「リモノ(rimOnO)」という名前の不思議な乗り物が現れた。
名古屋で開かれた「人と車のテクノロジー展」でのこと。アルファベットの大文字と小文字の混合は、今流で誤植ではない。
布製のボディを身にまとった二人乗りの電気自動車である。骨格自体は鉄製らしいのだが、指で触るとなんだか人形に触れている感じ。力を加えるとボディがへこむのだ。これなら多少こすろうがヘイッチャラだ。感覚としてはキャンバス地風の自動車。手作り感120%、温もり感200%のクルマというより、幼児言葉の“BOOBOO”である。
数人の女性が、声を合わせて「かわいい!」と黄色い声を出していた。かわいいという言葉は、女性の大得意ボキャブラリーである。とくに自分を投影するペット、おなかを痛めて生んだ我が子に対して日に数百回この言葉を投げかける。…不思議にも、このクルマを眺めるうちにおじさんである筆者もココロのなかで、迂闊にも「かわいい…」とつぶやいた・・・ような気がする。
正気に戻ってリポートすると、このクルマは高齢化が進む社会の中で、何とかクルマと人間が共存できる一つのクルマを作り出せれば・・・という思いで、≪超小型でスピードが出ない乗り物≫というコンセプトで具現化したという。人間は世紀を超えて車にスピードを求めて汗を流し命を懸けてきた。それが「スピードが出ない車」とは、なんたる皮肉! なんたる反逆者! といっては元も子もない。乗り物という言葉の頭の“ノ”を取り去った「リモノ」の真髄は、ここにあるのかもしれない。
全長2.2メートル、全幅1.0メートル、全高1.3メートル、車両重量320㎏、最高速45㎞/hはだいたい現行の軽自動車の半分近い小ささと走行能力と思えばいい。ハンドルはバーハンドルだ。
目標価格は100万円。量産化を目指して、全国7店舗のパルコで巡回展示するなどでクラウドファンディングをおこなうも、目標額に届かずひとまず停滞しそうなこの企画。発信元は元経産官僚、トヨタの元デザイナーなどココロザシある若いプロジェクトチーム。より完成度を高めた第2弾、第3弾を期待したい。