女性から見て男性はいつの時代も不透明さを持った存在であるかもしれないが、男性から見ても「女性は理解しているようで、理解できていない存在」である。
なにやら哲学めくが、意外と話は簡単。女性向け、それも若い女性向けのクルマ作りに自動車メーカーのエンジニアは苦心を重ねているという話である。
このほどデビューしたダイハツのミラ・ココア。男性から見てもたしかに≪可愛い≫カタチをしている。おもな購買層である若い女性から見て≪とてもかわいいクルマ≫に仕上げるのに、おじさんたちダイハツのエンジニアは苦心したという。いつもそばに置いていたい、という願望をともなうのがここでいう可愛さのひとつの要素だそうだ。実は、おじさんが思い描く≪可愛い≫と、若い女性がイメージする≪かわいい≫との間にはずいぶん距離があるという。エクステリア・デザイナーは、複数のスケッチを作り上げ、グループインタビューというカタチで20代30代の女性に見てもらい≪評価≫を得て作り上げていったという。
その作業の中でハンメイしたのは3つのキーワードだったという。
「クルマっぽくないこと」つまりガンダムのようなメカメカぽくないことがひとつ。2つ目が、「このプレスラインはこうした意味がある」といった理屈がまとわりつかない点。3つ目が「肩の力が抜けた感じであることだ」という。ユーモラスやジョークがどこかにある。ハズシが存在するということらしい。こうしたことはいずれも、数値では表せない価値観。
ダイハツの場合、軽自動車のジャンヌは、機能満載と最新技術投入のムーヴ、実用重視のミラ、それにファミリーカーのタントがあり、質感重視のムーヴ・コンテがあるなかで、ミラ・ミルクは「若い女性の慣性を満たす軽自動車」という位置づけだという。
こう考えると、日本の軽自動車の世界も大変な領域に突入しているのである。
2010年末から日米欧で販売予定している日産のEV「リーフ」のプラットフォームを使った試作車のハンドルを握った。どこかのクルマの宣伝文句に聞こえるかもしれないが、胸のすく加速感とガソリン車にはない圧倒的な静粛性とスムーズな発進フィールに虜になった。コースを走るぶんには、なんら変な異音が出たりすることがなかった。アクセルをラフに踏んでもギクシャクするようなところもない。誰にでも違和感なく使うことができるクルマといえる。
EVはいうまでもなく経済性が抜群である。試算によると月に1000キロ走ったとしてガソリン代が燃費のいいガソリン車でも6000円は必要。EVになると格安の深夜電力も使えるので同じ1000キロを走っても月に1200円前後という。5000円近くの差、ということは年間6万円も浮く計算だ。
でも、EVで心配なのは航続距離である。アメリカのLA4モード(LAというのはロサンゼルスの意味)というフリーウエイとシティモードをあわせたような走行モードで、航続距離が160㎞(100マイル)という。エアコンをフルにかけカーオーディオをがんがん楽しむと少し落ちるが、横浜から東京までいくぶんにはなんら問題ない能力と見た。でも、運転中「あとどのくらい走るとバッテリーは空になるのか?」と心配しながらハンドルをにぎるのは身体によくない。
そこで、携帯電話端末を使い、心配を少しでも取り除こうという方策を日産では構築中という。乗車中にはカーナビで航続距離のエリアを表示。充電スタンドのデータを取得し、現在、ほかのクルマが使用中かどうかなどの詳細情報も伝える。携帯電話で、あらかじめ充電量を確認したり、乗車まぢかにエアコンを遠隔操作して乗り込むときに快適な車内を作り上げるなど芸の細かい操作ができるという。もちろん充電量の確認や充電完了のメールを受けるなど朝飯前の仕事。
新型EV専用プラットフォームとはどんなものなのか?
日産自慢の高エネルギー・リチウムイオンバッテリーを使ったバッテリーパックは、車体中央のホイールベース間に搭載。バッテリーパックを支えるのは板金製のフレーム。車体の剛性を高める役目もしている。ラミネートタイプのセルを集合させた薄型バッテリーモジュールの特性を生かして、コンパクトカーと同じ運転姿勢、遜色のない後席の広さを確保。ガソリン車のエンジンルームに当たる部分には、インバーターとモーターが搭載。そのサイドフレーム中央に左右のフレームを連結するメンバーを取り付け、効率的なユニットレイアウトと剛性の向上を両立。このあたりは既存のガソリンエンジン車にくらべ構成部品が少ないので、実にシンプル。ハーネスの張り具合も、昭和40年代の東京の地下鉄路線図よりも簡素である。
右を向いても左を向いてもエコカーしか、見えてこない近頃の自動車業界だが、どっこい既存のガソリンエンジン車のエコ度も日毎に増しつつある!
