“乗用車やオートバイの世界では、製品デザインについて、あらゆるところで認知されているよね。だけど、商用車、トラックやバスの世界では、見落とされがちだよね、デザインって! そこで質問! トラックなどの商用車のデザインのキーワードは何だ?”
ウググ・・・・そんな素朴な疑問に即座に答えられない・・・・。そんなんじゃ「ボーっと生きてるんじゃねーよ!」といきなりチコちゃんに叱られそう。
即答はできないけど、チコちゃんのそんな質問に答えられそうな記者向けのイベントが先日、新川崎で開かれた。
三菱ふそうの「デザイン・エッセンシャルズ」と名付けられた催しがそれ。言い忘れたけど、当社はドイツのダイムラーの傘下だ。川崎にある本社には、20数名のデザイン担当者がいて、ダイムラー社のデザインルームとリアルタイムでVR(バーチャル・リアリティ)によるデザイン談義を展開、国境を越えてのデザイナー間でのセッションが展開されているという。ちなみに、ダイムラーグループ全体。グローバルでデザイナーは約700名もいるという。
そんな中で一番興味がわいたのは、「モジュールトラックIRQ」(写真)という名前の近未来120%満載の丸みを帯びた未確認車両的コンセプトカーだ。IRQとはインテリジェント・レスキュー・トラックの略で、燃料電池で駆動する緊急車両である。
現行の小型トラックキャンターから着想したというが、高床式の4WDのカッコいいスタイルを見ると、デザイナーの底知れない想像力を垣間見た気がする。
発想した本人が、じきじきに説明してくれた。「IRQは、豪雪地帯や山岳地帯などこれまでクルマが入れなかった起伏の多い地域でもグイグイ踏み込んでいけます。そんな困難な状況下でも、救助活動ができるクルマです。ボディとシャシーの連結部分は、モジュール方式なんです。つまり、ボディ、シャシー、アクスルのメイン部位を、状況や目的に応じて換装できる。飛躍的に救助状況の幅を広げられるのです」。担当したのは、若いインド生まれのデザイナー(写真)。父親が運送業をしたことから子供の頃からトラックに強い興味を持ってきた彼は、目を輝かせて説明してくれた。
この車両にいささか夢見がちとなったが、未来のデザインはこれだけではなかった。
輸送用のドローン「ヘリドライド」という乗り物を着想していた。
川崎のデザインオフィスにあるデザインセンターに籍を置くデザイナーたちは、商用車の将来像をただ路上を行き交う乗り物とだけと規定していないようだ。というのは、空を飛ぶ、つまり通常のトラックは水平方向だけの乗り物電気式ダクトファンだったが、垂直方向にも移動できる乗り物、ドローンタイプを視野に入れている。
「たとえば、地上の車両から高層のマンションの上層までの距離を簡単にカバーすることで、都心部でのドライバーの作業負荷を軽減できる」というのだ。つまりエレベータや階段を使わず、いきなり、上空から物を届ける! 季節外れのサンタクロースか? 面白いのは、これを具現化するために、360度カメラの装着やスタビライザー役の電子式ダクトファンを4隅に付ける、さらにはホログラム映像でメッセージを送るなど近未来を豊かにするアイディアが詰め込まれていた。
うまく言えないけど、デザインのチカラってすごいんだな……。チコちゃんもこれで少しは納得してくれるかな?
自動車という乗り物がいま大きな曲がり角にきている!
このフレーズ、耳にタコができるほど聞いてはいるが、そもそも現在のモータリゼーション、つまり“人間生活がクルマ無しではいられなくなった”のは、いつ頃のことなのか?
