「う~ん…‥軽自動車にも、こんな着想があったのか?」
ライバルメーカーのデザイナーは、たぶんこのクルマのカタログを手にし、そんな悔しい思いが込み上げたのではなかろうか。
なにあろう、2018年夏、主役に躍り出たのは、ホンダN VAN(エヌ・バン)である。4ナンバーの軽である。バンである。働くクルマである。なぜに、「働くクルマ」、それも「軽の働くクルマ」に注意を注ぐかというと、パッケージングが度肝を抜くからだ。
パッケージングというと、なんだか閉じられた感じを与えるが、このクルマは、グググ~ン! と広がる感じが内包されている。たぶん、これはこれまでのクルマが“クルマありきの発想”だったとすると、このクルマは“生活ありきで発想”したからだと思う。言葉をかえると「開発者みずからが、お金を出して買いたいクルマ」。
フロントの助手席がダイブさせられ、セカンドシートもパカパカっと折りたたむことで、フラットな床面をつくり出せる。助手席側のセンターピラーがないので、荷物の出し入れが楽々だ。しかも、ハイルーフ仕様だと、荷室高が1365㎜、テールゲート開口部高1300㎜と高い(ロールーフ仕様だと1260㎜、1200㎜)。カタログでは「すみずみまで使える四角い荷室」と謳う。花屋さん、酒屋さん、それに電気工事屋さんなど、働く軽自動車に夢を与えている。仕事中の夢と、仕事を離れた夢もこのクルマは与えている。キャンピングカーにもなるし、バイクを運んでサンデーライダーの楽しみを与えてくれる。言葉を変えればONとOFF、どちらもOK!
こうしたことを実行に移すために、N BOXをベースに、コンセプトを突き詰めている。小さいことだといわれそうだが、荷室の左右側面とテールゲートの内側に計28個のねじ穴を設けている。助手席の足元と後方に2個ずつ、荷室フロアに4個、計8個のフックを付け、タイダウンベルトがかけられる工夫。ここに、そのコンセプトの集約が見える。自動ブレーキをはじめとするホンダセンシングと呼ばれる衝突安全技術も標準装備していることも忘れない。
このクルマの欠点は、ショボいシートと指摘するのはカンタン。ショボいシートのおかげで、たぶん長距離で、不満をこぼす同乗者が出るだろう。この辺はトレードインの世界。こちらを立てれば、あちらが立たず‥‥。いかに割り切るかで、そのクルマの魅力が増幅する……。ホンダN VANはそんな開発者の喜びと悲しみが伝わるようなクルマなのかもしれない。ただし、価格は126万円台からと安くはない。