「シュルシュルシュル……」
無理やり文字に表すと燃料電池バスのSORA(そら)の走りは、こんな感じである。
とにかく、エンジンがないので、別世界の静粛性、それにギアがないので、無段階で速度がグングン増していくフィーリング。都バスの広いヤードのなかのほんのわずか、せいぜい5分程度の試乗だったが、異次元のFCVバスを堪能できた。都バスでは、今回新型SORAを3台導入、旧型と合わせ計5台のFCバスが、東京駅丸の内南口と東京ビッグサイト間約8.5㎞を営業している。途中、有楽町駅、銀座4丁目、築地3丁目、有明テニスの森など「東京のショーケース」を走る。
「変速ショックもないし、きびきびした運転ができる(心のなかでは運転を楽しめる、と言いかけた気がした!?)。何しろ運転がしやすいというので、うちの乗務員には評判です。もちろん、乗客の方からも、とても静かで気持ちいいと高い評価を受けています」と担当者。
このバスはJバスの石川県の小松工場でつくられている。中扉が、戸袋を持たない、アウタースライド方式。そのぶん車内が広い。車両重量は、約11.6トン。同サイズの路線バスにくらべ、1トンほど重いだけ。定員は79名。内訳は座席数22、立ち席56名、乗務員1名。世界初の乗用FCVのMIRAI(ミライ)のコンポーネントをフルに流用して、コストダウンを図っている。70MPa高圧水素タンクしかり、コンバーターやインバーター、モーター、燃料電池など主要部品は、みなMIRAIと共有して、量産効果を高めている。メンテナンスは、エンジンがないので、ベルトの張り調整もないし、プラグがないので定期点検もない。リアのハッチはエンジンルームではなく、「モータールーム」と呼ばれている。なにしろ、トヨタはこの近未来FCバスSORAを2020年までに、100台東京を中心に走らせ、「街の動くアイコン」にしたいという狙いなのである。
このFCバスの盲点は何かと、斜に眺めると、やはり値段が1億円と高すぎる。水素の価格も大きなネック。現在1㎏1100円。このFCバスは一充電で約200㎞走行するが、燃費は1㎏の水素当たり約11㎞。つまりディーゼルなら路線バスの場合、軽油1リッター(約90円)で約2㎞走るので、1100円で11㎞は、軽油を燃料にする従来バスより燃料代が約2倍という計算。個人的なお財布事情に照らすと、これはたまらない!
なんだか、環境にやさしいFCバスは、東京都(都民)のお財布には、決してやさしくはないようである。