「工具評論家」という怪しい肩書を持っているせいか、ときどき不思議な方と遭遇する。
先日のこと。「ぜひ30分でもお話ししたいので・・」と熱い電話で、拙宅に押し掛けてきたのが、ねじ屋さん。東大阪で60年の歴史を刻む三喜製作所の三宅さんという58歳の2代目社長。
小型のNC(ニューメリカリー・コントロール:数値制御)旋盤数台を駆使して、つまり切削で(転造加工は外注だそうです)ボルトの頭の6画加工をおこなうプロ。ボルトの頭といっても大まかに外6角ボルトと内6角ボルト(ヘキサゴンボルトだ)があり、両方とも対象だという。
わざわざ思い立って500キロ離れたところまでクルマを飛ばしてくるぐらいの情熱家だから、「規格外のこと」をやりたがる人物にちがいない。
「ナットを落とさないドライバーを作ってます」という。「ねじ径がM2という指先に載る小さなボルトからM8というバイクやクルマによく使われる比較的小さなサイズのボルトを相手にしたドライバー」で、しかも相手をしっかり捕まえる!
小さいサイズなので、内部にボール(鋼球)を忍ばせるとか、外部リングでホールドするという既存の手法はとれない。ズバリ答えは“テーパー加工”である。旧くて新しい加工!? 相手の6角部をしっかりホールドするためにドライバーのキャッチ穴を斜め加工を施しているのである。言葉でいうのは簡単だが、相手のねじの寸法交差(バラツキ)もあるので、普通は無理だ。現実味がない。うまくいくボルトナットもあるがそうでないボルトナットもある・・・・。
「ですから、注文生産なんです。注文を受けると、ねじのサンプル3個をいただく。たいていはISO規格外の特殊ねじですから。それとお客様が使っている工具、電動ドライバーが多いのですが、その品番を教えて貰い手に入れます。それに合わせて作るのです。一日1万個のボルトを締める製造ラインの機械化できない枝葉ラインで活躍するいわばニッチライン向けなんです」とほほ笑んで説明。「30ミクロン、つまり3/100ミリずつ旋盤で削ります…」
なるほど、ねじで困っている組み立て現場では、こんな格闘が展開されているんだな。思わずディープな世界を垣間見た思いでした。
(写真は、三宅社長とボルトやナットを落とさないというご自慢の工具)