みなさん!知ってますCAR?

2021年10 月 1日 (金曜日)

五輪は許されても4輪、2輪は許されない、との豊田章男氏の発言にひとこと

ポルシェのEV

  先日、鈴鹿サーキットでおこなわれたトヨタの社長豊田章男氏の発言が、話題を呼んでいる。
  日本自動車工業会会長として、という前提で「五輪は許されても4輪と2輪は許されないことに、不公平感を抱いていて、大いに不満だ」と発言。その場にいた記者にこのフレーズを記事の見出しとして使ってほしいとまでアピールした。
  言い回しの妙に座布団1枚という声もあるが、このボヤキ、わからないでもない。
  コロナ禍の状況下で、オリンピック・パラリンピックを開催したのに、日本で開催予定だった国際格式のモータースポーツはことごとく中止に追い込まれたからだ。F1日本GPをはじめ、世界ラリー選手権WRC,世界耐久選手権WEC,2輪のモトGPや鈴鹿8時間耐久レース、もてぎで開催予定のトライアル世界選手権などがことごとくキャンセルとなった。しかもトヨタとしては、五輪のメガスポンサーの一つとしておおいに協力したのにナゼだ! という思いが章男氏の強い言葉の裏にある。
  当局は、モータースポーツのアスリートをアスリートとして見ていないのか? そんな発言も章男氏の口から出た。
  この差別には根深いものがある。そもそも、日本人の大半はモータースポーツを100m走やマラソンといった駆けっこ、水泳競技と同じようには見ていない。運動場やプールの数ほどには、サーキット場がないからだ。自動車やバイクは生活のなかに溶け込んではいるが、それを使っての競技となると、遠い存在だからだ。エンジンのチカラで走るのだから、それを操る人間はオペレーターであって、アスリートではないんじゃないの? というのが大半の日本人の発想だ。
  これってやはり日本が自動車とバイクの生産大国であっても、自動車やバイクをめぐっての文化が、ほとんど根付いていないということなのだ。
  象徴的なのが、科学博物館だ。ヨーロッパ、たとえば第1次世界大戦まで欧州の中心地だったウイーンの科学博物館には、自動車の初期のころの電気装置が展示していたり、若き日のフェルディナンド・ポルシェがつくったホイールインモーターのEV(写真)が展示されている。加えて20世紀初めのころの自動車レースの膨大な動画が保存され、だれでも見ることができる。敗戦後、経済を立て直した自動車そのものの展示は、日本の科学博物館にはほとんどない。
  自動車の扱い方についても、ほとんど議論されないことも、日本に自動車文化が根付いていない証拠だといえる。たとえば、高齢者ドライバーがブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違える事故が最近話題になっている。これなど「左足ブレーキ」を身につければ、まず、暴走事故は激減するはず。ところが、日本の自動車学校でも、「左足ブレーキはむしろ危ない」として、議論しようとしない。著名な自動車ジャーナリストであるポール・フレール(1917~2008年)も「左足ブレーキ」を推奨しているのである。
  じつは、トヨタも1970年代のオイルショック以後、モータースポーツをほぼ封印していた時期が長くあった。当時のトヨタマンの口から、「レースはいわゆる金食い虫」というフレーズを聞いた。レースに足を染めている豊田章男氏の代は大丈夫だが、次の代でもし不景気にでもなれば、企業は態度を180度転換するものだ。
  自動車文化の創造は長いスパンで考えるべきだ。そこで章男氏に提案したいのは、次世代を担う子供たちが楽しめるモビリティのワンダーランドの創設だ。「こども庁」の発想もあることだし、ここは、鈴鹿サーキットやもてぎをさらに進化させた子供ファーストのモータースポーツランドを国内に5,6個といわず10個ほど作ってみてはどうか。

2021年9 月15日 (水曜日)

全固体電池を使ったトヨタのEV戦略が見えてきた?!

