スバル360の正式発表は昭和33年(1958年)3月3日で、発売は2ヵ月後の5月ときまった。
その前に運輸省(現国土交通省)による新車認定試験をパスしなければいけない。当時の認定試験は通称・村山試験場と呼ばれた工業技術院機械試験場での基本的な試験(最高速100km/hほどしか出せなかった!)。それと箱根と西湘バイパスでの運行試験の2本立て。江ノ島・小田原間での燃費テスト、箱根13キロの登坂テストなどである。もちろん定員の大人4人乗せてだ。
このときちょっとした事件がおきた。箱根湯本から宮ノ下まで直線距離で5キロほどテスト走行するのだが、運輸省の検査官が乗車すべきところ、「乗車拒否」にあった。「こんな小さなクルマに乗って、万が一谷底に落ちたらえらいことになる!」として乗車を拒んだのだ。いまなら職場放棄として責められるところだが、当時はお役人には逆らえなかったようだ。そのときテストドライバー役であった福島時雄は、腹をきめ、人間一人分の重りを載せ、所要時間30分以内とされていたコースを見事22分で走りきった。このとき福島は、少しでも軽くしようと、真冬にもかかわらず作業着の下には何も着ないで走行テストに臨んでいる。燃費は24.5km/l、乗り心地を示す指数も当時の国産車を凌駕したものだった。