気持ちいい走りができて、燃費が良くて、コストが安い! そんなエンジンがあれば大流行するのだが、なかなか人間が開発するエンジンは、理想形にはならないようだ。
かつてM社が社運をかけてGDIエンジンを前面に押し出し、「わが社のエンジンはすべてこのエンジンで賄います!」とまで社長が大見えを切った。ところが、わずか10年もたたないうちに引っ込めてしまった。エンジンダイナモのある実験室やテストコースでは、何ら問題が出なかった直噴エンジンが、いざ市場に出してみると、ことごとくクレームの波が襲ってきたのだ。低速走行を続けたり、アイドリングを長くおこなうと、エンジンにススがたまり、ついにはエンジン不調を引き起こしたのである。プラグの接地電極を2つにしたり、3つにしても、根本的な解決にはならなかった。いわゆるシビア・コンディションでの走行には無理があったのだ(高速走行中心のオーナーは、いまでもM社のGDIエンジン車を愛用している!)。エンジンフードを開けると、途端にディーゼルエンジンのようなうるさい音を立てる! としてノイズの不満もあった。
でも、この直噴エンジンは、高負荷時に高い出力を得ることができ、直接燃料を燃焼室に吹くので、気化熱効果で、体積効率が向上し、耐ノック性がよくなり、圧縮比を高められ、燃費向上につながるなど魅力的な側面もある。だから、いまでも希薄燃焼方式からストイキ燃焼といわれる理論空燃比近くの燃焼方式にしたり、ススが溜まらないさまざまな工夫を凝らすなどして、各社それぞれ、徐々に改善を繰り返しているようだ。ということは、直噴エンジンは、「いま少しの未熟エンジン!」といっていいようだ。