トヨタLQ

  前回取り上げた水素エンジンを搭載したカーボンニュートラルなレーシングカーへの挑戦など、このところトヨタのニュースが多い。今回のホットニュースもトヨタがテーマだ。
  夢の近未来バッテリーといわれる全固体電池を搭載した電動自動車(ハイブリッドもしくはEV)が、来年には登場するというのだ。そういえば、賛否が分かれた東京オリンピックのマラソンなどの競技に登場したトヨタ車がTV画像に登場していたのを記憶しているだろうか? それこそ次世代をホーフツとさせる斬新なかたちをした「LQ」という名のEVだったのだ(写真)。じつは、このクルマ、昨年2020年8月にナンバーを取得し試験走行していたのだという。オリ・パラ用の試作車とはいえ500台も作ったという。
  このLQに載っているのが話題の全個体電池である。全固体電池は、高出力、長い航続距離、それに充電時間の短縮といいことづくめのバッテリーだが、“負極にできがちなサルフェーション(劣化物)により接触面積が減り、寿命が短め”などの課題があるといわれる。この課題もほぼ解決するめどが立ったようで、来年中頃までに発売予定のEVのSUV「Bz4X」に搭載するという。
  電池のコスト比重が3割を占めるEV。その電池製造コストを2030年までに半分にするという。
  それとトヨタが懸念しているのは、日産のリーフのようにリセールバリューがガクンと落ちて、中古車市場を形成できないことだ。具体的に言うと、日産リーフは、走行4万キロあたりで10年落ちだと、40万円を切るプライスタグしか中古車市場で付けられないという。高価な電池が早期寿命となっているので、中古車としての魅力が損なわれているというわけだ。
  Bz4Xは、10年後でも90%の電池寿命量をキープでき、中古車としてのリセールバリューを確保できるという。このあたりの視座はさすがトヨタというべきか? 三河商法の真骨頂というべきか? 余談だが、かつてのマツダのクルマが中古車価格がガタ落ちで、せっかくのユーザーを取り逃がし続けた苦い歴史を思い出す。
  なお、トヨタの試算だと、HV3台分で、EV1台分のCO2を削減する計算だという。これまで累計1810万台のHVを世に送り出してきたので、これはEV600万台に相当する計算だ。「だからHVもCO2削減に有効なのだ!」と言いたいらしい。理屈としてはそうかもしれないが…。
  とにかくトヨタは、9年後の2030年には、全固体電池などを採用したEVを約200万台、同じく全固体電池などを使ったハイブリッド車を約600万台。合わせて電動車800万台を販売するという。そのために、約1兆5000億円をかけ、電池の製造ラインを70ラインも作り上げるという。クルマの世界はどんどん変わりつつある!

2021年9 月 1日 (水曜日)

トヨタの水素エンジン自動車はもう一つの選択肢になる?!

水素カー1

水素カー2

  このチャレンジングな企画は、社長であるモリゾーさん(豊田章男)の“道楽”のような感じではじまった。「ルーキーレーシング」(ルーキーは英語のROOKYで「新人」の意味)という名称の章男氏個人のレーシングチームからの出場が、そのことを物語っている。
  「水素を燃料にしてクルマを走らせる。それも24時間耐久レースで鍛え上げる」という究極のエコカーの挑戦である。
  コンパクトカーGRヤリスの3気筒直噴1.6リッターターボエンジンを水素エンジン仕様に改造。このエンジンをエンジンルームに余裕があるカローラの車体に搭載し、レーシングカーに仕立て上げ、5月21日富士スピードウエイでおこなわれたスーパーテック24時間レースに出場したのである。
  水素を燃料にしたエンジン車といえば、テールパイプからは水蒸気しか出さない、まさに環境負荷ゼロのエコカー。EVの場合、ともすればエネルギーの電気自体を化石燃料で作り出すことがあるため、“Well to Wheel(油田からホイールを駆動するまで)”を考えるとカーボンニュートラルとは言えなくなり、“なんちゃってエコカー”のそしりを免れない。この点、化石燃料のエタノールや液化天然ガス(LNG)からのではなく、地熱や太陽光から水素を作り、これを燃料にした水素エンジン車は、正真正銘のパーフェクトエコカーだ。
  水素エンジン車といえば、1990年代のBMWハイドロジェン、2009年ごろのマツダのRX-8やプレマシーを思い浮かべるが、いずれも市販車までには届かず中折れした前歴がある。それだけにトヨタとはいえ、ついつい眉に唾を付けがち。
  今回のトヨタの水素エンジン車のレース結果そのものはともかく、“時速200キロを超える世界で24時間無事に走れ、24時間という長きにわたり走ることで次につながるデータをとること”が主目的だったという。
  注目したいのは、「インジェクターをふくむ燃料系、それにスパークプラグなどを変更するだけでエンジンの骨格であるピストンやコンロッドなどは、ガソリンエンジンを流用している」という点だ。従来のガソリンエンジン車のコストと差がない!? 水素タンクのコストがプラスされる感じ? 電子制御の燃料技術が相当に貢献しているようだ。
  ところが究極のエコカーの道筋はなめらかではないようだ。
  水素がガソリンに比べエネルギー密度が半分近いので、過給することでガソリンエンジン並みに出力とトルクを高めている。でも‥‥「水素エンジンを成立させる一番の苦労は、燃焼速度が6~7倍速いので、プレイグニッション(早期着火)を起こし異常燃焼を起こしやすい点」(開発者)という。まるでディーゼルエンジンのような圧縮着火状態に近いという。これをいかに制御するかである。
  リアシートの空間には、市販の燃料電池車「MIRAI」の水素タンクを4本(水素約7.6㎏)載せてはいるが、1周4.4㎞ほどのコ-スを12~13周すると、燃料補給のためにピットに入る。だから24時間のあいだに、なんと50回以上もピットインしたという。しかも充填時間も6分半。レーシングカーのクイックチャージなら10数秒なので、とんでもなく時間がかかる。これでは、先頭を走るのは夢のまた夢。
  それでも、レーシングスーツのモリゾーこと章男社長は「カーボンニュートラルの選択肢を増やす手段となる可能性がある。EVが主導権を握るクルマ社会になるとエンジンをめぐる職業がなくなり、約100万人の雇用が失われる。このためにも、水素エンジン車の開発は、これからも期待してもらいたい」。自動車企業の経営者の顔をのぞかせながらも、満足げだ。
  水素エンジン車が、量産車に加わるにはまだまだ多くの課題を克服する必要がある。より高圧の水素タンクを開発し車室空間の確保、水素をめぐる安全性の確保、車両のコスト低減、それに何より現在110カ所ほどしかない水素ステーションの拡充である。章男氏も認めるように、国を挙げての“水素エンジン車大応援プラン”が必須だという。

