ここから登場願うのは、いわば「起承転結」の≪承≫の時代を生々しく語ってくれた長安敏夫さん(取材当時70歳)である。オイルフィルター、エアクリーナ-のフィルター、それに最近ではエアコンのフィルター。クルマにはこの3つのフィルターという自動車部品が活躍しているのだが、この3つを一手に引き受けているパシフィック工業(ロゴはPMC)の会長である。
パシフィック工業は、長安さんの父親が昭和28年に始めた会社である。長安さんは学生だったので、先代が何をきっかけにフィルターにのめりこんだのかはいまとなっては明確ではないが、「おそらくは東京の芝にあった東洋エレメントの創業者木村社長などからの話からエレメントの将来性を見出したのでは・・・」と語る。
昭和30年代初め関西学院大学在学中は英語クラブであるESSの一員で、当時の大学生としては例外的に英語には自信があった。「ロード&トラック」や「カー&ドライバー」といったアメリカのクルマ雑誌、あるいは自動車部品の英文パンフレットを父親から渡され、翻訳した。父親の覚えをよくしておけば当時父親が所有していたオースチン・ケンブリッジA20のハンドルを握らしてくれるし、ときには小遣いもくれる。そんな下心があったからだ。
それになりより、当時憧れのアメリカの文化にじかに触れることができる喜びが何物にも替えがたかった。そうしたなかでフィルターの材料はどんなものであるのかを、ぼんやりとではあるが掴んだという。