人間が生まれ、世の中で初めて生きることを始める。それと同じように、企業にも必ず始まりがある。
ホンダは、終戦後自転車にエンジンを付けた、今でいう原チャリからスタートした。トヨタは、発明家・豊田佐吉の息子・豊田喜一郎(1894~1952年)が、画期的な自動織機の発明で得た莫大な資金を投じて、戦前キャデラックをお手本に乗用車生産から始めた。日産は、橋本増治郎(1875~1944年)という岡崎生まれのパイオニア・スピリッツが起こした快進社を引き継いだ日産コンツェルンの総帥・鮎川義介(1880~1967年)により自動車づくりを始めた。スズキは、もともと織機をつくる大工から這い上がった鈴木道雄(1887~1982年)が一代で築き上げた2輪&4輪メーカーである。
このように、たいていの自動車メーカーには、確固たる創業者が綺羅星のごとく存在している。
ところが、ことダイハツに限っては、この原則が当てはまらない。その企業のカラーやあるいは創業者魂のような空気感がダイハツの創業時を探ってみても匂ってこない。「この企業にこの人物あり!」という人物が見当たらない。ひとは、人間集団である企業を理解するうえで、往々にして知らず知らず企業を擬人化して、考えるものだ。社長のキャラクターや創業者の履歴などが、そのことを強化する。ダイハツという企業の始まりを調べると、良きにつけ悪しきにつけキャラが立っていないのは、どうもそこにあるようなのだ。創業期にグイグイ組織を引っ張るような存在がなかったようだ。ただ、目を凝らしてみると、ドグマのような熱き情熱は伝わる…。
そんなことで、今回から『ダイハツの知られざるヒストリー』をお届けする。