2021年8 月15日 (日曜日)

無残な姿で発見されたトヨダAA型! どう展示?

トヨダAA1

トヨダAA2

  売上高約30兆円、営業利益約2兆5千万円の従業員数(連結)約37万人のトヨタ自動車にも、前途に多難が横たわる創業時代があった。
  最初に作り上げたクルマは、「トヨタ」ではなく「トヨダ」と濁った。観音開きの「トヨダAA型」である。
  トヨタ博物館に足を運んだ人はよく覚えていると思う。一階がエントランスホールになっていて、奥にあるエスカレーターを利用して2階、さらに3階の世界のクルマと対面できる。エスカレーターに足をかける瞬間が、ワクワクする瞬間でもある。
  そのトバ口に黒光りした楚々とした古めかしいクルマが1台置いてある。しかもクルマの横には、微笑みをたたえた美形の女性が立っている‥‥。クルマにはそそられなくても、つい女性に声をかけたくなるものだ。でも、話題はそのクルマ。
  そのクルマこそ、トヨタのアイデンティティである「トヨダAA型」なのである。エンジンはキャデラックの直6を参考にし、ボディはクライスラーのエアフロー(流線形)。
  博物館設立を機に2台、設計図からゼロから造り上げた復元車の一台なのである。奇しくも日本が戦争の時代に大きく足を踏み入れた二二六事件のあった1936年(昭和11年)に完成し、わずか1404台が生産され、歴史の闇に消えたクルマである。
  長いあいだ、“トヨダAA型の現車は世の中には存在しない”とされてきた。
  ところが、事実は小説よりも奇なり! 数年前、ロシアのウラジオストックで現車が見つかったのだ。はじめトヨダAAとは分からなかったという。車体も室内もボロボロで、あちこち改造してあったからだ。ハンドルは右から左に変えられ、ドアは凹み、ガラスは割れ。エンジンももとはOHVなのだが、同じ6気筒のロシア製サイドバルブ(SV)エンジンに換装されていた。
  意外と知られていないが、実は戦前の日本は朝鮮半島や樺太の一部も領土だった。営業の神様・神谷正太郎(1898~1980年)は、「釜山トヨタ」ばかりか「樺太トヨタ」を設立、朝鮮半島や樺太にも販売網を作り上げていたのだ。だから、日本海を渡り、あるいは陸から、ウラジオストックにトヨダAAが活躍の場を広げたのは、さほど想像に難くない。
  1989年11月ベルリンの壁が破れたとき、東ドイツのクルマ(2ストローク2気筒エンジンのトラビなど)のお粗末さに東ドイツのモノ不足、部品不足にたまげたものだ。これと同じ状況が、ロシアでも展開されていた。クルマ自体が超貴重品で、クルマのユーザーは、ありとあらゆる延命策を駆使して、あり合わせの部品などに換装しながら、だましだまし使い続けられた。だから、トヨダAAが、生き残った、と言える。これが経済的に豊かな西側諸国なら、あっという間に廃車となり跡形もなく消滅していた。つまり貧乏が幸いしたのだ。
  現在、このクルマは、オランダのハーグにあるトヨタ系ディーラーが営む「ローマンミュージアム」という博物館に現車のまま、つまりボロボロ状態で展示しているという。
  豊田章男社長は、祖父喜一郎がつくった現車を見ようと、いち早くハーグを訪れ、対面している。
  たぶん、このときトヨタのアイデンティティというべき「トヨダAA」を日本に持ち帰り、展示する決意を固めたかもしれない。
  余計なお世話だが、どう展示するのかが、気になった。
  そこで、まわりにいる人に聞いてみた。もとトヨタでレーシング関係の開発をしていた昭和36年入社で、シニアとなったTさんは「そりゃ、フルリストアしてピカピカの状態で、展示するよ」。永年地元愛知県でエンジンのリストアをしているCさん(70歳代)もほぼ同じ意見。「トヨタともあろう企業が、ボロボロ状態で、展示するなどありえないよ。何億円かかろうが、フルリストアすね」。でもそれでは、時空を超えて、出現したトヨダAAの物語が見えなくなる、ドラマを伝える意味でも、たとえボロボロでも現車で見せるべきだと思うよ、そう食って掛かっても取り合わない。最後に、かつて私が所属していたクルマ雑誌の元編集長に聞いてみた。「復刻車の隣に、現車のトヨダAA型を展示するのがいいと思うよ。そこからいろいろ物語が伝えられるから…」。さすが元編集長、なるほど、並べてみせるのがとりあえずの正解かも知れない。
  おそらく、現在水面下で、トヨタ博物館側はあれこれ趣向を考慮中だと推測できる。どんな演出で、みせるのか? 表現することを生業とする私としては、とても気になるところだ。

