「ハイブリッドカーは、がんがんブレーキを踏んでも、ほとんどブレーキパッドの減りはないし、かえってバッテリーに電気を蓄えられるので燃費が良くなる理屈なんですよ」
と説明するのは、筆者の知恵袋であるトヨタのディーラー一級整備士のKさん。初代プリウスからトヨタのいろいろなハイブリッドカーの不具合を見てきたベテランだ。
そこで、筆者が怪訝そうな顔をすると…「HV車においてはブレーキペダルは、いわば単なる回生ブレーキ・スイッチなんです。ブレーキパッドがブレーキローターを挟み込み物理的に制動をえるのは、およそ時速15キロ以下。赤信号でクルマが止まるほんの手前でしかないんです。ただし、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)がはたらく状況だとこれは言えないですけどね」
ということは、ハイブリッドカーは押しなべて、ブレーキパッドの減りはごくごく少なくなるってこと?「実はそうなんです。だから、HV車は、整備士が稼げないクルマなんですよ」と苦笑いを見せる。
FFのハイブリッド車の場合は、従来ならフロントは走行4万キロも走れば交換時期を迎えたが、10~15万キロは長持ちするという。これが、FRのハイブリッド車の場合、リアでの回生なので、リアのブレーキパッドの減りこそ劇的に少ないが、フロントのブレーキパッドはFF車に比べ減りが早いというのがKさんの実感だ。
「でも、HV車の苦情の一つは、ブレーキパッドからの異音なんです」。休日しか乗らないユーザーなどとにかく走行キロ数の少ないクルマは、何しろブレーキかけてもパッドがローターに当たらないので、ローター(鋳鉄製!)が錆びやすい。なるほどね。「ですから、ブレーキ回りの異音の苦情を調べると、こうした走行キロ数の少ないユーザーさんなんですね」
ちなみに、長い坂道で回生がうんと働きバッテリーが電気を受け入れなくなると、エンジンが稼働し、あふれた電気を使うという。こうした状況はめったに起きないとのことだが、電気がもったいない? いずれにしろ、Kさんは、ユーザーにいかにわかりやすく説明するかが仕事。エコカーをサービスするメカニックの仕事も少しずつ変化しているということのようだ。