これを探りに、“市電保存館(正式には横浜市電保存館)”にでかけてみた。なぜかクルマでいくより、ペダルをこいだ方がふさわしいと思いこみ、自転車で出かけた。住所でいうと、磯子区滝頭3-1-53は、美空ひばりさんが生まれたところでもあり、横浜の下町そのもものだ。
「横浜市電」は、明治37年(1904年)から昭和47年(1972年)の70年間にわたり「ちんちん電車」として親しまれ、市民の足になって大活躍した。最盛期(昭和31年)には204両の車両が15系統の路線で走り回り、なんと総延長距離が204㎞もあった。(ちなみに東京の都電は40系統で約213㎞だった)
現在、日本の都市、たとえば札幌、函館、高山、京都、広島、豊橋、高知、松山、熊本、鹿児島などでも路面電車は走り続けているが、それぞれ10km未満だったり、せいぜい20㎞オーバーの総延長距離。
これから見ると、横浜市内はいかに路面電車が庶民の生活に結び付いていたかがわかるし、いまでも保存館に訪れる家族ずれや社会科見学の小学生の小さな胸に響くのが伝わる。路面電車という存在は、若い人には新鮮で、シニアにはノスタルジックな気分を抱かせる。しかも環境にやさしいことが大いに見直され、都電荒川線は1974年に、恒久的な存続が認められ、富山や宇都宮などの地方都市でも交通緩和策として、新路線建設が進んでいる。
路面電車が少数派に追いやられた背景は、高度成長経済期にクルマの数が劇的に増えたこと、とされている。
調べてみると、横浜市電が廃止された年1972年2年前日本のクルマ保有台数が1800万台に迫っていた。その10年前の1960年には135万台だったので、10年で10倍以上! 「道路面積を増やすより、もたもた走る路面電車をやめた方が手っ取り早い」とばかり、路面電車の良否を十分に吟味しないままに性急に目先の利益を追い求めてしまったのだ。
じつは、こうしたことは、海の向こうのロサンゼルスでもあった。ロサンゼルス鉄道は、1901年から1963年までLAの中心部と周辺部を走っていた。最盛期には20以上の路線と1250両もの車両が市民の足として存在していた。ところが、GMとタイヤのファイアストン、シェブロンなどの石油元売り会社などの投資家が共謀して、路面電車を廃止に追い込んでいる。アメリカのこうした露骨なスキャンダラスな事件にはなっていないが、日本の場合は、いわば“共同幻想”で路面電車の線路を引っ剥がしたということのようだ。
クルマの整備工場、といってもいろいろある。カーディーラー工場、いわゆる民間車検場ともいわれる指定工場、それに持ち込み車検をおこなう認証工場、最近は自動ブレーキのエーミング作業をおこなう特定指定工場などなど。その数、ざっくり全国で8万軒。うち数名の小規模などちらかというと家族経営的な認証工場が、圧倒的多数派。
年に一度都内で行われる「国際オートアフターマーケット」(写真)は、「オートサービスショー」とともに、こうした自動車整備業者向けの見本市。これまで東京ビックサイドを舞台にしてきたが、今回のコロナ禍で、リモートでの開催となった。出品企業数も従来の半分以下。リアルイベントなら、ほっつき歩くうちに思わぬ取材ができるのだが、リモートで、しかも情報量が限られるとなると、見るべきものはあまりない、そんな印象だった。
ところが、開催中の3日間セミナーを開いてみると、ふだんあまり聞くことのできないクルマのサービス楽屋裏の声を聞くことができた。登場するのは、現場のメカニックやフロントマンではなく、経営者が中心なので、やや面白みに欠けはするが、耳をそばだて、よく観察して眺めていると、最前線で戦うビジネスマンの苦労や悩み、そして野心がにじみ出てきて、想像以上に面白かった。
ひるがえって・・・・クルマのサービスは、一言でいえば、ユーザーに“安心と安全を届けること”。
このことには変わりはないが、クルマ自体がどんどん進化しているし、世の人々がクルマに求めるものが変化している。電子制御のクルマのトラブル・シューティングは、いまや専用の診断機を持ち、それなりのスキルを持たないと太刀打ちできない。むろん、そのクルマのマニュアルも必要となる。だから、カーディーラー工場は断然有利の状況。そうでない整備工場は、車検と点検で食べるしかない。これをどう打破すべきか? なかにはココロザシのある認証工場が特色を出すべく果敢に挑戦している。とにかく“車検制度がもしなければ日本の整備工場の大半は消えてなくなる”という説もあるほどだ。逆に言えば彼らのレゾンデートル(存在意義)を、確立しないといけない!
