来年前半に発売するデミオに次世代型ガソリンエンジンを搭載。これがなんと“エンジンだけの大改善”などで、リッター30kmをマークするというのだ。ハイブリッドではないため、当然フィットのハイブリッドよりも価格は安くなるハズ。予測だが、120万円~130万円ぐらいになる? ということは、「ハイブリッドという電気デバイス車vs通常のガソリンエンジン車」という構図の戦国時代が起きるということ!?
それにしてもマツダは、なぜ、ハイブリッドではないのにリッター30kmという好燃費を出しえるのか? 秘密のひとつは、14という、いまだかつてない高圧縮比エンジンを実現したから。最近のエンジンは普通10~12ぐらいが常識。それ以上になるとノッキングといって異常燃焼を起こし逆に出力が低下し、エンジンが壊れる、といわれる。ノッキングの主原因は、燃焼室に高温の残留ガスが残り、それが次の圧縮工程での熱を上乗せし、ノッキングするということを突き止めた。そこで、マツダは4-2-1という排気システムを構築し、高温の残留ガスを燃焼室に持ち込まない工夫をした。加えて、燃焼時間の短縮で、高温状態にさらされる時間を短くした。これは空気流動の強化、噴射圧力の強化、マルチホールのインジェクター、上部にへこみを持ったピストンなどの合せワザだ。エンジン自体をゼロから設計したので、ピストン、コンロッド、クランクシャフトなどのムービング部品の軽量化ができ、オイルポンプも電子制御化し余計な仕事をさせないようにすることで、エンジンの効率を高めている。以上がマツダのマジック。
すでに知られているようにマツダはトヨタからハイブリッド技術を購入している。ハイブリッド化する前に、既存のレシプロエンジンでどこまで燃費を高めることができるか? ロータリーエンジン開発という苦難の経験を持つマツダは、そのことに挑戦したのである。実はレシプロエンジンは、効率で言えば、せいぜい30%。排気損失、冷却損失、機械損失、ポンピング損失などで、70%のエネルギーが途中で逃げている。逆にいえば、まだまだ改善の余地が大いにあるともいえるのである。
レンジ・エクステンダー(RANGE EXTENDER)」とはあまり聞きなれないが、直訳すると“航続距離延長装置”のこと。ふだんはEVとして走り、バッテリーが空になるとエンジンで発電しながら走るハイブリッドカーのことを指すのだ。エンジンは直接ホイールを回さずに、バッテリーの充電に専念するのである。純粋のEVのように、高価で重いバッテリーを大量に搭載する必要がないため、コストを下げられ、軽量化にも大いに貢献する。しかも駆動系をEVに近いシンプルな構造。
メリットはそれだけではない。通常のEV車では必須である急速充電機も必要ない。
スズキは、日本で始めてこのレンジ・エクステンダーEVという新ジャンヌのEVを64台つくった。充電所要時間は100VのACで1.5時間、200Vの交流ならわずか1時間なのである。スイフト・レンジ・エクステンダー(定員5名)は、エンジンルームにワゴンRと同じK6A(排気量660cc)の3気筒エンジンを搭載。EVで約15km走行でき、バッテリー残量が少なくなると、エンジンを適宜稼動させながらモーター(交流同期電動機:最大出力55kW,最大トルク180Nm)で走行する。信号待ちなどの停車時にはエンジンを停止させるアイドルストップ機能を持っているし、ブレーキをかけると、回生ブレーキ機構が働きバッテリーへ充電される。
このレンジ・エクステンダーというジャンヌのハイブリッドカーは、実は欧米の自動車メーカーに1日の長がある。来年発売予定のGMのシボレー・ボルトがこのたぐいである。ボルトは、1400ccの4気筒エンジンを備えている。このボルトのほかに、クライスラーの「タウン&カウントリーEV」もレンジ・エクステンダーEVである。今年3月ジュネーブショーでお披露目となったプジョーの「A1 e-tron」も荷室下部に小型のロータリーエンジン(20PS)を載せたレンジ・エクステンダーである。こちらは満充電で約50km走行可能だという。
スズキのレンジ・エクステンダーは、すべてナンバーを取得し、25台を浜松市内で、残りを全国のスズキ・ディーラーで実証実験をおこない、それを踏まえ本格的に量産すると思われる。リチウムイオン電池のコストダウンとコンパクト化、それにEV走行での航続距離の延長など、課題をいかに克服するかに成功の鍵がかかっている。
スバルのエンジンは、軽をのぞき基本的にすべて水平対向エンジン。クランクシャフトを中心に、左右対称にピストンを配置、ピストンの運動の様子がまるでボクシングの選手が繰り出すパンチのようであることから、別名「ボクサーエンジン」とも呼ばれる。ライバルの直列エンジンやV型エンジンなどにくらべ、エンジンの全高がぐっと低く抑えられるので、車両の重心を下げられ、そのぶん運動性能を高められるメリットを持つ。
そのボクサーエンジンが21年ぶりに全面的に改良された。11月にデビューするマイナーチェンジ版のフォレスターに搭載される。水平対向4気筒DOHCという基本は変わりない。排気量は2リッターと2.5リッターの2本立て。
従来のFJエンジンは、パワー重視のエンジンだったが、今回の新世代(1966年デビューのスバル1000から数えて3代目)ボクサーエンジンは、時代を反映して環境重視型エンジン。限られたエンジンルーム幅から困難とされてきた、ロングストローク化を実現したのが一番の目玉。従来の75ミリだったストロークを90ミリにしている。タイミングベルトからタイミングチェーン化、直打方式のバルブレイアウトからロッカーアーム方式に変更し、コンパクトな燃焼室で、燃費向上とトルクアップを実現している。具体的な燃費性能は、従来とくらべ10%アップ、加速性能は2%向上し、アクセルレスポンスも確実に高まったという。基本の燃焼を向上させることで、排ガス浄化のためのレアメタルの使用量を約30%も削減できた。これは触媒コストに直すと、約半減だという。
この新世代のFBエンジンは、自然過給(NA)を念頭に開発されたエンジン。ターボチャージャーを付けるには相当の補強をやるしかない。だが、開発者いわく「直噴エンジン化やハイブリッド化を視野に入れたエンジンだ」という。
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