1970年前後から始まった排ガス規制は、世界の自動車メーカーの喉元に、まるで刃を向けるような厳しい規制だった。
後から振り返れば、確かにエンジンの燃焼という、これまでお金を投入して、あまり真剣に研究されてこなかったサイエンス(燃焼のメカニズム)を深く考えざるをえなくなり、その後の燃費向上に大きな足掛かりを付けた功績はある。だが、どこのメーカーもニューモデルの開発や新しいエンジンの開発など本来向かうべき方向性を大きく狂わせられ、足踏みを余儀なくされたという側面があった。
スズキの場合は、このEPICエンジンの開発に結果として失敗したことで、「屋台骨が揺らぐほどだった。アルトのヒットでなんとか盛り返したが……」(鈴木修氏)という。少なくとも4ストロークエンジンの開発に大きく後れを取ったのである。軽自動車の新エンジンK6Aエンジンが登場するのが1994年、その後継エンジンR06Aエンジンがデビューしたのが2011年である。ちなみに、このEPICエンジンの話題は博物館のどこにも見当たらないのは残念だ。負の遺産として、後輩たちへの良きアドバイスになると思うのだが、そうした振る舞いができるにはもう少し時間が必要なのかもしれない。