ホイールベースを決めてから、全体のレイアウトをまとめていくのは無理だった。それは最初スケッチ画を描いてみてよくわかっていた。百瀬の哲学は、「機械という存在が、人間にサービスするものだ。人間をさしおいて機械がのさばるのは技術屋じゃない」つまり、「人間ありきの技術」をいつも念頭においていた。いまの言葉でいえばMMI(マン・マシン・インターフェイス)である。
そこで、まずドライバーに必要なスペースを割り出してみた。ゆったりと座れ、ひどいオフセットをしなくてもいいシート、ステアリング、ペダルの位置を求めた。とりわけ着目したのはペダルの位置だ。「フロントタイヤのホイールハウスは半円弧状になる。その中心のくびれた部分、つまり車軸となる部分を車内から見ると、少しスペースがとれる。そのスペースにアクセルペダルを置けば、ドライバーの右足をまっすぐ伸びてアクセル操作ができるはず。普通の自動車のペダルがフロントタイヤの後方にある。そのペダルを少し前方にずらせば、車軸の当たる部分にできるスペースを無駄なく利用できる」。この着眼がすべてを決定した。
「フロントタイヤの車軸あたりにペダルを置き、大人4人を乗せるスペースをとったポンチ絵を描くと、リアのスペースが残った。通常のセダンであればトランクルームとなるところだが、そのスペースはまるでエンジンを置いてくれといっているようだった」リアエンジン・リアドライブにすればいいのだ。その絵はそのことを訴えていた。
だが、リアエンジン・リアドライブは、強い横風を受けたときに操縦安定性が悪いという側面があり、百瀬はそのことを充分認識していた。だが、限られた寸法のなかで、人間のスペース重視を優先してデザインするとどうしてもRRになる。FFだろうが、RRだろうが、どんな方式にも長所と短所があるものだ。だから、長所を活かし、短所をできるだけ技術で押さえ込めばいいのではないか、百瀬はそう考えた。