前回取り上げた≪18万キロをあとにした愛車ファンカーゴのビビリ音トラブル!≫は、発生源がわかり、意外とすんなり解決。メデタシ・メデタシだったのだが、意外なところから反響をいただいた。騒音は物理学でいえば波なので、反響があってもなんら不思議ではないが、ふだん近所の用足しなどでクルマのハンドルを握ってはいるものの、クルマの仕組みには不案内と思われるシニアの女性から、こんな意見が舞い込んだ。
「ブログを大変興味深く読ませていただきました。ただ、TOP NEWSのビビリ音については、広田さんって耳がよくないのかも? クルマの構造が解らなくても目の前のミラーがガタガタいう音なら素人の私にもわかる・・・」というものだ。
う~ん、なるほど。子供のころから、頭が悪い男と数えきれないほど言われ続けてきたが、耳まで悪かったとは、さすがの筆者も恐れいった。むろん、加齢による難聴症状は起きてはいるが。あまりにストレートすぎる切り口に一瞬返す言葉もない感じ。
手元にトヨタ自動車が整備士向けに編集した技術テキストがある。『振動騒音』の基礎知識からトラブル・シューティング法までを70ページほどにもわたり縷々(るる)解説している上級プロ向けの指南書。ライバルメーカーのクルマにくらべこの部門で劣るとしたら、売り上げを左右することにもなるため、傘下の整備士への懇切丁寧なメッセージが展開されている。このことからもわかるように、クルマの不具合のなかで一番厄介なトラブルは実は振動騒音なのである。
この本によると「左右の耳で聞いた音の差、つまり音の強さと周波数の位相差で、音の発生源を探ることができる。上あるいは下からの音の発生源を探るのは苦手なのである」。つまり、人間の耳は水平方向(X軸)の音源には比較的正確にその発生源を探れるが、上または下にあるY軸の音源の特定は苦手だということのようだ。だから、今回の騒音を聞かせた私を除く3名も、「右のメーターから音が出ている!」「いやインパネの中央からでは?」はたまた「グローブボックスの奥からでは?」というテンデンバラバラにその音源を指差した。誰もが水平方向に真犯人がいると決め付け、頭上から出ている! とは気づかなかった。
ヒトの認識のあやふやさという現象にひどく気づかされた事件だった。五感をテーマにした、ドイツ人作家・パトリック・ジュースキンの嗅覚をめぐる「パヒューム」(文春文庫)にも似た、よくできた推理小説を読んだ感じ、といえなくもない。(ちなみに表は、横軸が周波数、縦軸が音圧レベル。人間の音に対する感度をグラフ化したもので、先の技術テキストに掲載されている)