くわえて、修理の決め手の一つ部品も、大きく地殻変動している。
名車といわれるトヨタ2000GTやAE86カローラ&スプリンター,マツダロードスター、ホンダビートなど。ヘリテージカーのパーツと呼ばれる部品。これらが復刻され、高値で売られ、無視できない市場の広がりを見せているという。
それにそもそも「若者のクルマ離れ」といわれる一方、“サブスク”と呼ばれる新手のリースによるクルマ所有の形態が生まれている。これはサブスクリプション・サービスの略で、雑誌の年間購読から始まったように、一定期間クルマやそれに伴うサービス(任意保険を含むことも)に対価を支払うビジネス形態。音楽配信や動画配信、それに飲食系やファッション系にも、手軽さが受けてこのビジネス形態が広がりつつある。
こうして、自動車メーカーや部品メーカーが関係するクルマづくりの世界だけではなく、修理技術、部品、クルマの販売&リースなどクルマを取り巻くビジネスも地盤変動というか、パラダイム変化が起きているということのようだ。
「自動車というのは、つまり自動で動くクルマって書くだろ、だから自動車はもともと自動という機能を備えている。それをなんだい? 自動運転にレベル1からレベル5まであるつうのが矛盾じゃないの?」
つい無邪気な突っ込みをいれたくなるが、ここはひとつワキマエテ・・・・「とりあえず段階的自動運転を進化させようではないか? だから便宜上レベル1からレベル5まで設けています」という立場を尊重する。
先日デビューしたホンダのレジェンドだ。価格が1000万円オーバーで、“100台限定”といういわくつきの高級車。
“量産車世界初! レベル3の自動運転機能”を備えた量産車という触れ込みだ。
具体的にどこまでの自動運転かというと、高速道路や自動車専用道路で渋滞時の時速50キロ以下という条件で、手放し運転がOKということだそうだ。ハンドルから手を離し、横を向いて、ボケっと流れる景色を楽しんでもよし、スマホの画面をみいっても大丈夫。違反にはならない! という。2つのカメラと5つのレーダーだけでなくレーザー光で障害物形状を正確にとらえるライダーというセンサーを装備。もちろん高精度の3D地図と準天長衛星「みちびき」などがバックアップして、レベル3の自動運転を実現しているのだという。
しつこいようだが、これで車両価格1000万円プラス!
一方、スバルのレヴォーグ(写真)は、レベル2で価格がその半値以下だ。値段だけとらえるとバーゲンセール(スバルによいしょするわけじゃないけど)。装置としては、レーダーがひとつ少なく2個、ライダーセンサーも付かない。でも3D地図と「みちびき」を活用しているのは同じ。
しかも≪高速道路あるいは専用道路上で時速50キロ以下での手放し運転OK≫というのも変わりないのだ。なら、同じじゃない? でも、よくよく調べると、「ドライバーの監視のもと!」という断りがある。つまり、ハンドフリーでもドライバーは常に前方を見ていないと、おまわりさんに捕まる可能性がある! ということらしいのだ(もちろん現行犯だけど)。だから、ノー天気にスマホを見ていちゃまずいということ! これってとても分かりづらい差異だ。
いまどきのクルマに乗るときは、こういう微妙な性能の違い(というか決まり事)を逐一把握していないとまずいということだ。余計なお世話かもしれないが、たとえばレンタカーを借りるときどうするんだろう?
となると‥‥『便利は不便』という皮肉な言い回しが、がぜん真実味を帯びてくる!
