旧いクルマなど、いまの安全基準に照らし合わせると1/5,1/10であるため(あくまでも感覚的な数字!)、とても乗れたものじゃない! と思うが、ふと出会うとグッとココロが持っていかれることがある。まるで初恋の女性に再会した気持ち? 人間なら、長い時間で変貌するが、クルマの場合は、昔のままのヨスガとオーラを感じられる。
そこでBMWイセッタだ。第二次世界大戦で敗戦国となった西ドイツのBMWが、1955年に庶民の足として発売した超小型車ISETTA250。エンジンは、BMWの4サイクル単気筒145ccOHVエンジン(圧縮比9.0)で、12PSを発生し、最高速度は85km/hだった。
じつは、このイセッタ、元の卵形のデザインはイタリアの冷蔵庫やスクーターを製造していた「イソ社」が手がけたもの。エンジンは、2ストロークで、BMWイセッタより2年前の1953年トリノショーで発表され、販売された。まるで冷蔵庫の扉のように車体前部がパックリと開く構造は、「二台のスクーターを横に並べ間に冷蔵庫を置いたカタチで作り出した」とまことしやかに伝えられるほど、斬新で愛嬌をかもし出す。3輪車に見えるが、48ミリのリア・トレッドを持つ立派な4輪車。
大人2人と子供一人が乗れるという変則的なマイクロカーは、本家本元のイソ社製がわずか1000台だったのに比べ、BMWイセッタの方は16万台を世に送り出している。その背景は、発売価格が2580ドイツマルクと、VMビートルの3960ドイツマルクにくらべずいぶん安く手に入ったこと。もうひとつは翌1956年エンジンを300ccにボリュームアップしたこともあった。だから、比較的いろいろなイベントや博物館で見かけることができるし、その気になれば中古車を手に入れることもできるようだ。
写真はBMWイセッタ250で、全長2285ミリ、全幅1380ミリ、全高1340ミリ、ホイールベース1500ミリ、車両重量360kg。