2021年8 月 1日 (日曜日)

トヨタディーラーの不正車検があぶり出した日本の闇

不正車検(トヨタディーラー)  7月21日付の新聞で、「トヨタ販売店の不正車検」が再び大きく取り上げられた。
  今回は、スナップオン・ツールで精鋭の整備士がサービスをおこなうとされてきたレクサス店でも、「手抜き車検がまかり通っていた」というのだ。渦中の「レクサス高輪店」では、車検時間を2時間と設定し、その時間内に点検と整備をおこなうことが売りになっていた。同じトヨタでも、愛知のトヨタ系ディーラーでは、「45分車検」をセールスポイントに掲げて、なんと45分でのスピード車検を展開していた。
  いずれも、時間に追われ、やるべき点検事項をやったことにしていたというのだ。新聞記事によると「時間が目的化し、トヨタ生産方式の高いコンセプトが蔑ろにされた、結果だ」という読み解きである。
  表面的にはその通りなのだが、真相は実は日本の車検システムに潜む(あえていえば)“病魔”である。
  いうまでもなく、日本の車検は大きく2つある。ひとつは持ち込み車検といわれる国(国交省)が直営する全国に120近くある車検場での車検。ユーザー車検や認証工場(全国で約9万軒)のスタッフが“クルマを持ち込んで”車検を受ける。もう一つは、ディーラーや、コバックなどの民間の車検場(認証工場に対して正式には指定整備工場という)である。現在指定工場は約3万軒あるという。
  そもそも、指定工場が誕生したのは、昭和37年(1962年)で、クルマ自体が増加し、従来の国の検査場では検査がまかなえなくなったからだ。
  でも民間車検場である指定工場になるには、認証工場にくらべ設備や人員の数など高いハードルがあるし、検査員(整備士でもある)が1人か2人常駐する。つまり、ほんらい国がおこなうべき検査を代行して仕事としている検査員が、民間車検場にいるということだ。分かりやすく言えば、これって同じ屋根の下に警察官と泥棒がいるようなものだ。検査員が整備士と同じ釜の飯を食っている。このいわば性善説システムを成り立たせるには、しっかりとした両者の間での緊張感が必要だ。
  一方、昭和30年代40年代にくらべ、道路はよくなり、クルマ自体も信頼耐久性が格段に良くなった。
  知恵袋である1級整備士がこんなことをいう。「手抜き整備、手抜き点検は、ありがちですよ。ユーザー車検の愛好家の広田さんもそうでしょう。走行キロ5千とか1万kmといったクルマの場合、1回目の車検で、とくに見るところがないわけじゃないですか?! 整備士ならそんなこと常識で承知していますよ」つまり、無駄と分かっていることをしたくないし、する意味がないということのようだ。「この事件は、内部告発によるものだと思います」というのだ。
  今回の事件は、日本の車検制度自体が、時代にそぐわない仕組みだということを露呈したのだ。
  そもそも、モータリゼーション先進地域カルフォルニアでは、排ガス試験しか義務化されていない。日本のような、スピードメーターの検査も、ヘッドライトの照射試験もない。フロントガラスが割れている、あるいはウインカーの点灯しないクルマが平気でフリーウエイを走っている。使用者責任スピリッツが見事に実践されている世界。それでも、とくに事故が多いとは聞かない。グローバル化していない日本の車検制度、ということに気付くべきだ。新聞記者も、取材対象者にヒアリングして机の上で考えるだけでなく、自分のクルマを一度ユーザー車検を体験すれば、この辺の事情が分かるハズ。
  それでも、車検制度で飯を食っている人は、世界に厳しい車検で高い交通安全レベルが保たれているという。でも、その車検整備の大半は世界から見ると幻想というか壮大な無駄ということ。げんに日本でも、排気量250㏄未満のバイクは、車検はないが、とくに頻繁に事故が起きているわけではない。このことから、日本人には使用者責任の精神が欠落していると考えるのは間違いだ。全貌を知れば、良識ある日本人の大半は、車検制度の抜本的見直しを迫るはずだ。

