現会長の鈴木修(現在88歳)が、常務の時代アメリカ支社から日本に戻り、東京支社駐在を命じられたちょうどそのころ、人脈を深めるべく様々な人と出会っていた。本人に言わせると「不遇な時代」だったようだ。早い話、干されていたのだ。人は不遇のときどんな時間を過ごすかで、その後の運命が違ってくる。修の場合は、とにかく異業種の人たちにどんどん会いに行ったという。そのとき、たまたま面白い人物と遭遇している。
修より9歳年上のモノづくりの工場経営者。
聞けばおもに遊園地向けのアミューズメント・マシンを作る下町の小さな工場で、4輪駆動の面白いクルマを作っているというのだ。それがホープ自動車の開発した「ホープスターON360」だった。社長はアイディアマンの小野定良さん(1921~2001年)。修とはすぐ気が合った。
もともと“不整地万能自動車”として開発されたこのクルマは、スズキのキャリイが29万円だった時代、他社のエンジン(三菱製2ストローク2気筒)を載せ67万円で販売していた。価格が高いこともあり、わずか15台が市場に出回っているだけの超マイナー車両。しかもエンジン供給が途絶えていることもあり、ほとんど知られざるコンパクト4輪駆動車だった。
修は、この小野さんという男に惹かれるとともに、不整地をものともせずに走ることができる小さなクルマに魅せられた。自伝でも書いているが、恥ずかしいことに、自動車メーカーに身を置きながら、2輪駆動と4輪駆動の区別がつかなかった。だからこそなのか、富士山の八合目までグイグイ登る、この小さな車に過剰に魅せられたのかもしれない。(写真は1970年にデビューした初期型ジムニー)