「小さな車を作ることで常に西のダイハツと、いい意味のライバル関係。いつも鍔(つば)迫り合いを演じている」
スズキはそんな見方ができなくもない浜松発の自動車メーカーである。ところが、くらべるとスズキは先取り精神が一頭地を抜いていると思わせる時がある。最近なら2014年のハスラーの爆発的販売数だし、一昔前の1990年代なら1993年デビューのワゴンRがそのタイミングだった。
ワゴンR(写真)が初お目見えした1993年といえば、バブル崩壊で、先行きが不透明で、日本人が内向きになり、いささかしょぼくれていた時代である。じつは、この軽のワゴンというジャンルではホンダが1970年代にステップバンというクルマで先鞭を付けてはいたが、あまりにも早すぎた登場タイミングで、ごく一部の若者にしか理解されなかった。1990年代はじめアメリカのミニバンブームがあり、「かっこいいワンボックス」を求める市場が出来上がっていたのである。
貨物トラックから派生したキャリワゴンではユーザーの心が満たされていなかった。その意味ではワゴンRは当時の市場にド・ストライクだったのである。大人の男が道具としてのクルマとしてとらえた車だったのだ。