ちなみに、うんと安いほう(といってもなんだかだで450万円はするが)のレヴォーグを試乗してみた。近くのスバル店で10分間ほどの試乗。
運転免許証を見せながら、セールスマンにハンズフリー運転を試させてくれませんか? と伝えたら、「高速道路での試乗になり高速代をお支払いいただき……むにゃむにゃむにゃ」と言葉を濁す。ハンドフリーでの運転試乗はしてもらいたくない、そんなオーラを出しはじめた。一番のセールスポイントを顧客に体験させないの? ムムム、たしかに立場を変えれば、そうなるのかな。ほぼ買ってくれる人でない限り、スバルファンをひとり失くしたとしても、不特定多数の客にサービスする必要はないんだろうね。
しかたなく10数分の一般道路の試乗で我慢した。その結果、ドライバーズカーとして、とてもいいクルマだということは理解できたが、肝心の機能が確認できないもどかしさは、やがて喉に引っ掛かった小骨のようになった。
トヨタの実験未来都市プロジェクトウーブン・シティ(WOVEN CITY)が、2月23日工事スタートした。“富士山”=233にゴロ合わせしたのだ。
70万ヘクタール、東京ドーム15個分という富士山の裾野に広がる用地。ここは、もともと関東自動車工業を前身とした高級車センチュリーなどをつくってきた東富士工場(従業員数約1100名)の跡地。
静岡県の裾野市と御殿場市にかかる広大な土地で、数10年後のクルマが走るとされてきた東富士研究所ともごく近いロケーション。ここに、自動運転車だけが走る道路、歩行者だけの道路、混流の道路、地下を走る物流用の道路など計4つの道路が、まさに人工知能や自動運転テクノロジーを組み込んだウーブン(編み込む)な未来都市。インフラと一緒にクルマの開発も進むので、加速度的に知見が蓄積できるというのが、大きな狙いだ。
シニア世代、子育て世代、それに各国からのエンジニア合計約2000名が生活をおこない、これからのクルマ社会に必要なCASE(コネクティッド、オートノマス、シェアリング、エレクトロニック)をとことん実証し、研究するというものだ。
このウーブン・シティ、今後20年かけて完成させていくというのだ。完成させながら、これからの未来社会のヒントにしていくというのが、大筋なハナシらしい。むろん、トヨタがコア企業ではあるが、内外からの企業を呼び込んでのプロジェクトで、NTTなど計2000社ほどが参加する見通し。
このプロジェクトを地元はどう見ているか? ちなみに日本の地方都市が抱える課題は、少子高齢化や人口減少による税収入の減少などによる疲弊化だ。東海道メガロポリスの範疇にある裾野市や御殿場市は恵まれている地方だと思いがち。ところが、ほかと同じような課題を抱えているという。両市および静岡県は、こうした難題を一気に解決できる切り札としてこのトヨタのウーブン・シティをとらえているようだ。いわば、もろ手を挙げての賛成。まるで、アメリカの西海岸のシリコンバレーのように、海外から大注目され、インバウンド需要があふれかえる、という無邪気な夢を描いている向きもあるようだ。
ところが、このプロジェクトは、そう簡単には成就できない面が透けて見える。
このプロジェクトをスムーズに効率よく押し進めるには、街の住民の個人情報を緻密に管理される可能性がある。ということは、開かれた街づくりとバッティングすることになる(昨年中ごろ、カナダのトロントにグーグルがスマートシティを創設しようとして、個人情報の扱いが争点になり住民の反対をうけ、けっきょく撤退したという事例もある)。それにほかの地域からのクルマや人が入り込み、万が一事故が起きた場合を想定して、ちくいち地元警察の許可を取る必要も出てくる。これをクリアするには、特区制度で規制緩和という手もあるが、果たしてできるのか? となると豊田章男社長の言う「開かれた街にしたい!」という未来像も揺らぎがち。
ともあれ、まだ工事が始まったばかりで、トヨタは、その青写真の全貌をほとんど公開していない。未知数の部分が多すぎるだけに、期待だけが肥大化し、今後必ず起こりうる不安に霞がかかるばかり。
すでにいろいろな媒体で明らかなように、2050年までにCO2などの温室効果ガスを「実質ゼロ」にする動きが本格的に動き出そうとしている。そのおもなターゲットは、乗用車から出るCO2だ。計画の実効性を確実にする意味で「2030年代に新車の乗用車をすべて電動化、つまりEVあるいはFCV(燃料電池車)に切り替えるとしている。
菅さんの発言の勢いから「クルマの排ガスをゼロにすれば、日本列島から出るCO2はゼロになる」雰囲気。だが、コトはそんなに単純ではない。そもそも自動車のマフラーから出る排ガス(写真は、シエンタHVのマフラー)がワルモノの代表選手なのかどうかだ?
