「“日本の家族の幸せのために“をコンセプトにして、この軽自動車を開発しました。いい暮らしをつくりたいというのが、このクルマのコンセプトです!」
東京の南青山にあるホンダの本社。お披露目した軽自動車「N-BOX」の担当者の晴れやかな第1声だ。“家族の幸せのために”というフレーズは、昭和の時代に何度も聞かされたキャッチコピーである。この家族自体がかなり怪しくなってきた時代、聞きようによっては、皮肉に響く。「いまさら! 当たり前のこと言うなよ!」と冷ややかに受け取る向きもあるかも。戦後70数年、日本の家族は、軽自動車でつつましい幸せを紡ぎ出している! そんなものなのかと思う一方、どこかわびしさが襲ってくる。Nというのは日本のことだとホンダの深謀遠慮がここでガテンした。
ホンダのN-BOX,6年前にデビューしたのだが、累計112万台(国内で)を売りさばいている。日産の電気自動車が、7年でようやく28万台(グローバルで)セールスしたのとは、ずいぶん開きがある。いまや、ホンダのNシリーズは、ホンダの屋台骨の一つのようだ。だから、ついつい冒頭のいささか時代錯誤のキャッチコピーを、コピーライターがひねり出したからといって目くじら立てることはないのかもしれない。
そのNのフルチェンジから、数日後ベンツの発表があった。180度異なる世界を見せてくれた。まさにジャジャジャ~ンだ!
最高級セダンのSクラス「メルセデス・マイバッハSクラス」。従来のSクラスより前輪と後輪の距離、つまりホイールベースを20センチも伸ばしたという。後席では大画面のモニターを楽しめる。居心地最高! しかも現時点での最高峰の自動運転技術が組み込まれ、ハイウエイで、自動で車線変更するのだ。車内から専用ボタンを押すと、24時間体制のオペレーターが対応! 至れり尽くせり! 「これ以上何を求める!?」といっているようなクルマである。価格ですか? 2200万円台~2700万円台! ホンダのNの10倍以上。ベンツの上野金太郎社長は自信満々で、こういわく、「日本の富裕層は、こういうクルマを欲している」。へ~っ、そうなの?
Kカーで家族の幸せを追求するのか? はたまた2000万以上のクルマで、富裕層のジレンマに悩み続けるのか? いつから日本はいまにも崩れそうなフラジャイルな2元化社会になったんだろう?