実はあまり知られていないが、今年5月に「自動運転標準化研究所(NTSEL)」が、国土交通省のもとに設立されている。これは来るべき“全自動運転システム投入”を見越して、オールジャパンで対応するため、官民あげて取り組もうという体制固め。早い話、日本の自動運転技術を国際標準とするための、基準づくりや調整作業が狙い。もし日本の自動車メーカーが構想する技術が、世界標準と大きくかけ離れたり、イニシャティブを取れない事態となれば、国益が大きく損なわれるという危惧が、その背景にある。
ところで各国の「自動運転技術」の統合についてはどうか? 驚いたことに、言葉(用語)の統一がなされていない。それだけでなく、「自動運転技術」の評価について、ほとんどなにも決まっていないという。技術だけが先行している状態といえる。
「自動運転は、高度運転支援の先にある技術であるとは、ほぼ共通した認識ですが、たとえば日産の矢沢永吉を使ったTVCMでは“やっちゃえ、ニッサン!”で運転中手放しシーンをお茶の間の向こうにいるユーザーに見せ、自動運転技術をユーザーに示しています。一方トヨタは、馬車に乗った御者が“馬は道をはみ出さないが、御者は手綱を握っている”というTVCMを流していました(写真)。完全自動化の前の運転支援システムを訴えている。このように自動車メーカー自体も統一が取れていないので、ユーザーは混乱している」(NTSELの河合英直さん)
これを受けて、「実はアメリカでもほとんど同じです」というのはIIHSのエイドリアン・ランド氏。「世界を駆け巡った例のテスラモーターの自動運転車における死亡事故は、自動運転技術に冷水を浴びせた印象です。でも、一部にはオートパイロットという言葉でこのシステムを説明したメーカー側に非があるという意見もあります」自動運転に限らず、新しいメカニズムというものは、当初さまざまな説明不足や製品の完成度不足などで、初期トラブルが起きる。ABSなど、運転の上手なひとから“機械にまかせるより人の感性のほうが優れている”と強い拒否反応があったが、今では、ごく当たり前の装備となっている。いつの時代も新しい技術は、いくらかの誤解をともないながら浸透する!?