ときどき取材にうかがった先で、驚くべき個人的な発見をさせてもらい、心が開かれることがある。ながねん「含浸技術」に取り組んできた東京青梅市にある「㈱プラセラム」(プラスチックとセラミックの合成語だという)という30名たらずの企業を取材したときもそうだ。
含浸という技術は、細かい隙間のあるものに液体を内部まで染み込ませ、より性能の高い製品に作り変える技術として、古くからある。でも、意外にも自動車のエンジン部品、それもシリンダーヘッドとかシリンダーブロックの主要構成部品に施されていることは、気づきもしなかった。
「昭和30年代中ごろまでの日本のエンジンは、不良品が多く出たものなんです。それが含浸技術の導入で、瞬く間にオシャカ(不良品)の数が減り、それがより効率的なモノづくりにつながり、コストダウンに大きく貢献したのです」ということは日本の高度成長経済は含浸技術があったからこそ!?プラセラムの桑宗彦社長(78歳)は、そこまで断言しなかったが、聞いているほうは含浸技術の想像以上の偉大さに驚かされたのである。
そもそも、シリンダーヘッドやシリンダーブロックなどの鋳造品は、鍛造品と異なり、目では確認できないが、顕微鏡で観察すると、数ミクロンの巣が無数に生じている。桑さんによると、鋳物という漢字は、金偏に巣を当てた文字もあるという。
施工プロセスは意外と単純だ。直径1メートル、深さ2メートルの圧力容器に、たとえばシリンダーブロックなら10個近く入れ、内部をまず真空状態にし、そこにアクリル系の溶剤を入れ、0.5MPaほどの加圧で、隙間に染み込ませる。あとは円錐分離機で表面に付着した液を弾き飛ばし、次にお湯のなかで内部に染み込んだ液を硬化させる。対象物にもよるが10~60分ほどで完了。実は含浸技術は、なにも自動車だけでなく新幹線のモーターのベアリングに施すことで、100万キロ以上の耐久性を得ているともいう。恐るべし、含浸である。http://www.placeram.com