2021年7 月15日 (木曜日)

突然! 船舶のエンジンが気になる!

船舶エンジンのピストン抜き作業  陸海空での移動手段の主役だったエンジンがいま、悪者扱いされつつある!?
  蒸気エンジンからガソリンエンジン、ディーゼルエンジンへと進化した20世紀のパワーユニットは、21世紀の中頃で消えゆく運命にあるのか? すべて電動化されるのか? 水素エンジンなど環境負荷の小さなエンジンだけが細々残るのか? そんな疑問が頭のなかをぐるぐる回っている。
  そんな時、横浜でエンジンにまつわる展示会が開かれた。ただし、船舶のエンジンである。
  会場は、地下鉄馬車道駅から徒歩2分の「日本郵船歴史博物館」(横浜市中区海岸通3-9)。近くに赤レンガ倉庫などみなとみらい地区が広がる。どこか潮風を感じるロケーションだ。ここを延べ2日にわたり取材した。1日目は船舶の歴史、2日目は船舶のエンジンついて。
  タンカーや自動車専用船などの貨物船、それにかつて活躍した貨客船の動力は、みな2サイクルのディーゼルエンジン(DE)なのである。と聞いて、「てことは、UDトラックスの前身・日産ディーゼル(ニチデ)のユニフローエンジン?」と連想できた読者はすごい。かつてトラックの本を書いたとき、ニチデのえらい技術者から直々に教わったはずなのに。DEは4サイクル、と頑迷に頭にこびりついていたため、元機関長の明野進(あけの・すすむ)さんにインタビューしたときとっさに気付かなかった。
  たしかにニチデのユニフローとほぼほぼ同じだが、トラック用と数万トンの巨大な船舶のエンジンとは、まるで様子が違う。5階建てのビルのようなデカい8気筒や10気筒の鉄の塊が船舶用のエンジンなのだ。例えば三菱重工の流れをくむ8気筒エンジンでいうと、ボアが600㎜、ストロークが4倍の2400㎜というロングストロークタイプ。1分間に150回転という低速型エンジンなのである。乗用車のエンジンのアイドリングが650rpmぐらいだから、その25%にも満たないごくごくゆっくりゆっくりだ。でも、排気量は、2万リッターで、出力5万馬力とか9万馬力とか・・・・すさまじい。
  気になったのは、保守点検(メンテナンス)だ。
  海上で、ときにはピストン抜き作業をおこなうことがあると、洩れ聞いたからだ。「私は長い航海の間、幸運にもそこまでのヘビーなトラブルはなかったですが、航行中ピストンを交換するということはままあるんです」えっ、やはり!「機関が2機以上なら、片方のエンジンを駆動させているので、揺れは少ないんですが、エンジン1基の場合は、(まるで木の葉のように?)船が左右に揺れますから、作業は困難を極めます」。ピストン抜き作業は、機関士全員5人以上で、約10時間かかっての作業だという(写真)。
  明野さんは、当方が他人のトラブルを聞くのが大好き人間だと読んだらしく、次のような話をしてくれた。
  「進水式したばかりの船で航海するのは、大変なんですよ。実は、船舶はクルマなどにくらべ販売数が少ないので、数百時間ほどの試験しか行っていないんです。だから、そのことを覚悟して乗船するのですが……」だから、トラブルは面白いように襲いかかってくるという。クルマの場合、販売する前にありとあらゆる路面、世界中の道を走る勢いでテストしてから販売する。それでも時々不具合が起きる。大型船舶は、テストに時間もコストもかけられないので、販売してから市場で、手直しする考えらしい。意地悪な言い方をすれば、新船で処女航海する場合、船会社は実験台なのである。
  「中速用の船舶(エンジン回転が300~500rpm)に乗船していた時ですが、ロッカーアームが突然折れたという。このときは幸運にもエンジン2基の船なので、1基の動力で港に着岸し、あらかじめ注文したパーツを組み込み、航海を続けたという。「このエンジンのロッカーアームはその後次々に不具合を起こしました。完全に設計ミスだったんです。えっ! 何処のメーカーですって? メーカーは言えませんよ」
  といっても、プレジャーボートや漁船などの高速船をのぞく、低速~中速のでかい船舶機関を手掛けるメーカーは、3社だ。デンマークのB&W社を買収したドイツのマン(MAN)社、スイスノズルシャー社を買収したフィンランドのバルチラ社、それに日本の三菱重工を引き継いだジャパンエンジンコーポレーション(J-ENG)の3社しかない。
  最後に明野さんに、船の機関士をやっていて誇るべきことは何ですか? と尋ねたところいい答えが返ってきた。「自己完結型の仕事であることです。1970年代に入社したころは、ほかとのやり取りは電話とテレックスしかなかったので、洋上で難題が持ち上がると、とにかく自力で解決するしかなかった。だから、日ごろから、勉強しました」なるほど、一言でいうとサバイバル能力。いまなら、画像や動画で、エンジンメーカーとコミュニケ―ションができ、そうした自力解決能力をかなり緩和されたということらしい。

