「真実は小説よりも奇なり!」とはよくぞ言ったものだ。
先日、ねっころがって眺めていたヘンリー・フォードの伝記「藁(わら)のハンドル」(竹村健一訳)にこんなくだりがあるのだ。ヘンリー・フォードはいうまでもなくフォード社の創業者で、「資本主義の基礎を築いた企業家の一人。自動車の大量生産方式を確立し、大企業とサラリーマンをこの地球上に発生させた人物」(竹村)である。
この本の中ごろに、「T型フォードを造りはじめてから数年前までは、ハンドルに木材を使用していた」とある。
いまでも高級車にはウッドハンドル仕様があるので、ここは少しも驚かないが、「木のハンドルは最上級の木材しか使えない、つまり精密さを要するので、高級材になる」ということの意味。そこで、ヘンリーは一計を案じ、よりやすく量産することが至上命題ゆえ、その当時大量に有り余っていた麦藁に着目。この麦藁にゴム、硫黄、珪土などの材料を混ぜ合わせ、チューブ状にする。あたかもミンチ肉のようになったカタマリを斜めに切断し、その外部をゴム状の物質でコーティング。1平方インチあたり2000ポンドの水圧で加圧し、1時間近く蒸気で熱して成型する。「取り出されたときには、このハンドルはまだ軟らかいが、すぐ火打石のように硬くなり・・・」最後に研磨され、鋼鉄の十字棒をはめ込み完了。コストは木材のときの約半分だったという。間違いなく当時のT型のハンドルは藁が使われていたのだ。
このゴムそっくりの素材は、「フォーダイド」を呼んで、電気系統など約45の自動車部品に使われたという。それにしても・・・成功者とはいかに貪欲な存在だということがわかる!?