「今日もスライドドアの不具合で入庫してきたクルマがあり修理したばかりですよ。スライドドアのトラブルは、日常茶飯ですよ」友人の1級整備士のKさんは、日中の仕事で疲れた顔に高揚感をにじませて、語り始めた。
スライドドアとは、後席のドアを後方にスライドさせることで、狭いところでも、隣のクルマに気兼ねなく開け閉めができるとして、ここ数年装着するクルマが増えている。そのほとんどがいまや電動式である。トレンドとは恐ろしいものだ。もともと車幅が狭く普通のドアで間に合う軽自動車にまで、この電動式スライドドアを付けるクルマが登場している。“電動化”という一見豪華さに見えるキーワードで、採用率が増えたと推理する。……日本のクルマの歴史はいかに安いコストで付加価値を付けるかなのである。
ところが、この便利なはずのスライドドアが、整備するメカニックから見ると「あまり推奨できないメカニズム」と成り下がっている、というから一大事なのである。「毎週のようにスライドドアの不具合で入庫するクルマがあるんですよ。普通のドアではほぼゼロなのに。トラブルは、開かなくなったとか、逆に閉まらなくなったというトラブルのほかに、少し路面が悪いところを走るとガタガタとかカタカタいった騒音(ノイズ)の訴えです」
くだんのKさん、「そもそもスライドドアは、前側の上下と後ろ側の1点、計3点でボディに支えられているんです。閉まるとウエザーストリップで、ボディ側にぴたりと取りつき、一体化する。一体化といってもあくまでも見かけ上ですから、普通のドアのようにヒンジのボルトでがっしりと一体化はしていない。いわば張り付けている感じなので、下からの突き上げを食らうと、ボディとともに衝撃を受け止められずに、ガタガタする」
ふんふん、なるほど、つまり物理的に、そういう構造になっている、ということなのだ。となると、大なり小なりガタガタとかカタカタするのはごくごく当たり前、ということになる。悪いことに開口部のでかいクルマほど、この傾向が強い。
ガタが起き始めると……深刻な不具合として、使われている滑車とか、留め具の樹脂部品が劣化して破損することもある。最悪、スライドドアごと外れそうになることもないわけではない(筆者もかつてN社のプレーリーでこの体験をしています!)
そういえば、走りに徹するスポーツカーや、静粛性を追求する高級車にはいくら便利だからといってスライドドアは採用したためしがない。つまりボディ剛性が低下することと引き換えにスライドドアは採用されている! そう考えてもさほどの間違いを犯してはいない。