2021年7 月 1日 (木曜日)

2040年までにガソリン車をなくすホンダ! 大丈夫か?

ホンダのロゴ  今年4月に発表したホンダの発表は衝撃だった。
  なにしろ『2020年以降、ホンダで販売する新車をすべてEVもしくはFCV(燃料電池車)に置き換え、ガソリン付きクルマ、HVもすべてやめる!』そのFCVも舌の根も乾かぬうちに今年8月で生産中止と、最近明らかになった、というのだから!
  ホンダの歴代の社長の9割はみな、俗にいうエンジン屋さんだ。8代目の八郷さんだけが車体設計だったかと思うが、他は深浅はあれど、エンジンの専門家だ。3代目久米さんはCVCCエンジンだし、4代目川本さんはたしかF1エンジンの開発者だ。
  とにかく、ホンダ車は、エンジンが自慢。高回転高出力型エンジンの急先鋒だった。
  そのホンダが、エンジン付きのクルマから手を引き、電気自動車、つまり電気モーターでクルマを走らせる。
  まさに、これこそ180度の宗旨替えである。「ホンダからエンジンを抜き取ったら、何が残るの?」というのは言い過ぎだが。
  そこで、ホンダに何が起きているのか? 調べると、ここ10年のあいだに、2輪車事業部は営業利益率10%台で、儲かってはいる。だが、4輪車事業は、利益率わずか1%前後の超低空飛行。6年前社長になった八郷さんは、大胆な構造改革をやりまくり、いつのまにか「リストラ社長」の異名をいただいた。
  まず軽トラック市場からの撤退があった。ミニバンのオデッセイや高級セダンのレジェントを年内でやめるに伴い、1964年から稼働をしていた埼玉の狭山工場を閉鎖。英国とトルコの工場も今年中に閉鎖、R&Dの研究所も、解体し、本社に組み込むなど不採算部門と見られた部門をどんどん切り捨てていく。デジャブ的感覚に襲われる。少し前の日産の光景を見るようだ。
  第3者だから言えるのだが、ホンダはここ10年15年、戦線を広げすぎたようだ。その代表例は、ハイテク技術を先取りとされた2足歩行ロボットのアシモではなかったか? フィットがトヨタのヤリスに敗北したことからわかる通り、ホンダのクルマづくりが、ユーザーマインドからかなりかけ離れた存在になっていたのではないか? 足元がおろそかになってはいなかったか? 魅力のあるクルマづくりの原点に立ち戻るべきではないか? 
  余計なお世話に聞こえるかもしれない。シビック、クイント、軽トラック・アクティ、CB500,TL125イーハトーブ、モンキー、TM200など数多くのホンダ車を愛用してきた、ひとりのユーザーとして、今後のホンダの行く末が気にかかるところ。

2021年6 月15日 (火曜日)

えっ!? SONYが自動車メーカーを目指していた!