既存のガソリン車のエコ度向上は、直噴エンジン化がひとつの回答。ところが直噴は小排気量には採用しづらい。昇圧用のポンプが必要となりコストアップするからだ。ただでさえ、コスト競争の激しいコンパクトカー1~1.5リッター車の世界では別の手法をとる必要がある。
そのひとつの回答がデュアル・インジェクター方式といえる。
ガソリンエンジンのインジェクターは4バルブにしろ2バルブにしろ1気筒あたり1つだったのを2つにすることで、霧化を促進し、熱効率を高めるというものだ。これは日産がこのほど発表した新技術で、来年の新型マーチあたりから採用するらしい。このエンジン、従来の吸気側だけでなく排気側にも連続可変バルブタイミング機構(VVT)を取り付け、デュアル・インジェクターとのコラボレーション技術で、燃費を約4%向上させるという。燃費向上だけでなく、エンジン内部の排ガス浄化にもプラスになり、触媒中の貴金属の使用量を半減できるというオマケまで付いている。
なお、直噴エンジンと比べどのくらいコストダウンできるかというと、約60%だという。直噴エンジンよりも構成部品が少なく、コストを劇的に安くできるという。今後、コンパクトカーの世界にもハイブリッドカーが登場する模様。こうしたエコカーとどのくらいの勝負(車両価格と燃費性能などで)ができるか、目が離せない。
「日本は経済に勝っても文化では負けている!」とよく言われるところだが、自動車の世界でもそれがいえそうだ。GMが実質国有化され、いまや日本の自動車メーカーは、世界でトップになったと小躍りしている場合ではない(構造不況でそれどころではないのが現状だが!)。
先日、ロサンゼルスの自動車博物館「ピターセン・オートモーティブ・ミュージアム」、静岡県浜松にできたスズキの「スズキ歴史館」、それに愛知県岡崎にある「三菱オートギャリー」と3ヶ月のあいだに立て続けに3つの自動車ミュージアムを取材しての結論がそれ。やはり日本の自動車文化というか、自動車にまつわる民度は、アメリカよりも1周遅れだ、ということだ。
極論に聞こえるかもしれないが、≪博物館という存在は所詮死体安置所≫みたいなもの。すでに終わった製品がただ並べているだけに過ぎない。その死体安置所をいかに、まるで生きているかのように活き活きとギャラリー(見学者)に見せるか? 館長や学芸員の腕の見せ所である。確かに日本の場合、アメリカ自動車業界を戦後キャッチアップするのに躍起だった時代から一段落して、自分を見渡せるというか、来し方行く末に思いをはせる気持ちが沸いてきた。その現われが多少の時間差はあれ各メーカーこぞってミュージアム建設に注いだ。
日本の自動車博物館は見学者を集めるために、子供が喜びそうな企画を立てられるが、大人が納得できる企画がトンとない。ピターセン博物館が展開しているような、「環境車を一堂に集める」とか「販売には結びつかなかったがユニークなクルマ大集合」(写真:原題:このクルマたち何考えているのさ!?)といった大人がムズムズするような企画をするべき。そのために博物館相互でクルマの貸し借りをすればいいのだ(美術館では昔からやっている!)。≪博物館こそ未来を見渡せる場所≫ そんな意識を持ってもらいたいものだ。
自動車における≪脱化石(脱炭素)燃料≫に対するテクノロジーはいまのところ、バイオ燃料車、電気自動車、水素自動車の3つしかない。読者のなかには“燃料電池車”をいい忘れていると指摘する人もいるかもしれないが、燃料電池車も電気自動車のひとつと考えれば、3つのタイプとなる。
そこで水素である。
水素は≪元素の周期表≫の左上に位置する原子番号1番、元素記号H。無色無臭の気体で、水(H2O)をはじめとして地球上ではいたるところに化合物として存在する。
水素を燃料にするとどうなるか? 通常のレシプロエンジンだと、スパークプラグなどの高温部からすぐ異常着火を起こし使えない。ところが、ロータリーエンジンの場合は吸気・圧縮をおこなう低温部があり、ここに水素を噴きつければ問題なく燃えてチカラとなる。
ごく大雑把に言えばそんな発想で、マツダは、13Bロータリーエンジンを横置きFFにしたプレマシーハイドロジェンREハイブリッドを作り上げた。プレマシーは本来3列シートだが、3列目に35MPa(メガパスカル)の高圧水素タンクを置き、5人乗り仕様としている。水素燃料のロータリーエンジンでジェネレーター(モーター)を回転させ、発電。リチウムイオン電池を充電、電気モーターによりフロントのアクスルを駆動して前進するというものだ。水素自体は燃料電池車と違い多少不純物が混じっていても大丈夫だ。
このプレマシーの面白いところは、水素で航続距離200キロを走行でき、もし途中で水素がなくなればガソリンを燃料としてロータリーエンジンを駆動し、ジェネレーターで電気を作り出し、電気自動車として走ることができる。トータルの航続距離はなんと600キロで、通常のロータリーエンジン車(たとえばRX-8)はおろか、レシプロ顔負けの長い距離を1充填で走行できるのである。このクルマ、いまのところ法人向けでリース料が月42万円だという。今後の課題はコスト(価格)である。
