ジャーナリスト稼業の面白いところは、自分のことは差し置いて、「読者の代表として」という美名のもとに、エライ(とされている)ひとに不躾とも思える、質問を浴びせられることである。
公平明大な質問は、ほかの記者にまかせておいて、こちらはもっぱら自分の尺度で、そのひとのカーガイ度を測定する。筆者流のCAR―GUYというのは、「どれほどクルマが好きで、クルマの仕事を楽しんでいるか?」である。不思議なことに、これまでいろいろなひとをインタビューしてきたが、“これぞカーガイ!”と自信を持って推薦する人はほとんどいない。とくに、CEOと呼ばれる経営陣のなかでホンマもんのカーガイを探すとなると、稀有に近いのかもしれない。
ところが、稀有な存在のひとりと思しき人物に出会った。サービスコンテストに現れたボルボカー・ジャパンの木村隆之社長(51歳)だ。通常トップのCEOは、経営理論や経済学の世界の人が多いため、なんとなく油が付着するような整備士のコンテストは面白くないようだ。「サービスこそカービジネスの要(かなめ)」とスピーチしてみても、数時間で会場をあとにすることからそれは推し量れる!?
ところが,木村さんは,2日間,のべ10時間以上、びっしり選手たちの“一挙手一投足”を観察していた。ちなみにボルボカー・ジャパンの日本人社長は、この木村さんが初。スエーデンのボルボ本社も、この人事には特別な思いがあるようだ。社長就任後1年半、CS(顧客満足度)ナンバー1を目指す木村さんは、競技の中身でたいていの選手ができなかったXC90の説明に苦言を呈するなど、鋭い指摘を与える一方、このCS向上作戦が一段高いギアに入ったと自負。じつは、木村さん、ベルギー5年海外営業に従事したりレクサスの立ち上げに携わったりした元トヨタマン。その後、アメリカでMBA(経営学修士)を取得し、ユニクロで営業副社長、日産ではインドネシア日産やタイ日産の社長を歴任した、いささか異色のキャリア。トヨタマンらしく現地現物主義を標榜する実務家の姿を見せていた。
面白いのは、愛車のボルボV40のほかに、ボルボの旧車P1800を所有し、現在リストア中だという。目を輝かせながら、旧車のリストア事業も立ち上げる予定だともらした。いい意味で、趣味と仕事がない交ぜになっているビジネスマンは、そうはいない。