10インチタイヤの提案は、サプライヤーのブリヂストンが大いに協力を惜しまなかった。当時10インチの規格がなかったので、規格作りからはじめ、乗り心地を高めたいという申し出に2プライ構造のタイヤを逆に提案してくれた。当時の小型自動車のタイヤは4プライが常識だったが、4プライでは乗り心地が硬くなるので、4プライの強度を持った2プライにすることで乗り心地と軽量化を両立させることになった。タイヤひとつからすでにチャレンジだった。
このころになると百瀬たちはシトロエン2CVだけでなく、ドイツのロイト400とイタリアのイセッタ300をサンプルとして入手し研究した。イセッタ(写真)はRR(リアエンジン・リアドライブ)で前輪とレッド1200ミリ、後輪520ミリというスクーターから進化したような車で、フロントパネルが1枚ドアになったユニークなミニカー。自動車を作るうえで自由な発想が大切ということをイセッタは教えてはくれたが、今回の百瀬たちが目指すプロジェクトには参考にはならなかった。むしろロイト400のほうが大いに参考になったようだ。このクルマは、スズキのスズライトが参考にした車両で2ストローク2気筒396cc13馬力エンジンをフロントに載せたFFレイアウトでホイールベースは2000ミリ。全長3450ミリ全幅1405ミリ、車両重量500kgであった。スズライトが540kgあったので、K-10の目標値350kgは、そもそも現実味があるのか担当技術者のあいだにいくらか不安が広がった。