そこでエンジンの消滅に哀愁をいだく一人として、日本のCO2の排出量の内実を調べてみた。
一昨年のデータでは、日本で全CO2排出量は、なんと11憶3800万トン! うち鉄道や航空を含めた運輸部門が18.5%を占める。そのなかで自動車が占める割合は約90%。さらにそのうち約半数が乗用車。ちなみに、全体のうち一番CO2を多く出しているのは工場などの産業部門で、約35%。家庭からは約14.6%である(図参照)。
要するに、「乗用車のマフラーからは、約10%のCO2を出している。その量は約1億トンにもおよぶ!」ということになる。
この10%をどう見るかだ。これからの10年で、いっきに脱化石燃料車に切り替えるか? となると、夏の電力不足が引きおこると予測できる。それだけではなく、これまでのエンジン技術が消滅し、モノづくり日本の屋台骨が大きく傾く恐れ大。現在自動車関連で日々仕事をしている人口は約540万人。家族を含めると、ざっと日本の1/4を占める。明治初期の士族の没落、あるいは敗戦後の農地解放による237万人の地主の没落といった大きな社会の変化、いやそれ以上の革命に近い社会変動が起こる可能性がある。
そして、そもそもEV化が進んだとしても、電気自体をCO2がバカスカ出る火力発電所でつくる間抜けなことをしていたら、とんだ悲喜劇が演じられることになる。それにモノづくり工場から出る35%のCO2をどういう手段でゼロにするのか? こう考えると、なんとも不透明感が覆う世界だ。
ずいぶん前から、軽自動車が乗用車市場の約半数を占めるにいたった。
ということは、Kカーを無視してジャパニーズカーを語れなくなった。そこで、8年ぶりにフルモデルチェンジしたホンダのN-ONE(エヌワン)に注目してみた。
このクルマ、よく知られるようにそもそもF1を担当していた浅木泰昭氏らが中心で、作り上げた経緯のあるKカー。コスト無視のレースのエンジニアが、コスト最優先のカタマリのような商品「軽自動車」に向き合うとは? まさに我ながら、岡目八目の無責任ただよう好奇心120%で、かつて彼らに迫った覚えがある。
そのとき印象的だったのは、プレミアムなヘッドライトの採用の背景だ。外装部品で一番壊れやすいヘッドライトをわざわざ、超高級仕様にしたことへの疑問。万が一のクラッシュでユーザーに不本意な修理代を突き付けていいのか? 下駄代わりの軽自動車に不釣り合いではないか?
ところが、これは当方の勇み足というか、余計なお世話だった。プレミアムなヘッドライト(ばかりではないが)のおかげもあり、ダイハツとスズキの牙城をいっきに崩すだけのパワーをNシリーズが発揮したのだ。N-BOXだけで、年間20万台以上というからすごい。お金があれば、何でもできる。勝てば官軍だ。
で、今回発売したばかりのN-ONEに試乗してみた。
それも超プレミアムで走り優先モデルRSの6速MTだ。黄色と黒のツートンカラー仕様。
車内に入って、びっくりだ。文字通りインテリアの質感がヘタなコンパクトカーがぶっ飛ぶほど上々なのだ。走り出すと、ややノイジーだが、それでもかつての軽自動車から比べたら高級車でござい! の貫禄。適度に路面の凹凸を伝える感じも悪くない。6速MTはとてもスムーズで、「開発者が欲しいクルマづくりだな、これ。そうしたユーザーが少なくないクルマなんだな、これって」という印象で、どこまでも“ホンダ万歳!”なのだ。前モデルとカタチがほとんど同じで、なんだか新鮮味がないと思われがちだが、カタチは保守路線、中身は、たとえば安全装置がてんこ盛りで、質感向上、燃費そこそこ。・・・・こうなると、どこか死角はないか! とついつい考える悪い癖が頭のなかに持ち上がる。
降りるとき痛いほど気づきました。ドアの開閉時の安っぽさ。開閉音、開閉時に手に伝わるドアの重みなど、いかんともしがたい宿痾が顔をのぞかせた。そして、無理難題をいえば、かつてのホンダ車が得意としたびっくり箱的クルマづくりが影を潜めている。これって、足踏みしている世相を反映している?! 車両価格は、なんと206万円だそうだ(ベースは159万円台から)。ドメスティック商品の軽自動車は、令和の時代にはいり、さらにジャパニーズ4畳半の唯我独尊の世界を構築している!?
