ニンゲン、いつ何時トラウマが姿をあらわすかわからない。
先日、東京駅からバスを連ね、埼玉県の寄居にあるホンダの新しい車体工場に見学取材に出かけた。自動車雑誌や自動車ジャーナリスト向けの見学会である。大半は記事を書く任務を帯びていない(せいぜい編集後記で書くぐらい?)せいか、お気楽な表情で、真新しい工場に足を踏み入れていた。筆者は、専門誌に8ページほどの記事作成を予定しているので、逼迫の表情で、目を皿のようにして、耳をダンボのようにでかく肥大させて、見るもの聞くものをメモ。
溶接工程、組立工程・・・と進み高速プレスライン工程に足を運んだところで、ガーン! 半世紀ほど前の事件を思い出したのだ。学生時代、夏休み前の短期のアルバイト。仕事先は東京郊外にかつてあった日産の村山工場。
配属されたのはプレス工程だった。3~4人の作業員が見上げるほどのプレス機の隅に陣取り、リーダーが手で運び込んだ平板を下の金型に載せ、作業員が「よいしっ!」とばかり声を掛け合い、両隅にある押しボタンスイッチを押す(手を傷つけないため!)と、うえから金型が降りてきて、成型され、また作業員の手で次に送られ、そのつど金型を刷毛で掃除する・・・わずか50年ほどで、プレスマシンはこんなに分かりやすかった。
この時代に比べ、たぶん50倍ほど速く、より正確にプレス工程が展開されていた(写真)。まるでマジシャンがトランプカードを配るようにスイスイとプレス加工されていく。無人のでかい箱のなかで! しかも「多品種生産」なので、一日に何度も金型を変えているという。そのため、金型自体の交換時間もわずか75秒だ。ここは、西部劇に登場する“早撃ちガンマンみたい”だ。この工場では、一日600~700回この金型移動がおこなわれているという。
この工程をじっと見ていたら、50年前のことがにわかに脳裏にせまってきた。タイミングが合わず、途中で上の金型が途中で急停止するなど何度もリーダーに迷惑をかけたこと。両手で同時にスイッチを押すことが意外と難しいのである。そんなこんなで、遅刻を2回続けてしまい、5日を待たず、あえなく首になったのである。