自動車補修部品が右から左に羽根が生えたように売れた時代。
「よし、じゃ、注文が多くて入手が困難な部品を、自分たちでつくって、売ろうではないか」
少しココロザシのある商売人(ビジネスマン)なら当然思い描く青写真である。上田さんの所属する大同自動車興業では、シボレーとフォードのキングピン・セットとリーフスプリングの取り付けをになう「シャックル」(写真)と呼ばれる小部品をつくることになった。荷重がかかり破損しがちな部品だった。新生製作所の竹内会長(取材当時80歳)も時を同じくして、ほぼ同じようなビジネスを展開している。
現代の乗用車のフロントは独立懸架式だが、昔のクルマはフロントが固定式の懸架装置(リジッドサスペンション)だったため、キングピンと呼ばれる部品が組み込まれていた。
現在のクルマにはサスペンションの動きを理解するためのバーチャルな“仮想キングピン角度”はあるが、昔のクルマのような部品をもたない。当時のフォード、シボレーは、悪路を走ることが多かったこともあるが、とにかくキングピンの摩耗が激しかった。摩耗が激しくなると、フロントホイールにガタが生じ、ハンドルの遊びが大きくなり操舵力が重くなって直進安定性が悪くなり、しかもゴトゴトという異音が発生する。インターネットで調べてみると、いまでもVWビートルのキングピン・セットが売買されていることからわかるように、1960年代中ごろの車両の大部分はこのキングピンが付いていたと言われる。