地球環境デーの6月5日、世界初の量産電気自動車「アイ・ミーブ(ⅰ-MⅰEV)」が船出した。
今年度は法人や地方自治体向けの1700台に過ぎないが、来年度から一般ユーザー向けに5000台の販売をもくろんでいる。価格は460万円と高値だが、補助金などの名目でユーザーが支払うのは230万円前後。取得税や重量税が免除されるので、ガソリン車にくらべアバウトで100万円上乗せ、という感じ。
駐車場で少しハンドルを握ることができた印象でいえば、加速もすばやく最高速も130㎞/hというから動力性は文句なさそう。充電時間も200Vなら約7時間で満充電でき、急速充電なら30分だ。ただしこの急速充電器の設備、現在全国で20箇所しかないが・・・。
大きな課題は、ワンチャージでの航続距離だ。10・15モード走行で160キロ。実際エアコンをかけるとこれが100キロぐらいとなり、ヒーターをかけるとさらに80キロぐらいとなる。これでは本当に近所をぐるぐる走るぐらい。横浜から東京往復は心もとない。「せめてヒーターをかけて120キロ走行可能でないと」・・・というのが私の“不買の理由”。
三菱自動車によると、「約9割の人が40キロ未満の走行」というアンケート調査結果があるという。「だから皆さん買えるはず」という論理。ところが商品というのは、百にひとつの可能性、夢と言い換えてもいいかも知れないが、そんなところに人間の商品に対する欲望がある。実際には多人数乗車のセダンでもワゴンでもリサーチすると、1人とか2人乗りが圧倒的に多いが、2シーターのスポーツカーが爆発的に売れることがないのと同じなのかもしれない。
一昔前まで「イージードライブビングの横綱」といえばATを指していた。
それがCVTの登場、さらにはMTからの進化版ともいえるツインクラッチのデビューで、選択肢が広がりつつある。急いで付け加えると、横綱格のATも4速5速の多段化、高級車の中には7速8速まで登場している。
燃費効率、コスト、それに軽量、さらには振動&騒音低減、この4つの種目で横いっせいに競い合っているのだ。そんなトランスミッション戦争の中に、レガシーが新しいメニューを引っさげて登場した。従来の金属ベルトタイプのCVTではなく「金属チェーン方式」のCVTである。スバルでの商品名は「リニアトロニック」と命名している。ずばり言えば、ドイツのシェフラー・グループのルーク(LUKE)ブランドの部品。アウディの一部(横置き)ですでにこのタイプのCVTを世に出てはいるが、レガシーの縦置きタイプとなると世界初。
このCVTの利点は大きなトルクにも対応できる点と、伝達効率がベルトタイプより約5%もアドバンテージ。しかも、上下左右の出っ張りが少なく、小型化できたという。
ただし、少数派だけにノイズとバイブレーションに苦しみ、開発には3年間も要している。オイル攪拌抵抗の低減など燃費向上作戦にも配慮しているようだ。
この出来栄えについては次回もう少し詳しくリポートできると思う。いずれにしろ、スバルは、トヨタの一員になったとはいえ「六つら星魂(むつらぼしたましい)」のあくなきチャレンジ精神がいまだ消えていないようだ。
「エンジンを取り外してもいいからできるだけ安いクルマを作れ!」
そんなとんでもない命令下で作り上げたのが、今年販売30年、世界で1000万台の売り上げを記録したスズキ・アルト。「あるときは買い物、あるときは旅行・・・あると便利なクルマ」というキャッチフレーズのアルトが誕生したのは1979年。鈴木修48歳、4代目の社長になって1年のときである。実は、このアルト誕生には大いなる秘話がある。
排ガス規制とオイルショックでクルマが売れず、青息吐息の時代。「もっと安く、もっと軽く、常識破りのクルマを作ろう」という合言葉のもと、「全国統一価格47万円」という当時としては中古車並みの価格でアルトを発売。当時はたとえば北海道のユーザーは輸送代5万円前後を払わなくてはいけなかったのだが、これを文字通り全国統一価格にした。それだけでなく、当時3~4グレードほどあったランクを1グレードにして量産性を高め、そのぶんコストを下げた。4ナンバーの貨物扱いで税金も少なくてすんだ。生活の足を求めていた消費者の心をつかみ、アルトはあっという間に月販1万台を軽く超え、ベストセラーに躍り出た。
このアルトの成功でスズキはバイクメーカーから4輪車メーカーへの基礎固めができた。女性ユーザーを飛躍的に増やしたことで、女性の社会進出に一役買ったクルマでもあった。
鈴木修は、現在79歳で会長兼社長。「人生は7掛けだから、まだ56歳の若造です」というのが口癖。ホンダが歴代の社長はみなエンジン屋さん出身。もし、鈴木修がホンダにいたら・・・「エンジンを取り外してもいいから・・・」なんていう人物は間違いなく、ダメ人間だった!?
