スズキの長い歴史は、1887年(明治20年)2月18日、浜名郡芳川村字鼠野にある貧しい農家(父親が治平、母親がマチ)に次男坊の男の子が生を受けたことから始まった。
農家32戸の定型的な農村である。鈴木道雄(1887年~1982年)と名付けられた赤ん坊は、学問の神様とされ庶民からも親しまれた平安時代の「菅原道真(すがわら・みちざね:845~903年)」の名にあやかったとされる。
この地域は昔から綿織物が盛んで、初秋のころには畑一面に綿の実が白一色になり、まるで雪が降り積もったようであったという。7~8歳になったころから両親の手伝いで綿摘みを手伝っていた道雄は、近くで機織りの音を聞きながら子供時代を送ったという。
次男であった道雄は、14歳のとき当時の習わしとして家を出て働くことになる。父親の勧めで教師の道もなくはなかったようだが、元来創意工夫が得意だった道雄は、モノを創る道を選ぶことになる。大工の道を志し、将来はひとかどの請負師になる決意をした。請負師というのは建築を請け負う大工の棟梁のことである。