思えば三菱自動車という企業は、日本の“名門企業”が抱える制度疲労を象徴的に、読み解けるお手本のように思える。
1970年に三菱重工業から独立し90年代までは比較的順調に推移。ところが、2003年には半沢直樹シリーズで有名な小説家・池井戸潤作で、映画にもなった“空飛びタイヤ”事件。これがキッカケに大規模なリコール隠しが露見したことから、トラック・バス部門を分社化に発展。ブランド名が深くキズ付いた。ここから長い販売不振が続き、いまでは日本市場のシェアは1%前後に落ち込んでいる。この超低空飛行を打破すべく2016年には、野心家カルロス・ゴーンの主導で日産・ルノーファミリーになるも、肝心のゴーンがいなくなり、そのアライアンスも不透明。
そして時代は、100年に一度の自動車の大変革期!
このままでは、スリーダイヤモンドが自動車業界から消滅する、そんな危機感120%。相撲でいう「徳俵(とくだわら)」に足がかかった状態! このほど発売された「エクリプス・クロスPHEV」の登場は、その徳俵にかかった大ピンチから再び力を盛り返し、逆転への足掛かりになるかもしれない。三菱ファンならずとも、そんな車として位置付けたくなる。
徳俵に足がかかった三菱のエリートエンジニアは、たぶんこう考えた。「生き残るためのアイテムは歴史の中にあるハズ!」そして見つけ出したのが、世界ラリー選手権やパリダカなどで大暴れした4WD技術、それと11年前に世界初の量産EV「アイミーブ」を発売したプライドだ。
ラリーは、お金がないので表立って活躍していないし、アイミーブも世界50か国に展開したけどトータル販売台数2万3700台どまりで終わった。熱い思いでこうした事業を推進した当時のDNAが蘇る。ラリーと電動化技術、この2つがクロスして誕生したのが、「エクリプス・クロスPHEV」なのかもしれない。前後2つのモーターを付け、EVとして60㎞以上走れ、雪道であろうと、荒れたオフロードであろうが、舗装路もライバル車にくらべ、走る喜びを与える走行性は負けない。培ったヨーコントロ-ル技術とABSと横滑り防止装置などの合わせ技はライバルメーカーにはまねできない。スタイルだって、よくみると今風のSUVでイカしている。
価格も384万円台(しかもエコカー減税などの優遇あり)で、魅力的。とにかくハイテク満載、だからか車両重量は1800㎏もある。それにしてもトヨタなら500万円の値札が付きそうなクルマが400万円以下で手に入る。今後どのくらい売れる(訴求する)のかが気になる。
深刻化する格差社会、いつ果てることなく続くパンデミックの蔓延、これまで経験したことのない異常気象の来襲・・・・ノー天気に構えてきた庶民ですら、なんだかジョージ・オーウェルの『1984』以上のディストピアの悪夢をつい想像してしまう。ユートピアの白だと思っていたのが、オセロゲームのように、ディストピアの黒に変わる、疑心暗鬼の空気も蔓延している。
クルマ社会のユートピアといえば、究極のエコカーの代名詞であるトヨタの燃料電池車(FCV)「MIRAI」である。
このMIRAIが、4年ぶりにフル・モデルチェンジされた。初代がグローバルで1万1000台販売したというから、「まずまずの成功だった」とトヨタ関係者は総括。
新型は、いちから見直しエクステリアを俄然カッコよくし、不評だった航続距離も650㎞から3割増しの850㎞まで伸ばした。これなら大阪まで走れる。この背景には、水素タンクを2個から3個にしたからだ。だから、トランクの容積とリアシートの居住性がやや阻害されている。エアクリーナーの性能を格段に上げたため、吸った空気よりも吐いた空気のほうがきれいにできたという自画自賛は、いいとして、調べてみると課題が見え隠れする。