先日燃料サーチャージャー代が安くなったので、取材で出かけたロサンゼルス。
アナハイムにあるPICK YOUR PARTというお店は、文字通り客みずからが工具片手に入店し、使用済みの車両からめぼしい自動車部品を取り外し、窓口で清算する・・・という手法。いわば旧くて新しいビジネス・スタイル!?
この日は、ちょうど50%オフのディスカウントセール中。朝からメキシカンを中心に家族や友人と連れ立ち、続々入場料2ドル(約200円)を入り口で支払い入場。工具箱を背中に載せた客、つなぎの後ろポケットにレンチを差し込んだ近くの修理工場のメカニックの姿も見える。
ヘッドライトやフェンダーあたりなら自分で取り外せるが、エンジンやトランスミッションとなると手助けが必要。そんなとき、ここでは裏技がある。よくしたもので、ヘルパーがヘルプしてくれる。ヘルパーといってもメカに強い常連客。手間賃数ドルを払えば助けてくれる。このあたりはお店も見て見ぬふり。WINWINの関係!?
このお店、アナハイムをはじめ周辺に7店舗を構え、スタートから30年の時間を刻む老舗。10万㎡の広大な敷地に約800台の使用済み車両を置き、30~45日ごとに総入れ替えするという。GM,フォード、クライスラー、欧州車、日本車別にジャンヌ分けで、探しやすい。ちなみに、マネージャーに聞くとやはり昨年夏のリーマンショックで、それまでトン当たり400ドルだったスクラップが350ドルに暴落したとのこと。でも、アミューズメントパーク的役割で魅力を振りまく、このビジネスモデル、顧客の呼び込み力に陰りは見えなかった。
両手に荷物を抱えたまま、頭の中で≪念じるだけ≫で「あ~らっ、不思議、トランクが開いた!」
そんな超コンビニエントな仕掛けが、僕たちの眼前に実現しつつある。
このほどホンダの関連会社、それに京都にある島津製作所(ノーベル賞を取った田中耕二さんが所属する企業)などが共同で開発した『考えるだけでロボット制御するBMI技術』。BMIというのはブレイン・マシン・インターフェイスのことで、将来的には知能化技術やロボット技術の融合による人に優しい製品開発への応用、ということ。写真のようなヘッドギアを頭に取り付け、ごく微妙な脳波(脳活動にともなう頭皮上の電位変化)と脳の血流を計測。その複雑なデータを統計処理する情報抽出技術で、人が考えるだけで脳活動を高精度に判別できる。
実験では正解率が世界最高水準の90%以上。ただし、いまのところ「右手」「左手」「足」「舌」の4つの選択肢でしかないが、今後の脳活動の解読に大きく前進したという。広大な宇宙空間のような謎を秘めた人間の脳が、解明される日も近い!? でも、実際には富士山でいうと裾野がぼんやり見えたぐらいでしかないのかもしれない。
ちなみに、アメリカでは外科手術で脳内に電極を埋め込み、たとえば戦争で破損した腕を動かすなどの治療がおこなわれているという。今回のホンダなどの開発は外科手術なしにこれができる道が開かれたという意味もある。
10年後あるいは20年後には、クルマを運転して≪念じる≫だけで「最寄りの素敵なレストランを紹介する画面」がカーナビに登場する日が来るのかもしれない。
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