SONNY VISION-S  憶えているだろうか? 昨年1月にラスベガスで行われたCES2020での大注目はSONYのVISION-Sという名の近未来コンセプトカー。アメリカの家電のイベントにもともと家電メーカーのSONYが自動車を展示した事件。
  たしかに事件と表現するほどの衝撃だった。まさかSONY自体が本気で自動車メーカーの一角に食い込もうとは思っていなかったからだ。「戯れに自動車近未来の新技術を発表して、願わくば部品のサプライヤーとして新分野を築き大儲けしたい」そんな思惑だと思っていたら、とんでもない。
  本気も本気、心底はSONYはSONYブランドのクルマづくりに勝負をかけていることが、今年のリモートでおこなわれたCES2021でわかったのだ。大きなココロザシを掲げていたのだ。
  クルマづくりは部品点数3万といわれるだけに、広い裾野産業をある程度支配下に置く必要があった。ところが、EVになると、エンジンがなくなり(エンジンだけで約1万点)、トランスミッションも不要となるので、ざっくり言えば部品点数3割減で、シャシーとボディメーカーと組めばできる感じとなった。テスラモーターの短期間での成功を見れば、それが納得できる。
  SONYは、レベル4の自立走行EV「VISION-S」をペットロボット・アイボとエアスピークと呼ばれるドローン、この3つを“インテリジェント・エッジ・コンピューティング商品”ととらえている。3つとも自律的に動く電脳制御商品だ。
  コンセプトカーVISION-Sは、安全、エンタメ、それにアダプタビリティ(コネクティド、クラウドをふくむ概念だそうだ)。この3つを柱として、2018年春に欧州のシャシーメーカーにシャシーを作ってもらい、ボッシュ、コンチネンタル、ZF,バレオ、ボ―ダフォン、レカロなどの欧州系部品メーカーと組んで造り上げたという。昨年末には複数台試作車を製作し、欧州だけでなく、日本でも公道試験を展開しつつあるという。そして日本の部品サプライヤーとのビジネスを広げるという。
  自動運転レベル4を担保するのは、18カ所に取り付けられたレーダーやカメラだという。そのなかで、ご自慢のソニー製「CMOSイメージセンサー」は、従来のサプライヤーが不得意とされてきた暗所での認識能力、トンネルの出入り口での障害物の明確な認識能力を持ち、安全性ではおおいに自信を抱いている感じ。それにSONY大得意なエンタメを車内に持ち込むことで、クルマ自体を「走るエンタメ・モビリティ」という新機軸でクルマの歴史を大きく変革させようとしている。リモートでの取材ではあったが、そんな意気込みがビシビシ伝わってきた。

2021年6 月 1日 (火曜日)

クルマのデザインと美学の関係は?!

