エンジンを元気よく動かすうえで欠かせないクルマの電気部品の消耗も激しいという。
スターターとオルタネーターには、ブラシなどの摺動部分があるし、ギア部分の摩耗にも気を配る必要がある。そこで、4名の専従整備士を置き、電装部品の分解整備を日々行っている。工房の隅には、テスターがあり、組み上がった電装品を全品テストしていた。
その隣では、床の張替え作業をしていた。
床の張替え、といっても東北などで見られた路線バスの床の鉄板が融雪剤で腐食し、穴が開き、当て金(鋼板)をあてるというリストア的修理ではない。ロンリウムと呼ばれる樹脂のフロア材と床の鉄板のあいだにしつらえた約15ミリ厚の合板。これが経年劣化で腐り床がボコボコになっているのを修復していた。「いわゆるフロアの床材が腐るというものです。乗客が雨の日に持ち込んだ雨水が、上部の床材であるロンリウムの隙間から侵入し、やがて内部の合板が腐るのです」(木下工場長)ロンリウムは樹脂なので、夏場と冬場で伸び縮みして、月日が経つと隙間が生じ、そこに水が侵入するのだ。一番下の鉄を錆びさせるまでには至らない。とくに都営バスは前乗り、後ろ降りなので、入り口部分と中間扉の周辺の合板が腐りやすいとのことだ。
驚いたのは、シートの清掃と修理をおこなう部署があることだった。
8年をめどにしてすべてのシートを取り外し、シートバック、座面部、それぞれを水洗いする。なかには、内部のウレタンがつぶれてクッション性が低下している場合は、表皮をはぐり、旧いウレタンをカットし、新しくウレタンを追加し、表皮をかぶせなおす。ドライバーシートの場合は、正対するだけでなく、運賃箱に向いたりするし、乗り降りも激しい。そのため、表皮との摩擦が激しく、表皮が数年で擦り切れることが多い。そこで、表皮を新しく造り替えたりもするという。小さな縫製工場を抱えているということだ。なぜ、8年なのかは聞き忘れたが、たぶん16年でお役御免になるので、切りのいいところで、その半分、ということなのか?
ともあれ……「ALWAYS 三丁目の夕日」を思い起こすノスタルジックな光景。民間の整備工場から整備士さんがここに再就職したい気持ちも、わからなくもない。