「ファースト・ワンマイル・モビリティ」という新しい自動車のジャンルをご存じだろうか? 略してFOMM(フォム)というそうだ。自宅から駅、自宅からカーシェア・パーキングなど、自宅からせいぜい1マイル(1.6㎞)ほど離れたところまでの移動をもっぱらとする新発想の“乗り物(モビリティ)”である。
大きさでいえば、マイクロカーと軽自動車の中くらい。先日、横須賀での催しでこうしたクルマの一台に遭遇した。商品名「FOMM ONE(フォム・ワン)」である。川崎にあるベンチャー企業が企画・生産し始めている4人乗りのEV(電気自動車)である。
マイクロカーCOMS(トヨタ車体製)の開発リーダーだった鶴巻日出夫さん(56歳)が指揮を執り、国内自動車メーカーの元エンジニアたちが知恵を絞り作り上げただけに、完成度は高い。後部と前席下部、計4個のカセット交換式電池を備え、EVの課題である充電時間を短縮。しかもスマホを使い蓄電池ステーションを知らせるというインフラまで編み出し、さっそく今年2月末からタイで走り始める。生産は、タイの工場で当初は月産800台、ゆくゆくは年産1万5000台を目指す。一回の充電での航続距離は約160㎞(エアコン使用時は約100㎞)、最高速度80㎞/h。
このコンパクトな「フォム・ワン」というEVがすごいのは、これだけではない。駆動輪のフロントにホイールイン・モーターを備え、なんと万が一水害などに遭ったとき水に浮くことができる。しかもホイールのフィンで歩くほどの速さで前に進める。水陸両用車ではないが、ボート代わりになる。これは福島出身の鶴巻社長が東日本大震災の教訓を生かしたユニークな機能である。いまのところ日本での発売はないというが、気になるクルマではある。