ふそうデザイン1

ふそうデザイン2

  4月に取材した三菱ふそうのイベント「デザイン・エッセンシャルズ」は、苦手にしてきたクルマのデザインに対する感触をいくらかソフトなものにしてくれた。
  そもそも、トラックのデザインは乗用車にくらべ、特段デザイン力がなくても大丈夫というか、販売にさほど左右されないのでは? そんな思いが捨てきれずに長年の間、頭の隅に巣くっていた。ところが、「それって逆じゃない? 働くクルマのトラックだからこそ、より優れたデザインに仕上げる必要がある! 乗用車にくらべ、確実に永年使われるんだし」ということに気付いたのだ。
  そこで、三菱ふそうのデザイン担当者は何を原則にしているかを尋ねると、フィジカルデザイン、プロダクションデザイン、それにアドバンスデザイン、この3つだという。
  なにやらカタカナ文字で、ストレートに理解できないのがつらい。
  じつは、アドバンスデザインはすでに前々回取り上げた近未来をリサーチする先進的世界のデザイン世界だ。
  では、はじめのフィジカルデザインとは何か? 写真にあるようにクレイモデルで造形していく。川崎デザインセンターには30年ものキャリアを持つ職人がいるという。彼らのいわば神の手で、立体的なフロント回りの造形を作り上げていく。最初は、1/4クレイモデルから始まり、1/1の原寸大クレイモデル(写真)。その途中に職人の手作業プラス最新データモデリング技術による3Dプリントや数値制御データ切削が融合しているのだという。昔ながらの感性の職人技に、数値データを組み合わせているというのだ。こうした融合で、より緻密な造形に仕上げていくのだという。その間には、口角泡を飛ばす議論が長く続くのかもしれない!?
  2つ目のプロダクションデザインとは何か?
  機能的なデザインと見た目の美しさ、同時に快適な乗り心地、安全性、効率性、経済性、メンテのしやすさなど、ときには相反する要件を高度なレベルでつくり上げていくこと。それがプロダクションデザイン力だという。具体的には…‥新型キャンターに採用された「ブラックベルト」のデザインコンセプト(写真)。横長の力強い黒いラインだ。これは外観だけにとどまらず、車両組み立ての優位性にも貢献しているという。色や形状変更がともなう場合にフレキシブルに対応できるからだという。このデザインを大型観光バスの「エアロエース」「エアロクイーン」にも採用することで、ヘッドライトの共通化が実現し、開発コストと生産コストの低減にプラスできたという。
  こうして、たかがトラックのデザインを取材していくと、どうも“美学”という、より不案内な世界に迷い込む気分になる。美の本質、原理などを研究する学問が美学だという。“感性の学問”だ。感性に特段自信があるわけじゃないし、感性を磨いたという覚えもない‥‥。そもそも感性とは何だろうか? 気付きの先にあるものなんか? いい悪いの単純な2元的な価値ではないようだし。“非言語の世界”で、言葉で説明されると煙に巻かれたような気分になり、溺れてしまいそうになる!?

2021年5 月15日 (土曜日)

イーロン・マスクの野心は中国で実を結ぶか?!

テスラと中国  アメリカには、織田信長のような野心家が、綺羅星のごとく現れる。
 イーロン・マスクもその一人だといっていい。アメリカ人の技術者の父親とカナダ生まれ南アフリカ育ちのモデルの母親との間に、生まれたイーロンは、南アで育ち、アメリカのシリコンバレーで成功した青年実業家(49歳だけど)である。宇宙開発事業のスペースXの創設者であり、電気自動車メーカーのテスラ・モーターズのCEOである。
  テスラ・モーターズが、企業価値で昨年トヨタを抜き去ったと聞いて驚いたが、あれよあれよという間に日本の自動車メーカー9社の時価総額をもすでに軽く抜き去っていたのだ! 
  そのテスラ・モーターズが、先月中国で開催された上海モーターショーで、ハプニング的な事件が勃発した。
  モーターショーのブースで、ひとりの中国女性が、いきなり展示してあるテスラのニューモデルの屋根に登り、大声で抗議したという。彼女が着るTシャツには「ブレーキがきかない!」と中国語で大書。すぐ警備員に取り押さえられたが、不具合での対処に問題があったようだ。ひとりのユーザーがこれほど怒りを爆発させたのは、よほどひどい仕打ちを受けたのか?
  電気自動車で先行している中国では、世界に先駆けEVの比率を増やす政策が進行中だ。新エネルギー車と呼ばれるEV,PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)以外を締め出す策である。トヨタが得意のHV車(ハイブリッド)が入らない。
  こうした情勢でイーロン・マスクのテスラは、一昨年に上海にEV生産工場を作り、中国市場にガンガンご自慢のEVテスラを販売している最中なのだ。昨年の中国での販売台数は約14万台で、今年はその2~3倍になる見込みだ。
  14億人が住む中国市場を席捲すれば世界の自動車市場の3割は支配できる! そんな雰囲気だ。
  ところが、テスラ・モーターズの前に、いろいろな課題が襲い掛かっている。
  さきのモーターショーでの女性ユーザーの抗議もそれだ。不具合をめぐる対応は、経験とノウハウが必要とされる。経験知の浅い自動車をはじめモノづくりメーカーにとっては死角なのだ。
  もう一つ危惧されているのは、最近中国政府や人民解放軍のあいだでテスラのクルマに乗ってはいけない、という指示が出されたという。自動運転を支えるカメラやセンサーが搭載されているテスラ車に乗ることで、中国要人の機密が外国に漏れる恐れがあるというのがその理由。ビッグデータの海外持ち出しについても懸念しているのである。
  イーロン・マスクは中国側に丁寧な説明して火消しをおこなっているようだが、バイデンの対中国政策を見ると、今後の見通しにややもやがかかった。「テスラは対中国対策の人質になる」そんな見方をする向きもあるようだ。習近平、バイデンそしてイーロン・マスク、この3人の三国志物語!?

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