肝心の水素ステーションが、4年前からあまり増えていないのだ。現在135カ所で、しかも大都市ばかりで16の県ではゼロなのだ。しかも夜間は休業だし、休日はまったく営業していないところばかり。ユーザーから見るとやる気がない感じだ。
その背景には、1軒あたりの建設費が3億円以上かかり、年間の運営費が約3100万円もかかり、ほとんどが赤字だという。この打開策として、トラック、バス、鉄道、建設機械などのモビリティにも水素を使ってもらおうという取り組みを始めている。とりあえずコンビニの配送小型トラックにFCVを導入しようというのだ。つまり、ほかの産業との連携、協調を展開しようというわけだが、たやすくはない。
ちなみに、新型MIRAIは、税込み価格710万円台からで、各種補助金を使うと、570万円台で手に入る。それでも高いのは、肝のFCVが高価だということだ。こう考えると、なかなかクルマの未来は、安閑としておれない!?
北欧スエーデンでは2025年からガソリン車、ディーゼル車など化石燃料をエネルギーとする新車販売を中止する。アメリカのカルフォルニアでは2035年からガソリンエンジン車の販売中止が決定。イギリスも化石燃料車の販売を5年前倒しの2030年に全面禁止、オランダとドイツも2030年からの販売中止を決めている。
数年前までハイブリッドカーで欧米よりもクルマの環境問題では一歩先を進んでいたかに見えた日本。
でも、こうした欧米の方針に当初戸惑い、おかげでいまや後れを取ってしまった様相だ。そこで、この年末には、日本政府は、「温室ガス排出をゼロにする」という宣言を出すという。
菅首相が打ち出した「2050年にはクルマから出る温室ガス排出ゼロ」を実現するため、2030年代に売られるクルマをすべて環境にやさしいEVや燃料電池車に切り替える、という流れを作ろうというのだ。クルマの寿命を20年とする計算だ。だから20年前に販売中止にすれば、化石燃料車はいなくなるという目論見だ。
ところが、よくよく聞いてみるとどうも、日本の環境負荷ゼロのクルマのなかには、ハイブリッドカーが含まれているのだ。欧米ではハイブリッドカーは、化石燃料車の範疇なのに!
ハイブリッドカーは、モーターで走る領域があるが、あくまでもエンジンでも走る。だからCO2がでます。重ねて言うが、欧米では、このハイブリッドカーは将来のゼロエミッションカーのなかには含まれていない。仲間外れされる運命のハイブリッドカーは、日本では「シェアナンバー・ワンのトヨダの屋台骨」だから、排除できないつらさがあるようだ。皮肉な見方をすれば、かつての環境優等生HVが喉につかえる小骨になってしまう!?
日本はいまのところ、EVはわずか1%。これを多数派に持っていくのは至難の業ではない。
テスラモータースのEVを考えても、なにしろEVは値段が高い。中国のように43万円のクルマ(9月の中国での販売数2万台を超え、テスラを抜いたそうだ!)が出てくれば一条の光が見える(写真)。でも、先日発売された「ホンダe」など約500万円もする。トヨタからも近々“ピュアEV”が出てくるようだが、ガソリン車並みの200万円カーとはいくまい。
これが「前門の虎」とすれば「後門の狼」もいる。
肝心の電気のミナモトをどうするかだ。かつてM社の電気自動車の試乗会に出かけた時、ガソリンを使った発電機で電気を起こし、それを新型EVに注入している楽屋裏を見てしまったことがある。そもそも、家庭用電源の4割は石油と石炭の化石燃料で作り出しているのである。だから、再生可能エネルギーの拡大も急務となる・・・‥どこまでも後ろめたさが付きまとう課題だ。
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