低価格車戦略を打ち出したアルトの成功は、1979年(昭和54年)である。
スズキには、その前に長いトンネルをくぐる時代があった。1970年代初頭から社会問題化し始めた排ガスの問題である。クルマのテールパイプから出る排気ガスをよりきれいなものにするべく決められた法律は、いまでこそほとんど社会問題化されてはいないが、当時は、自動車産業を長い期間、大きく揺さぶる大事件だった。
アメリカのマスキー上院議員から提案されたマスキー法案(大気浄化法)は、一酸化炭素CO,炭化水素HC,窒素酸化物NOⅹの排出を段階的に抑制するというものである。1972年にホンダが発表したCVCCエンジンは今でもその厳しい排気ガス規制をクリアした輝かしい第1歩としてことあるごとに追憶され、記憶をよみがえらせるが、その陰で数多くの排ガスメカニズムが消えていった。
そのひとつが、スズキのEPICエンジンである。2ストロークエンジンのスズキ独自の排ガス浄化システムだった。